†死の宣告†
望む望まないにかかわらず、舞降りて来た権力と富。
俺には王の息子というだけで、他には何もなかった。
時間と金以外には、何もない。
何も自由にならない。
ほんとうに欲しいものはいつも、指の間からすり抜けていく。
今もまた。
「ジェイド・カーティス」
ようやく取り戻したのに。
ようやく戻って来たのに、俺の元に。
それなのに俺は、自らそれを放つ事を強いられる。
「明日のキムラスカとの戦い…」
行くな。
「お前が指揮をとれ」
違う。
行かせたく無い。
「必ずや勝利して見せましょう」
「……あぁ」
また、瀕死の状態で帰還する姿が脳裏に過る。
無事に帰還したところで、また大量の血を浴びて。
だめだ…もう、誰も殺すな…。
「期待しているぞジェイド」
それでも俺は、この男を放つ。
「それでは私は明日の準備にかかりますので失礼」
「………」
謁見の間を出ていく背中を、無意識に追い掛けた。
部屋の前まで。
部屋の中まで。
「…どこまでついてくるつもりです?私、着替えるんですが」
「おう、じゃあ着替えろ。俺の事は気にするな」
「…どうぞ御勝手に」
本当に俺の事など気にせずに、着替えを始める。
いつでもマイペースのこいつは、
俺の幼馴染みの譜術士ジェイド・カーティス。
またの名を…ネクロマンサー・ジェイド。
親父によって完璧に仕込まれたマルクトの殺人兵器は
それゆえに、誰からも狙われる。
敵からも、時には味方からも。
「………」
堅苦しい軍服が滑り落ちたその身体には、無数の傷痕。
何度も殺されかけた、死の淵の回数。
過去のトラウマなのか、この男は第七音譜を極端に嫌う。
その為 譜術による治療を受けたがらない。
だから奴の身体には、死にかけた数だけ傷痕が生々しく残ってしまう。
「傷」
「はい?」
「…また増えたな?」
「そうですねぇ」
適当な生返事。
どうして自分の身体にそうも無関心なのか。
まるで死ぬ事など恐れていないように。
元々だったのか、そうなってしまったのか。
「あいかわらずよく生きてるな」
「そうですね。私もそう思います」
「………」
親父が奴を戦地に放つのを、いつも苛々しながら見ていた。
戦闘経験も浅い内から無茶な状況の戦場で戦わされ続け
いつ死んでもおかしく無かった。
そのくらい、親父の奴に対する扱いは酷いものだった。
それだけ成長に期待をしていたということなのだろうが、
俺には、都合の良い道具を手に入れたようにしか見えなかった。
「………なぁ、ジェイド」
自分が王になれば、そんなことはさせないと思っていた。
だがそれは甘かった。
「なんですか?」
王になったが故に痛烈に理解する。
この男をこの国の為に利用しない手は無いという事を。
「明日…」
「はい?」
国民の為を思えばこそ…多少の犠牲は厭わないと。
そう、思わなくてはいけない事を。
「大規模な戦いになりそうだな」
「えぇ。…ですから私に指揮をとらせるのでしょう?」
「…そうだ」
今度こそ帰ってこないかもしれない。
今度こそ死ぬかもしれない。
俺が、行けと言ったせいで。
「ジェイド」
怖くなって、その腕を掴む。
「おや…どうなされましたか」
「…いや」
俺は皇帝だから。
もう、昔のように個人の意見を押し付ける事は出来ない。
やめろ、とか。いくな、とか。
気楽に言えたあの時とは違う。
この国の為に、俺はこいつを戦わせ続けなくてはならない。
平和が訪れるまでは、この国を護る為には
そうするしかない。
自分でそうさせておいて、俺はそれを責める。
親父が奴を道具のように扱うのを、苛々しながら見ていた。
そして俺も又同じように、こいつを戦火に放り込むんだ。
この国の王として。
俺は…。
「……大丈夫ですよ」
「!」
「帰って来ます」
まるで俺の心に応えるように、その声は。
「あなたはただふんぞり返って待っていればいいんです」
王としての俺を後押ししながら。
「私は…死にませんよ」
「ジェイド…」
ピオニーとしての俺に、語りかける。
「大体、貴方を残しては不安で死にきれませんからねぇ」
減らず口の憎まれ口。
それは俺を、あやしているようで。
「当たり前だ。お前は殺しても死なないだろう」
「失礼ですね〜か弱い譜術士にむかって!」
「誰が!」
あぁ、不安が消えていく。
下らない会話のやり取りのひとつひとつが
俺のこの不安をいつも消してくれる。
大丈夫だ…こいつが簡単に死んだりしない。
こいつが俺を残して死ぬわけがない。
そう思い、そう信じる。
そうすることでようやく、俺は王の顔に戻る。
戻る事が出来る。
だから俺は待つんだ。
玉座に座って奴の帰還を。
帰って来る。
あいつは今日もきっと帰って来る。
そして平気な顔をしてへらへら笑って、俺の前に姿を現すんだ。
ただいま戻りました、と。
そう信じて。
連絡が途絶えた。
俺が向かわせた目的地から、あいつの連絡が。
嫌な胸騒ぎ。
「陛下!アクゼリュスが崩落しました……!!」
「なっ」
「その中に…大佐が…カーティス大佐が…!生存は絶望的かと……」
恐れていた、その瞬間。
いつかは、こんな日が来るのは分かっていた。
俺がそうさせていたのだから。
でも…。
「……いいや…帰って来る」
「陛下…?」
そうだ、帰って来る。
ぜったい帰って来る。
「あいつは生きてる」
死んでなんかいない。
こんなくらいで死ぬもんか。
だから…帰って来るさ。
あれだけ何度も死にかけたお前が、
あれだけ何度も殺されかけたお前は、
いつだって俺の所に帰って来たじゃないか。
今回も帰って来るに決まってる…そうだろう?
だから俺は、玉座にふんぞり返ってそれを待つんだ。
そうすればきっとお前は、
平気な顔をしてへらへら笑って…俺の前に姿を現すんだ。
『ただいま戻りました』と。
end
拍手絵に引き続きジェイド傷痕捏造話。
いや、ジェイドの肌が真っ白で美しいのはわかってるよ?うん。
スパで充分拝ませて頂きましたから(笑)
でも傷だらけだと…萌えるじゃないですかv
そんなわけで傷ジェイド。
今回はダメな感じのピオニーの話をつけてみました。
即位してから大規模な戦闘ってなかったんだっけ?
まぁいいや。
ピオニーだけがジェイドの生存を頑に信じていた…
あのエピソードは萌すぎるよね。
どんだけ公認の絆だよっていう。
まったく早く公式ホモゲ−出ないかなこいつらは(本気)
2009.03.24