麗人

 

「すっかり騙されてしまいましたよレイナ姫」
デュファストンは愉快そうに笑い、そして言い直す。
「いえ…レイナ『殿』」
「………」
男装の麗人ならぬ、女装の麗人、レイナ。
デュファストンだけではなく、皆が騙されていた。
思い込んでいた。
彼が、『女』なのだと。
「この私を騙すとは…貴方は中々演技派ですよ?」
騙す事にかけては自信があった。
その自分を騙したのだかから、
デュファストンは驚きを通り越して愉快でならない。
「正体どころか性別まで偽るとは…それなりの理由がありそうですねぇ…」
「…………」
彼、レイナはその理由を誰にも語らない。
いまだに正体を明かさない。
気の置けない仲間にすら何も語らないのだ、
この胡散臭い侯爵になど、口を開くわけなどない。
「いえ、いいのですよ?何も仰らなくて」
だがデュファストンは、それを問いつめる風でも無く。
「そんなことは、興味ありません」
まるで、正体が何だろうとどうでもいいというように。
「それより私は…今とても残念な気持ちなのです」
デュファストンは大きく溜息をつくと、
レイナに歩み寄り怪しく微笑む。
「貴方が…殿方だったことに気付かなかった事が、ね」
「…!!」
その表情に殺気に似たものを感じ取り、
レイナは身を退いた。
だがそれよりも早くデュファストンの腕は退くその身体を捕らえ、
レイナは、一瞬にして床に倒されていた。
「…美しいですね、レイナ殿」
勇ましき女性のようで、
麗しき男性のようで、
中性的なその美貌。
組みしかれ怯えを覗かせるその表情に、
デュファストンは舌舐めずりをした。
「…な…にを…!?」
まるで喉を噛み切られるような威圧感を感じながらも、
レイナはデュファストンを睨み付ける。
「貴方も…女性の振りをしつづけて大変だったでしょう」
デュファストンの手はレイナの平らな胸をそっとなぞりながら下ると、
服の上からレイナ自身に手を触れる。
「や…っ!?」
「こちら、とか?」
くすくすと笑いながら、デュファストンはそれに
やんわりと刺激を与え始める。
「ずっと…自粛していらしたんでしょう?」
「や…め…ろっ…」
抗議の声をあげつつも、与えられる刺激に身体が震える。
その様を見おろし、デュファストンは愉快そうにレイナを嬲り続ける。
「貴…様…っ」
レイナは女と見間違えさせる事が出来る程の端麗な容姿ゆえ、
似たような境遇に陥った事もしばしば。
今までは鍛え抜いた武力で難無くはね除けて来ていた。
しかし目の前のこの男は、驚異的な力と威圧感でレイナを押さえ付け、
それを許さない。
始めて屈辱を受けるかもしれないという恐怖と焦りにレイナは暴れた。
「俺は…女ではない!このような扱い…ッ」
確かに女のふりをしてきた。
だが、本当に女として扱われるのは激しく不本意。
「おや、勘違いなさらないで頂きたい」
「!?」
抗議するレイナの唇に指を当て言葉をとめると、
デュファストンは微笑む。
「何もあなたを女性にしようだなどとは思ってもいません」
「…な…に?」
このような組みしいた状態で、他に何があるというのか。
レイナは訝しげにデュファストンを睨み付ける。
「申し上げたでしょう、貴方が殿方でとても残念だ、と」
「……?」
デュファストンは妖艶に微笑むと、再び舌舐めずりをした。
「貴方が殿方だとわかっていれば…もっと早くに喰らっていたものを」
「な…うっ!?」
手で弄んでいたそれを強く握ると、衣をはだけさせそれを導き出す。
「や…め…うあぁッ!」
直ぐにそれは生暖かい口腔内に包まれる。
長く刺激を絶っていた器官は敏感に反応し、
久々に与えられる雄の刺激で歓喜に震える。
「侯…爵っ! …やめ、ろ…っ」
「おや…ここでやめてよろしいんですか?」
抗議の声が本音では無い事をからかいながら、
デュファストンは旨そうにそれを吸い上げる。
「いい加減に…っ」
レイナの右手に何かが光る。
「!」
デュファストンの喉元には、
護身用の小さなナイフが突き付けられていた。
「戯れが過ぎるのではないか…侯爵?」
「おやおや、どこに隠し持っていらしたのか…用心深い事ですね」
だが刃をつきつけられたデュファストンは、
その刃物を見つめたまま臆する事もなく。
口元に笑みを浮かべた。
「スターグ教…」
「!!」
デュファストンの発したその単語に、
レイナの表情がびくりと強張る。
「敵対国であるスターグ教の偉人がここにいるとわかれば…
この国は如何なさるでしょうね?」
「…っ…!?」
紛れも無い脅しの言葉。
レイナの抵抗が止まる。
「貴様…」
「あぁ…御心配なく。貴方を売るような真似はいたしません」
そして脅しておきながら、それを否定する。
反応を楽しむために言っているだけのように。
「ですから、こんなものは御仕舞いになってくださいませんか?」
「!?」
気付くと、ナイフはいつの間にかデュファストンの手に握られていた。
「貴様…一体何者だ」
常人ならぬ動きでレイナを翻弄し、
まるですべてを見透かしているような謎めいた男。
この男がただ者では無いと言う事にレイナ
はようやく気付いた。
少なくとも、一領主のそれではない。
彼はおそらくレイナの正体をすでに知っている。
知っていながら、戯れに黙っているのだ。
何かの策略の為なのか、
それともただの酔狂か。
「勘繰るのはやめにしませんか?お互いに…」
デュファストンは妖艶に微笑みながら言った。
「人には…誰でも他人に触れられたく無い領域があるものでしょう?」
それはこれ以上勘繰らないかわりに、
踏み入ることも許さないという暗黙の警告。
「まぁ、そう気を張らないで下さいレイナ殿」
デュファストンの手は、再びレイナ自身を弄ぶ。
「私といる時だけは…貴方を『殿方』にしてさしあげますよ…」
そして程よく立ち上がったそれを満足そうに眺めると、
その上に徐に跨がった。
「な…」
「すべて私に御任せ下さい」
まるで蛇に睨まれた蛙。
その瞳で見つめられる事で身体の自由を奪われたかのように。
「さぁ…存分に私の肉を堪能して下さい、レイナ殿」
抵抗も出来ないまま、レイナは己の身体が
デュファストンに飲み込まれていくのをただ見ていた。





2008.07.28




偽装の麗人共の百合なお話。
この二人の絡みって耽美だなぁと思ったわけ。
ストーリー的に絡みはありえないけどね…。
でもこんなふうにデュフが裏で脅し(?)てたなら
充分有りな気もする。

いつもとはまた違ったネタバレ満載作品でした。



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