迷宮



「勇者殿」
「…なんだ」

「もうお止めになってはいかがです?」
「…何?」
「シェイプシフタ−ですよ」
「…………」
その名を口にするか、貴様が。
「奴は死んだ…魔神達もそう言っていたではありませんか?」
「…生きている」
そう、生きているんだよ。
「でもこれだけ探してみつからないのでしょう?」
いいや…みつけたさ。
「奴は、このベセクにいる」
そうだろう…?
他の奴は騙せても
俺の目はごまかせない。
「なぜ、そこまで奴にこだわるのです?」
「関係ないだろう、『部外者』のお前には」
「…………」
「なぜ、そんなことを聞きたがる」
「…やれやれ、意地悪なお方だ」

不機嫌になったその顔も、
まるで人のようだ。
うまいものだよ。
「勇者殿は、つくづく私を虐めるのがお好きですねぇ」
「どっちがだ」
いつになったら尻尾を出す。
すべてが嘘だとわかっているぞ。
これが罠だとわかっているぞ。
利用するだけ利用して、最後に始末する筋書きだろう。
わかっているぞ…俺は騙されん。

「…どうされました?私の顔をそんなに見つめて」
「…………」
「私の美貌に見とれていましたか?…ふふ」
「…くだらん。いくぞ」
俺が気付いている事を
貴様はまだ知らないだろう。
「あぁ、待って下さい勇者殿!」
だからそんな顔ができる。
だからそんな無防備になる。
殺気の欠片も表に出さず。
そうやって馴れ馴れしく、俺に触れる。

「そんなに早く歩かれなくても」
「無理についてこなくてもいい」
「つれないですねぇ…あいかわらず」

俺は いつでも、貴様を斬れる。
だが暫くは…利用させてもらう。
今はまだその時ではないからな。

それだけだ。
貴様を生かしている理由は…
それだけだ。
「あぁ…勇者殿、お待ちを」
「なんだ」
「動かないで下さい、先程の戦闘の傷が…血が出ています」
「何でも無いこのくらい」
「いいからじっとしていて下さい」
何をしている。
「やめろ」
なぜ、俺の傷を癒す。
「…さぁ、これでよろしいですよ」
「………」
なぜ、俺に微笑む。
なぜ、俺を助ける。
そんな事をするな、貴様が…!

「ねぇ勇者殿」
やめろ。
触るな。
「何をそんな不機嫌になっているのです?」
煩い。
「私が…何かしましたか?」
やめろ!!
「黙れ!」
「!」
そんな顔で俺を見るな。
「…勇者殿?」
あの人と同じ髪の色で。
あの人と同じ瞳の色で。
そんな風に俺を見るな。

「やれやれ…やつあたりですか?」
貴様のせいだ!
俺には迷う必要など、何もないはずなのに。
勇者殿は少々お疲れのようですね
ふふ、これは御機嫌が直るまで退散したほうがよさそうだ」
そうだ消えろ…。
消えろ!
俺の前から…消えてくれ!
残像め!
幻影め!
その美しい器で。
俺を、惑わせるな。
貴様は敵だ。
敵だ。
敵だ!!
これは人じゃない。
これは人じゃない。
これは人じゃない!!

迷うな…迷わされるな!
これもすべて、奴の罠だ!
「奥へ…」
そうだ、奥へ進めロンデミオン。
何も考えずにこのべセクの奥へ。
最深部に辿り着いた時、
俺の目的は果たされるのだ。
そうなれば…
もう、こいつを利用する必要も無い。
共に居る必要はなくなる。
生かしておく理由は、完全に消える。
「…少しは落着いたようですね」
「………あぁ」
気にしなければいい。
こいつが何をしようと何を言おうと。
所詮、最後には滅する存在。
「勇者殿、聞いてもよろしいか?」
「なんだ」
「シェイプシフタ−をみつけて…それで、どうされるのです?」
迷う事は無い。
「奴を倒す」
「…そうですか」
わかりきっていることだ、そんなことは。
なぜ、其れを俺に聞く。
「侯爵」
「なんでしょう?」
ならば貴様は
俺の問いに何と答える。

その偽りの器は。
「奴は…俺に会ったらどうすると思う」
「…………」
答えろデュファストン。
答えろ、シェイプシフタ−。
「…………殺すでしょうね」
そうか…。
それが貴様の答えなのだな。
「お前の意見が聞けて良かった」
「いえ…どういたしまして」

これで何も迷いは無い。
斬れ。
奴も、そのつもりでいるのだ。
迷うな。
殺られる前に…!
「勇者殿…怒らないで聞いて下さいますか?」
「…今度は何だ」
貴様の戯言など、間に受けなければいいだけだ。
勝手になんでも話せば良い。
「私は…このままシェイプシフタ−が見つからなければいい、
と 思っているんですよ」
ふん…どうした、怖じ気付いたか。
「奴が見つかれば貴方の目的は終る。こういう風に貴方とベセクを探索するのも
そこで 終ってしまうのでしょう?」
…………。
…突然、何を言い出す。

貴方といると退屈しません。この時間が終ってしまうのは、
少し寂しい気がするのですよ…

だから、何を…言っている…。
「…ふふ、何を言っているのでしょうね私は。あぁ、今のは忘れて下さい」
「…ッ…!」

嘘だ。
偽りだ。
その言葉もその表情も
全部偽物のはずだ。
貴様は何を考えている。
何がしたい。
俺をどうしたい…!
「…勇者殿!」
黙れ、もう何も…考えたく無い。
「楽しいお喋りはどうやらここまでのようです」
「!」
…魔神か…!
「…囲まれたな」
「ふむ…どれも雑魚レベルですね」
魔神は敵。
魔神は全て敵…!
「そっちのを片付けろ侯爵!」
「言われなくとも!」
こうして背中を預けて戦闘をして。
でもそれは全てが偽りで。
人間と、魔神と。
時がくれば、俺達は敵に戻る。
時がくれば…。

その時俺は
こいつを…斬れるのだろうか。







end

2008.06.08



ちなみに勿論デュフは全部演技です(オイ/笑)
でもロンデミオンは振り回されっぱなしなのよ
あの可愛い子猫チャンに(笑)


デュファストンは王家の血を引く者。
髪の色も瞳の色も、姫と同じなんですよね。
金の髪に翡翠色の瞳。
おそらくこれは王族独特の容姿なんでしょう。
他の人は金髪でも瞳の色違いますしね。
テ−ジを見てロンデミオンが驚いていたエピソードから察するに
どうやらロンデミオンのかつての思い人はテ−ジによく似ているようです。
きっと
妖しげな美しさをかもし出す人だったんでしょうね。
当時のロンデミオンが27歳ですから、
年齢的にはテ−ジがあと10歳くらい大人になった感じなんでしょう。
そういやデュフって姫の中ではテージに一番雰囲気似てますよね。
きっとテージも10年後はデュフみたく妖しさに更に磨きがかかって…
て、考えると…あれ? もしかして…
デュフって実はロンデミオンの思い人に似てんじゃね?
ていうかむしろ、わざと似せたんじゃね!?
とか思っちゃったわけ。
やりそうでしょ、奴なら。



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