「おや旦那、お出かけですかい?」
侯爵様、今日も御機嫌麗しゅう」
愚かな下等生物共。
鬱陶しい。
「クック−!クック−!」
「カウポー!」
纏わりつくただの食肉。
鬱陶しい。
「おかえりなさいませ旦那様」
飽きもせず尽くし続ける小煩い執事。
鬱陶しい。
全てが、鬱陶しくも下等。

ここが俺の、偽りの居場所。



偽物の私と偽物の其の場所。



外出から戻ってみればなんだというのだ、
この雑然とした屋敷内は。
「…なんですか?この有様は」
「今日はクク達が旦那様の為にと屋敷中を掃除しまして…」
「クク達が?」
肉が、俺のために、だと?

「あぁ、怒らないでやって下さいませ。彼等に悪気はないのです」
「クック−!」
「テリビス…」
ただの食料の分際で下らない事をする。
目障りな奴らめ、いっその事喰ってやろうか。
…喰う?
そういえば、ククの肉を久しく口にしていないな。
…そういえば、ファルサスも口にしていない。
いつからだ?
……『私』が『生まれてから』か?
「まったく…もう一度ちゃんと片付けさせなさい」
なぜだ。
「はい旦那様 」
こうも長く肉を欲しないなどありえない…。
「よう、ようやく戻ったな遊び人」
「!」
屋敷の奥から出て来たのは住み着いた偽勇者。
本人は俺を見張っているつもりらしい。
まったくもって鬱陶しい存在。
「貴方には言われたくありませんねぇ」
「はっ…違いねぇ」
いつまで此所に居座るつもりだ。
「定職も持たない俺も人の事は言えんからな」
「まったくです」
戦う目的のなくなった傭兵など塵同然。
利用価値の亡くなった駒など無用の長物。
ただの屋敷の居候。
邪魔だ。
今夜にでも殺してやろうか。
「所詮俺等は過去の幻影。そうだろう…?」
耳元で囁くのは
俺の、名前。
偽りでは無く、本当の。
この男は俺の本当の姿を知りながら
性懲りも無く俺の器に触れたがる。
酔狂な奴だ。
「ん…っ…」
…だがこの行為は、嫌いでは無い。

ふん、殺すのは…明日にしてやろう。



「旦那様。最近、楽しそうですな」
…なんだと?
「ロンデミオン様が屋敷に来られてから、
随分と自然にお笑いになられる」
…俺が?
「そう…ですか?」
「えぇ」
何を知った口をきくか。
下等生物め。
貴様が俺の何を知る。
「このバスチョ、長らく旦那様のお世話をさせて頂いておりますが、
今程旦那様が楽しそうなお姿は拝見した事がございませんでした」
「…………」
下等な肉の固まり、ファルサス共。
…肉の分際で、小賢しいことをいいやがる。
鬱陶しい!
「おや、今日もおでかけですか旦那様」
「えぇ、夕方には戻ります」
それならば、
なぜ俺はここに帰って来る?
…そうだ、喰うためだ。
そうに違い無い。
「今宵のお食事は肉になさいますか?それとも魚?」
愚問。
肉にきまっているだろう。
貴様の肉だ。
ファルサスの肉だ。
ククの肉だ。
この街の住人全てを捧げよ…!
俺は魔王シェイプシフタ−だぞ!
そんな事も気付かないのか。
つくづく下等な生物だ。
下等すぎる。
愚かすぎる。

「そうですね……今日は、旬の野菜を頂くとしましょう」
喰う気も失せる…。
「承知致しました。お戻りになるまでに用意致します」
「頼みましたよバスチョ」
なぜ、俺は肉を欲しなくなった。
「いってらっしゃいませ、旦那様」
なぜ俺はそれで平気で生きていられる。
『人』だからか?
25年もの長きに渡り
『人』として生きていたからなのか?
ふむ…。
『人』
というものは
『肉』を喰わずとも生きていける生き物…か。
そのような生き方も存在するものなのだな。
………………。
…なぜだ。
なぜ俺は今そんなことを考えた。
理解できん。
俺は、どうなってしまったのだ。
不愉快だ。
奇妙な気分だ。
俺は長く人でありすぎた。
感覚がおかしい。
演技が終らない。
もう誰を騙す必要がある?
もう何を隠す必要がある?
もう正体を明かし
こんな街喰らい尽くしていいはずだ。
なぜ、俺はそうしない。
なぜだ!!
………。
くくく…。
わからぬ。
こんな気分ははじめてだ。
この俺をこんな気分にさせるなど…
ファルサスめ、俺に一体何をしやがった。
人。
人間。
ファルサス。
くだらない。
つまらない。
だが…不思議な生物だ。

「おかえりなさいませ旦那様」
「クック−!」
「おう、早かったな」
そうして私は
今日もここに帰って来る。
「……………ただいま戻りました」

私は…デュファストン。
バルダミアン王国のデュファストン侯爵。
ここは
偽りの私の、一時の居場所…。




end

2008.06.18




ED後もそのまま人の振りし続けて
ちゃっかり街に居座ってそうな気もするんですよ。
そして人を演じてる内に人間に絆されて迷いを見せ始めるデュフ。
そんなのデュフも可愛んでね?と思って妄想しちゃいました。
いや、普通に平気で喰らいそうだけどねデュフ様くらいになると(笑)
なんだか一つ前の話と繋がってるみたいだね。
まぁそういうことにしておくか(適当)

ところでバスチョって人間なんだろうか魔神なんだろうか。
人って前提でかいちゃってるけど、ひょっとしたら魔神なのかも。
でもまぁ人だとしても、バスチョだけは
デュフの正体知ったうえで仕えてる気がするんですよねぇ。
旦那様ラヴだなこのエロ執事め(違うから)

 

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