「口程にもないですねぇ…」
「貴様のその霊圧は…!」
ベセクのとあるエリア。
酔狂な提案で戯れに燻りだされた魔神は、
戦闘中に気がついた。
目の前の男の、正体に。
「…おっと、おいたが過ぎると楽に逝けませんよ?」
それを黙らせるように、耳元に囁かれる脅し。
穏やかな口調で、とてつもない威圧感を含んで。
間違い無い。
紛れも無く、あの男。
魔神は確信した。
「…フン…死んだものと噂聞いたが…」
まさか、勇者と呼ばれし男に同行しているとは。
「こちらも色々事情がありましてね」
まわりには聞こえないようにかわされる会話。
『魔神』マンティギガス、そして『侯爵』デュファストン。
二人は顔馴染みだった。
友では無かった。
味方でも仲間でもなかった。
だが、敵では無かった。
かつては。
「あいかわらず酔狂なやつだ…」
戯れに人を狩っていた男が、
今度は戯れに魔神を狩る。
だが、その行動の理解しがたい気まぐれな所は、
昔と変わらないといっても良かった。
どうやらこの侯爵とやらが、あの男だということは
疑う余地も無い。
「一体何を企んでいる」
「貴方に言う必要はありません」
「ふん…そんなに人間ごっこは楽しいか?シェ…」
その名を言いかけた途端、デュファストンの剣先が空を舞う。
「ウグッ!?」
「おいたが過ぎると言ったでしょう…?」
切り裂いたマンティギガスの体液を顔に浴びながら、
デュファストンは微笑む。
その先は言わせないと言うように。
「…なるほどな」
マンティギガスはその反応に事情を悟った。
「どうやら…奴には正体を知られたくないようだな?」
ぴくり、とデュファストンの眉が動く。
「バレてないと思っているのか?俺が気付いたくらいだぞ?」
「なんのことでしょう」
とぼけているのか、はたまた自信があるのか。
「あの男は貴様を仲間だなどとは思ってもいないぞ」
「……いいえ。私は彼の『仲間』ですよ」
その口が紡ぐと、とても白々しくも嘘に聞こえる言葉。
「ほほう…ならば試してみるか…?」
突然、マンティギガスの手がデュファストンを鷲掴みにした。
「!!」
「おっと…余計な事はしない方がいいぜ」
咄嗟にその手を切り刻み振り解こうとしたデュファストンに、
マンティギガスは言った。
「『人間』は魔神に押さえ付けられたら簡単に振り解けないものだぜ? 」
「な…」
「もっとも…貴様の本来の力をもってすれば雑作も無い事だがな。
そうすりゃバレるぜ?貴様の正体が。いいのか? 」
「………」
振り解こうとした力が、消える。
「貴様…なんのつもりだ」
不愉快そうに発せられた口調は、貴族らしく無い声色。
「ひとつ愉快な賭けでもしようじゃないか」
マンティギガスは低く笑い声をたてながら言った。
「奴が貴様の危機に助けにくれば、それは『仲間』だということだな。貴様の勝ちだ」
「…ほう」
「そして助けなければ…賭けは貴様の負けだ。俺が貴様を喰う」
「…なるほど」
酔狂なゲーム。
嫌いではなかった。
「勇者殿は私を助けますよ」
そして、自信。
「どうだかな?」
「助けます」
「ならば交渉成立だ」
周りには聞こえないよう密談は成立し、舞台は開演する。
「かはッ…!」
突然デュファストンは苦しそうに大袈裟なうめき声をあげた。
うまいものだった。
「侯爵!?」
別の魔神と戦っていたロンデミオンが、
その声に気付き振返る。
その視界には、己の数倍もある巨体の魔神に
押さえ付けられている デュファストンの姿。
それをみたロンデミオンは…。
「…何を遊んでいるんだ侯爵」
一言、言った。
心配というより、むしろ呆れているように聞こえる。
マンティギガスは笑いを押し殺しながら言った。
「くく…見ろ、やつの態度を」
「…あなたの演技が緩いからですよ」
不愉快そうに、不満そうに。
デュファストンが目でマンティギガスに指図する。
もっと本気で襲い掛かれと。
「ふん…いいだろう」
マンティギガスは掴み上げたデュファストンを空に掲げると、
鋭い爪先で衣服を切り裂いた。
「!」
赤い絹の裂け目から白い肌が現れ、
その白い肌が裂かれ赤い筋が走る。
「貴様、なん…っ」
本気でやれとは指図したが、自分の身体に傷をつけられた事が腹立たしく、
デュファストンがマンティギガスを睨み付ける。
「くく…女がいなくて残念だと思っていたところだが」
だが舞台は、すでに始まっていた。
「この貧相なファルサスで我慢してやろう!」
マンティギガスの太い爪先が、
デュファストンの閉じた蕾を無理やりこじ開ける。
「は…あっ…!?」
突然の挿入に、デュファストンの背が仰け反る。
女好きな魔神、マンティギガス。
女を残虐に陵辱するのが、彼の趣味。
女のいない勇者一行の中にいて、若く美しいデュファストン。
マンティギガスが彼に目を付けたとしても、自然な流れだった。
「いい演技をしな…」
小声で耳打ちすると、マンティギガスは爪先で
デュファストンの内肉を擦りあげる。
「う、あッ…!」
突き抜けるような痛み、
そして。
「はっ…あ、あぁん…v」
快感。
「………は?」
その様子に驚いたのは、勇者では無く、むしろ魔神。
「…っあ、あん…いぃっ…v」
激しすぎる様に見えるその動きにも、
次第にデュファストンの声色はとても己に素直で、
苦痛では無く明らかに官能の喜びに満ちていて。
とても気持ち良さそうに、とても嬉しそうに。
「く……くっくっく…とんだ淫乱になったものだな…?」
マンティギガスは、思わず笑いを零してしまう。
なにしろ、かつての姿からは想像もできないのだ。
この25年で彼に一体何があったのかは知るよしも無いが。
「人の身体はそんなにイイのか?」
人として生きた25年が、彼をこうさせた事だけは確か。
「は…はぁ…んあっ…v」
耳打ちされる言葉を受けても、その様は変わる事無く。
かつての残虐な破壊神は、手の中で凌辱に歓喜し
美しい人の姿で、女の様によがる。
「よがるのはいいが…奴に助けでも求めたらどうだ?」
だがいたぶられている筈なのに、
これでは楽しんでいるようにしか見えない。
楽しんでいる相手を助けようと思うやつなどいないではないか。
このままでは賭けにもならない。
「少しは辛そうにしろ!」
強制的にそうさせてやろうという思惑か、
擦られる孔に、爪がもう一本つぷりと挿される。
「はひ
ッ…!? 」
ぐいっと孔が広がり、デュファストンの其処に
太い爪が二本、
内臓が傷付くくらい奥まで捩じ込まれた。
「はっ…ああぁッ…!」
一瞬、声が強まり身体を震わせたデュファストンではあったが。
「んあ…ああっv」
デュファストンは、それでも快感を禁じ得ない。
想像以上の淫乱ぶり。
これでは、襲われている演技になっていない。
「……侯爵」
その様を見ているロンデミオンが、大きな溜息を漏らした。
「遊びは後にしろ!本気で戦え!」
「あ、あん…勇者殿ぉ…だって…v」
「いい加減にしろ」
「あぁ…んv」
だがむしろ、これが自然だったのだ。
勇者はこの男を好色な侯爵だと知っているからこそ、
この場はこの仕打ちに喜んでこそ自然、その方が演技だと疑われないのだ。
「なるほど…」
マンティギガスは、『侯爵』が『勇者』にどう思われているかを理解する。
いつもふざけた気まぐれ淫乱男。
敵に捕まっても、敵に嬲られても、
それは手を抜いて遊んでいるようにしか見られていないようだ。
どうやら勇者の目にはこの光景は仲間の危機的状況ではないらしい。
それでは、賭けが成り立たない。
この男の余裕が消えなければ、勇者の本音は見えないのだ。
その余裕をなくさせてやらなければ。
「ん…ぁ…?」
ずる…と、深く刺さっていた指が抜取られる。
「あぁ…ん、もっと…v」
「そうか、もっとイイのが欲しいか」
名残り惜しそうに身体を震わせるデュファストンを持ち直すと、
くるりと返しその顔がロンデミオンに見えるように向きをかえさせる。
既に他の敵を倒し終ったのか、
腕組みをしたままこちらを見ているロンデミオンと
デュファストンの視線が合う。
ロンデミオンの視線は、
心配しているというよりは冷ややかに観察しているよう。
それも仕方がないだろう。
何しろこの時のデュファストンの表情は、
明らかに悦びに満ちていたのだから。
「だったら…こいつでどうだ?」
マンティギガスの腰の布の下から、
禍々しくも歪な突起が現れる。
その毒々しい器官の先端は、
デュファストンの半開きの蕾に押し当てられた。
「んあっ…v」
拡げられる刺激に恍惚の表情が浮かぶ。
だがそれもつかの間だった。
「…あ…?っ、あああああぁッ!?」
メリ…ミシッ…ゴリッ…
驚異的なその大きさに、デュファストンの骨格が軋みあがる。
『人間』の許容出来る限界値。
「うぐ、ッ貴様っ…!?」
デュファストンが殺気走った目で背後を睨み付けるが、
マンティギガスはそれに構わず、肉と骨の限界を強引に貫いた。
「ーーーー!!」
ドスン、と奇妙な音を立て、
凶器はデュファストンの肉の中に埋め込まれる。
赤い線の走る白い腹がボコリと突き出し、
張り裂けそうな程に競り上がった。
「あ…っ…がああぁぁッ!」
デュファストンが赤い体液を口から吹いた。
反射的に手足が引き攣り、肉体が破壊される苦痛に痙攣する。
流石の淫魔も、器の限界には余裕では居られないようだ。
「まさか貴様をこのように嬲る日がこようとは…」
いつも自分を虫けらでも見るような目で蔑んでいた存在が、
いまこの手の中に。
「悪く無い…」
自分の思うが侭になる。
魔神として生まれ持つ支配欲が、満たされていく。
『格上』を嬲る快感。
「くく…いいぞ…」
ズリュ…
「ひ…ァ!?」
ズリッ…グジュ!ズルッ…ヌジュ!
「ぎっ…ひ、ひぃッ!このッ…貴、様っ…殺…ッ」
深く突き刺さった凶器が、
デュファストンの内臓を激しく抉り始める。
ゴリゴリと骨を擦りながら、
甲殻に覆われた巨大な凶器が、硬く歪なその茎で
柔らかな肉の中を我が物顔で往復した。
「やめ…っ、ぐあッ!ヒィっ…ッああアァ!」
デュファストンの威圧の声は、もはや悲鳴以外何ものでも無かった。

「はッ…ぐ…ぅっ…」
悲鳴は次第に薄れ、朦朧とした意識のデュファストンは
突かれるままにその身を揺らす。
「ほら…見ろよ」
そんなデュファストンの髪を掴み上げて顔をあげさせると、
マンティギガスは耳元で囁いた。
デュファストンの意識のあるうちにと。
「奴はこんな貴様の姿を見ても微動だにしていないぞ?」
目の前の男は、腕を組んだまま
先程となんら変わらない態度で自分をみているのが
デュファストンの視界に映る。
「貴様を助ける気など微塵も無い、という態度だよなぁ?」
剣に手をかけるでもなく、観察するように仁王立ち。
それは仲間が窮地に立たされている男の様では無い。
「どうだ、このまま…腹を突き破られて逝くか?」
「あぐッ…!」
ズボッ、と勢い良く突き上げられ、
デュファストンの腹が更に競り上がる。
「それとも…奴の前で正体を現し俺を八つ裂きにするか?」
「ッ…!!」
それだけは、できない。
ロンデミオンの前で姿を現すなど…今は、できない。
「ゲームオーバーだな」
ルルルルッ!!
デュファストンの体内を埋め尽くす凶器が、
勢い良く引き抜かれる。
「ヒ…!!」
常人ならば意識が吹っ飛ぶ程の刺激。
「ならば…逝け!」
常人では無いがゆえに繋ぎ留めた僅かな意識に
凶器が、根元まで一気に突き刺さる。
「賭けは俺の勝ちだな…シェイプシフタ−!」
「ぐ、ああああああぁッ!」
最後の方は、悲鳴にかき消されて。
「は……ぁ…勇………の…」
突き破れそうな程に腹が突き出したデュファストンは
『人間』の限界を迎え意識を手放した。
最後まで、人のまま。
がくん、と完全に頭を垂れた。
「くくく…最後まで崩さぬか。その片意地が貴様の敗因…
ならばその肉、我の糧とーーー 」
勝ち誇った口調のマンティギガスの爪が
デュファストンを切り裂こうとしたその時。
「……な?」
切り裂こうとしたその腕が、切り落とされる。
「何!?」
そして、次にはデュファストンを掴んでいた方の腕までも。
ドサリ、と落とされた腕ごと地に落ちるデュファストンの前に
大剣を握りしめた男が着地する。
「き、貴様!?」
まったく助けようとする気配など無かった男が、
突然の攻撃開始。
「何故…!?」
まるでデュファストンが意識を失うのを合図のように。
「逝け、魔神」
その不可思議な行動に疑問を思案させる間も与えぬまま、
ロンデミオンの剣がマンティギガスを両断する。
「グガアアァァ!!」
崩れ落ちる巨体の残骸を背に、ロンデミオンは愛剣を振り汚れを払った。
飛び散る体液が、地に叩き付けられた男の白い身体にびちゃびちゃと降り注ぐ。
「……ふん」
ロンデミオンは地に伏した男を見おろした。
ぐったりとした身体に、美しい横顔。
「起きろ」
その頬を2、3度打つが、ぐったりとした身体は動かない。
どうやら、演技ではなく本当に気絶しているらしい。
「まったく…自力で殺れるだろうが」
倒せない相手などでは無かった事は百も承知。
芝居だった事も百も承知、最初の方は。
どうやら途中からは、この男にとっても予想外だったようで
本気で苦しんでいただろう事は、ロンデミオンにもわかった。
「俺が貴様を助けるとでも、本気で思ったか?」
だが助けてなどやらない。
「そんなわけないだろう」
絶対に助けてなどやらない。
この男の意識のある内は。
だから待ったのだ、気絶するのを。
『ロンデミオンが自分を助けた』という事象が
この男の記憶に残らないように。
「まったく…」
助けずに放っておけば、あのまま格下に殺されていたと言うのに。
それでも最後まで人の姿を保ち続けたデュファストン。
いったい何の為に。
いったい何を期待して。
否、それすらも…演技だったのか。
「あまり手を焼かせるな」
ロンデミオンは気を失ったままのデュファストンを掴み上げると、
獲物を運ぶ猟師のように粗雑に肩に担ぐ。
「さっさといくぞ……シェイプシフタ−」
ロンデミオンは宿敵の名を呼び、歩きだした。




2008.12.30



追い詰められるデュファストンとかかいてみたかったのです。
人間じゃ無理だな…と思ったので相手は魔神に。
マンティギガスとデュフの会話がお気に入りだったのでお相手に抜擢。
本当はトリニティとデュフの会話が一番エロくて使いたかったのですが、
奴、結果的に多数決でメスってことになったんだよね(笑)
オスだったら絶対ネタにしてたんだけどなぁ。
魔神とデュフの会話といえば、ダリアレギーナとの会話も好き。
なんか、ダリアレギーナってデュフの元カノっぽく見えるんですよねぇ。
なんか会話が意味深だったじゃないですか。
魔神の擬人化とかってのも面白そうだなぁ。

戻る