†覚えのある感覚†
「ーーーこれは一種の催眠術です、彼の言葉を聞いちゃいけない……!!」
敵の術の正体に気付いた八戒は、言った。
悟空を除く三蔵一行は今、敵の術中に堕ちている真っ最中。
耳から入る情報が、かつての記憶と経験の中からその情報に見合った現象を抽出し
ホンモノさながらの光景を幻覚として見せる。
視覚だけではなくその触覚も、嗅覚も、聴覚も、五感全てにおける脳の記憶を
あたかもその幻覚が現実のように感じさせる。
それがこの、雀呂という妖怪の術だった。
「き…聞くなったって……!!」
耳と言うのは手で塞がなければその聴覚を閉ざす事ができない。
だが敵前で耳を塞ぐなど、両腕を拘束されたも同前の行為。
「どうすりゃいいんだ!?」
今、彼らの体には無数の蛇が絡み付いていた。勿論、幻覚だ。
だが脳に蛇という生物の視覚的記憶と触覚が記憶されている限り、
その光景は紛れも無く現実の感覚なのである。
「くそっ…!」
「おわッ!」
一行に襲い掛かる蛇の群れは、色、大きさ、太さが
おそらく一人一人違うビジョンとしてその目に映っているだろう。
それぞれの脳が記憶している一番強い『蛇』の印象を使用して。
だが蛇に襲われているという『幻覚の現実』だけは三人とも共通なのだ。
「蛇なんていない…!これは…幻…」
必死に二人に叫んだ八戒の首元を締め付けられ、言葉を途中で邪魔される。
「くぅ…!」
体中をずるずると無数の蛇が這いずり回る。
脇腹、内股、そして胸元から首に向かって、
蛇がゆっくりと八戒の躯を擦りあげる。
「…ッ……!」
ビク、と八戒の体が震えた。
チロチロと覗かせる二股に別れたハ虫類の舌が、
咄嗟に頭を降った八戒の首筋を刺激する。
「あ…っ…」
八戒の口から、この場に不似合いな声が漏れた。
「…ん…?」
それを見た雀呂の口元が、にやりと笑った。
明らかに他の二人と違う反応を示した八戒に、雀呂の好奇心と凌辱心が煽られたのだ。
「…どうした猪 八戒…?その蛇はそんなにテクニシャンか?」
「あ…」
その言葉は無防備な八戒の耳に入り、直ぐに幻覚の情報へとすり変わっていく。
首に巻き付いていた蛇はするすると体を這い降り、胸の突起をチロリと舐めた。
乳首を舐められた時の記憶が、脳の海馬から呼び出される。
「っ…!」
舐められれば興奮するという情報が、
実際には八戒の体にあるはずのない快感を導き出す。
経験の記憶が強ければ強い程に、より鮮明に、明確に。
「ホラホラ、…ぼけっとしてると服の中に潜り込んでいっちまうぞ?」
「ひ…ッ!?」
一匹の蛇が八戒のズボンの中に潜り込む。そしてまたもう一匹、
前と、後ろから八戒の服の中に侵入して行く。
「や…!!」
「くく…蛇の締め付けは程よく気持ちいいだろう?ほら…
貴様の先端を何匹もの蛇が舐めあげているぞ…ホラ…」
「は…あっ、あッ…あッ…!」
雀呂の言葉通り、きゅう、と八戒の性器に巻き付き絶妙な強さで蛇が締め付ける。
その先端に幾匹もの蛇が群がり、つなぎ目や孔を舐め始める。
「や…あぁッ!」
経験の記憶が想像の中から一番近いだろう刺激を
意志とは裏腹に八戒の脳に伝える。
「…ッんの、こんな時に感じてんじゃねぇよ淫乱バカッ!」
「んなもん聞くんじゃねぇ!てめぇが自分で言っただろうがッ!」
三蔵と悟浄が術にはまり始めた八戒に罵声に似た声をかけ、正気に戻そうとする。
だが、既に八戒の耳には雀呂の声しか聞こえなくなってきていた。
「くく…お前等だってほら、もう蛇に絡まれて身動きがとれないじゃないか?」
「な…に!?」
三蔵と悟浄に絡み付いた蛇が一際きつく巻き付き、二人を拘束する。
「くそッ!」
雀 呂は二人に対しても、抜かり無く催眠を施す事を忘れない。
既に完全に術に堕ちている八戒を、たっぷりと、
邪魔をされずにじっくりと嬲る為に。
雀呂は目の前に捕えた獲物に舌舐めずりをした。
「あぁ…猪 八戒、お前のアヌスは随分とモノ欲しそうにしているな…」
「え…っ…」
ビクン、と八戒の体が引き攣る。
「蛇の頭がホラ…お前の孔を狙っているぞ…」
「い…や…ぁっ!」
実際に蛇を体に受け入れた経験など、あるはずは無い。
だが八戒の脳は、記憶の中の一番近いものをソレとして変換し、八戒に伝える。
何度も、入れられた経験のあるもの…それは、八戒にとって人のペニスだった。
指先で触れた事のある蛇の感触が、記憶にあるペニスの質感にコーティングされていく。
そして蛇の手触りのペニスが、『蛇の頭』の記憶として出来上がる。
「ほぅら…入っていくぞ猪 八戒…」
「ひ…」
ズ…
八戒のアヌスを鬼頭の感覚に酷似した鎌首がこじ開ける。
「お前の中に…どんどん蛇が入っていくぞ…!」
ズ……ズズ…ズブブ…ズッ!
「ひ…ヒ、ひィッ!!」
蛇の頭が、ずるりと八戒の中に飲み込まれる。
倒れそうになった躯を、八戒は気力を振り絞って踏み止めた。
ズル…
「う…!!」
躯の内側をハ忠類が蠢き出す。
「なかで動かれるのはイイか!?猪 八戒!はははは!」
グチュ、グリュ、グジュ
「うあ…あーーッ!ひ…くぅッ…んんッ!」
そして、きっと蛇ならこう動くのではないだろうか、
という余計な無意識の想像が、八戒を自爆に導いてしまう。
うねる蛇の動きは、バイヴの激しいくねりの感覚を類似代替させる。
「八戒!」
「変な想像してんじゃねぇよ!そんな経験ないだろうが!その感覚は偽物だ!」
だがすっかり術に堕ちた八戒には、そんな声はなんの効果も無い。
「あ、アッ…あぁッ!ひ、はぁっ!」
グジュ…ジュブ…ズリュ
内側をうねり、入口を擦りながら出入りするウロコの感触。
性器に纏わりつき締め付ける蛇の体。
胸の突起を、弱い耳朶をちらちらと舐める二股の舌。
「あ…ああぁッ…!!」
それは想像にしては明確に、幻覚にしては生々しく八戒を犯した。
ずぷ…ずるっ!
ぐちゅ…ぬるっ!
「ひ…いぁっ!はぁ…あぅっ…」
次々と入れ代わりで侵入して来る蛇の群れ。
過去の輪姦された経験が、生々しく八戒の記憶を代替させる。
雀呂はすっかり術に堕ちた八戒を観賞し、満足げに口元を歪ませた。
「くく…そろそろ充分楽しんだろう…」
「はぁっ…あぁ…んはぁッ…!」
「八戒!!」
「阿呆がっ!目ェ覚ませっつの!」
しばらく蛇に犯され続けた八戒は、ふらつく脚を必死に踏ん張り、
正気を見失う瀬戸際をぐるぐると彷徨っていた。
もう、何も耳に入らない。
雀呂の声以外は。
「さぁ…フィナーレといくか」
雀呂は独り言のように呟いた。
そして、八戒に向かって語りはじめる。
八戒に新たな現実を味わわせるために。
「……なんだ、よく見たらそれは蛇じゃ無いな」
「え…!?」
それまで『蛇』に犯されているのが現実だった八戒は、
絶対的な声である雀呂の声にその対象が蛇ではないと言われ、
体に喰わえたままのソレのイメージがぐにゃりと歪む。
「それはーー」
雀呂がにやりと笑う。
「人間の手だ」
「!!!」
ふ…、と八戒の思考が一瞬停止する。
そして、脳の中で『人間の手』の記憶が検索される。
「八戒!」
「聞くな!!」
「あ…」
無理な話だった。
『人間の手』というあまりにも想像するに容易い物質。
そして、
『実際に挿入された記憶』が生々しく残る八戒の脳にとっては。
メリ、メリ…ミシッ!
八戒の体内の『何か』が次第にその太さと硬さを増していく。
「あ…」
ミシ…ゴリィッ!!
そして、ついに節くれだったゴツゴツとした拳に変化する。
「アアアアアアーーーッッ!」
八戒は絶叫した。
かつて経験した、決して忘れる事など出来ないような、
拷問のようなあの苦痛に。
「ひ…ぎゃああぁッ!うあああーーッ!」
ごり、ごり、ごり。
雀呂が何も言わなくても、その握り拳は八戒の腸壁を擦る。
八戒の脳が、そう記憶している為だ。
『人間の手』は中に入るとそう動くモノだという事を。
「嫌あああぁッ!嫌ァーーッ!」
「八戒!落ち着けって!…っても無理だろうな…」
言って、悟浄は苦笑する。
あきらかに、八戒が今何を思い出しているかなんて
悟浄にはわかっていたからだ。
心当たりがあるから。
…それはつい先日の事。
『大丈夫だって八戒!』
『嫌…だめ!無理です!無理ですって…』
『大丈夫!いくぜーーー♪』
『や…ッ!』
ごりぃッ
『ーーーーーー!!!』
面白半分で無理矢理フィストを喰らわせたら、
それはもう、酷い痛がり様だった。
そして八戒は泣叫びながら最後には失神してしまったのだ。
今の八戒は紛れも無くあの時の感覚なのだろう。
もしその経験がなかったなら、人間の手と言われたところで
どんな感覚なのか解らず、その想像はそれほどの苦痛ではなかっただろう。
もしかしたら正気に戻り、術からさめる事も出来たかもしれない。
だが、八戒の体に拳を挿入された痛みの記憶がハッキリと残っている以上、
想像するなと言っても無理なのだ。
「ひ…うあ…」
無数の手が八戒の脚を、そして腰を掴み、
膝から力が抜けた八戒の体を引っ張った。
ずぼ。
「あ…」
腹の奥底に拳のブチ当たる感触、記憶にあるその感覚。
雀呂が不敵に笑った。
「おわりだな猪 八戒」
「八戒ーー!!」
名前を呼ぶ声が遠のいていくような感覚の中、
八戒の体が崩れ落ちる。
そして、八戒の姿は幻界から…消えた。
end
実際は最初に脱落したのは悟浄ですけどね。
いえね、こういう使われ方しちゃったら八戒さんがいい餌食になりそうだなぁと♪
蛇の時点でいやらしい!とか思ってたのに、途中で人間の手に変わるなんて…なんて過激!!(何が)
本誌を見ながら色々妄想していたので、妄想じゃ飽き足らず書いてしまいました。
他にもこういう事考えちゃった人たくさんいるよね?(いねぇよ)
雀呂、結構好きなんですよ馬鹿で(笑)術もイイですよね。
だってあの術って、実際こういう使い方本当に出来ちゃうって事ですよね?おいしいなぁ。
2003.9.21