「イスルギ様」
「なんです?」
「我を妾にして下さい」
微笑む優しげな表情が、そのまま暫し静止する。
「……妾、の意味はわかっているのですか…?」
「はい!愛するお方の為に身を尽くす者のことです」
間違ってはいない。
だが一般的には身体の関係を持つ情婦の事。
「妾になればお傍に置いて頂けるのでしょう?
ならば我はイスルギ様の妾になりとうございます」
誰かに聞いた何かの話を勘違いして鵜呑みにしたのか、
小龍はいきなりそんなことをいいだした。
「…なぜ、妾なのです?」
こういう場合、それを言うならせめて『妻』だ。
「だってイスルギ様は、妻を娶らないと仰ったではないですか」
そういえば、そんなことを言った事があった。
たとえ慕う者が出来たとしても、
イスルギの時間の流れの中ではそれは一時の事。
妻や夫とよべるほどに添い遂げることなどできない。
だから、そのようなものはつくらないのだと。
それに龍神であるイスルギには、性別などあってないようなもの。
己の分身を残す事も己の身一つで事足りる。
子孫を残すという意味での伴侶の必要性がない。
だから、イスルギは妻を娶らない。
そういう話をこの小龍の前でした事があったのだ。
イスルギを慕う幼子は、それでもなんとか傍にいる方法を模索した。
その結果が、これらしい。
妻は否定されたが、それ以外は否定されていない。
妻がだめでも妾ならどうだろうという、
幼い単純な理論だった。
勿論、妾の詳しい意味など知るよしもない。
妻ではないが、同じように愛される者、という程度の認識だ。
「…我ではだめでしょうか…やはりその資格は…」
「いいえ…そういうことではないのですよ…」
イスルギはまだ幼い小龍の落胆した頭を愛おしげに撫で、
目線の高さに身を屈めると優しく言った。
「ですが…私と貴方とでは共に歩めるのは僅かばかりの限られた時。
妻でも妾でも同じことなのですよ…わかりますか?」
「………」
神であるイスルギと小龍。
いくら龍の時が他の種族より長くとも、
神のそれには到底及ばない。
たとえ傍にいたとしても、神を見つめたまま己は朽ちて行く。
それは幼い龍にも理解できた。
本当に神の傍に居たいのなら、その方法はひとつだけ。
「…ならば」
小龍は、決意する。
「我は至竜になります」
共に同じ時を歩む為に。
己を磨き、人を超え、龍を超え。
「ですから…」
小龍は甘えたような目線でイスルギに伺いたてる。
「その時は…我を妾にしてくださいませぬか?」
結局、話はそこにもどってきてしまう。
至竜になれば、敬愛する神の妾になれる、と。
その辺がまだ幼い思考の現れだった。
だがイスルギはそんな幼き発言の中に、堅き信念を見抜く。
決して勢いでそう言ったのではないことを。
「…本当に、至竜を
目指すのですか?」
「はい!」
選ばれた御子。
生まれながらの神童。
その動機は幼くとも、その決意は堅い。
やはりこの道を選ぶ事になるとは。
時が来たら諭すはずだった道が、
周りが決めるまでも無く自らの意思で。
これもまた運命、か。
「……わかりました、約束しましょう」
「それでは…!」
「貴方が至竜になった暁には、我が妾に迎えましょう」
イスルギは小龍に手にした物を差し出した。
「これは…」
朱色の扇子。
イスルギが肌身離さずもっていたものだ。
それを他人に渡すと言う事は、何か深い意味を含んでいるのだろう。
「貴方が持って居なさい」
「…よろしいのですか?」
「えぇ、受け取りなさい」
「…はい!」
差し出された扇子を受け取ると、
小龍は嬉しそうにそれを握りしめた。
小龍にはまだ大きなその扇子。
「イスルギ様…我は必ずや竜に至ってみせます」
この扇子が丁度良く手に馴染むその頃には、
立派な成龍となり、そして至竜へと。
「…待っていますよ、セイロン」
「はい!」


それは幼き無垢な願いより始まり
自らの運命を知っているかのように
今、至るべき道へと進む。





無謀にもイスルギ様のイラストかいちゃった。
外見わかんないから想像でしか描けませんけど…ってこれ前に守護竜で同じ文面かいてるよね(笑)
想像ですがイスルギ様は性別不明な外見で、きっと見目麗しきお方なんだとおもうんだわな。

理想としては、長くて美しい緑がかった黒髪だといいなぁて。
しかしさすがに顔をかく勇気はなかった…(苦笑)

なんかこの話書いて思ったけど、このサイトのセイロンはかなり八方美人ですねぇ…?(苦笑)
だって守護竜とも似たような事約束してるもの。そんな話かいちゃってるもの(笑)
でもきっとこのイスルギ様との約束が一番最初で、最終的な約束でしょう。
たとえあちらこちらでぶらぶら浮気したとしても(笑)、
最終的には故郷に戻って、イスルギ様の隣に落着く予定なのですよ。(あくまで予定/笑)
至竜になって戻ってきたら、ちゃんと『妾』のお仕事もしなくちゃならないしね?(笑)

若総受の野望作品、イスルギ様×セイロンでした。


2007.06.26

 

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