失楽園
act:7 血に飢えた狂気
この男がここに来てからどのくらいの時間がたったのだろう。こうして、汚され続けるこの男を黙って監視し続けてどのくらいだろうか…。
「は…はぁ…はっ…」
乱れた呼吸を吐きながら、組みしかれた龍人は雄の性欲をその孔に受け続ける。
殺してはいけない、そう命の下されたこの男の扱いは、専ら性的拷問へと化していた。命を奪う程の傷は付かず、精神と肉体を確実に弱らせる。そうしてギアンにより集められた仮面の兵士達は、代わる代わる絶えまなくセイロンを犯し続けていた。何度も貫かれ擦りあげられた其処は痛々しくも腫れ上がり、爛れ捲れあがった粘膜が肉の動きにあわせて見え隠れする。自尊心の高い者なら発狂してしまいそうな、仕打ち。
「どんな様子だいクラウレ」
地下牢に入ってきた主人に、その様子を黙して監視していたクラウレが目線をあげる。
「あいかわらず…です」
「そうか」
肉体は大分弱っていた。だが、その精神は…。
「…随分醜い様になってきたじゃないか。なぁ若君?」
「御陰様でな……」
声のする方を睨む瞳は、その光を失わずに赤く輝く。高圧的で反抗的な瞳。
「…嫌な目だ」
自分と同じ赤い瞳、赤い髪。組み敷かれて尚、自分を睨むその男。ギアンはそれが気に入らない。
「もっと…みっともなく媚びたらどうだい?」
ギアンはしゃがみ込んで組み敷かれる男に話し掛ける。
「生憎…そのような事はしたことがないのでな…どのようにするのかが我にはわからんのだよ」
憎々しくも生意気な言葉を返す龍人に、ギアンが失笑する。
「…まだまだ余裕というわけだな?」
伸ばされたギアンの腕が組みしかれた男の顔をあげさせようと、角を掴んだ。
「!!」
ビク、と過敏に揺れるセイロンの身体。
「……?」
予想外の反応にギアンは一度その手を止め、そしてもう一度軽く握った。
「……っ…」
また、ビクリと反応を返す。
「…ふぅん?」
視線を逸らすセイロンを見つめるギアンの口元が歪んだ。
「角が…どうかしたのかい?」
「…………」
セイロンは黙ったまま、何も答えない。
「クラウレ?」
後ろにいる男に返事を促せば、その男は一寸間を置いて答えた。
「角は……龍人の最大の弱点にございます」
「結構」
その答えを聞いて視線を下げたままの龍人をもう一度見おろすと、ギアンは愉快そうに微笑む。
「角は…大事だものな?あぁ…よくわかるよ」
スル…と、ギアンの親指の腹が角を撫でた。
「…っ…」
明らかに其れまでとは違う反応を返すのを確認すると、ギアンはその手に力を込め角を握った。
「ひァッ…!」
たったそれだけで、過敏な反応を示す。
「やめ…っ…ぁ!」
握った手を緩め角の根元から先へと滑らせると、押し殺した嬌声を漏らしセイロンが身体を震わせる。
「くっくく…まるで性器だな?いや、それ以上か?……いいのかい?気持ち良いんだろう?」
下半身をいくら弄ばれても相手をきつく睨み付けていたセイロンが、角を軽く擦っただけでこんなにも呼吸を乱す。身体に与えられ続けている刺激よりも強く、脳に直結しているかのごとく強い刺激がギアンの手により与えられ、あがりそうになる声色を必死におさえながら組みしかれたセイロンは抵抗を見せる。このような場所でそのような声をあげさせられる事は、相手に屈したという屈辱の証。
「は…なせ!離さぬか……ッ!」
身体に受ける苦痛や刺激に耐える事は出来ても、角に与えられる刺激には、そう耐えられるものではなかった。それほどセイロン…いや龍人にとって角という部位が敏感な所なのだ。
「ふむ…」
恰好の玩具を見つけ執拗にその角を弄ぶかに見えたギアンの手は、その声を聞き不意に動きを止めた。
「そうだね…何も君を喜ばせる必要は、これっぽっちもないんだったよ」
急に興味なさそうにそういうと、いとも簡単にその手を離した。
むしろ、その方が不気味な程に。
「そんな事より…」
ギアンは立ち上がると、辺りにいる仮面の男達を見回した。
「そろそろこの男達に飽きて来た頃だと聞いてね、新しいのを用意してあげるよ」
「……っ」
すでにこの男達には全員に陵辱されていた。彼らは顔が皆同じなのでわからないが、一度だけではなく何度か巡っていただろう。
最初にこの男達が襲い掛かってきたときは、セイロンは激しく抵抗し罵倒し、暴れた。だが度重なる暴力に次第に弱り抵抗を緩め、耐え忍び体力を温存する方針に切り替えていた。それは周りから見えれば「慣れ」「屈服」あるいは「飽き」にも見える。
「もうすぐ来る頃なんだが…」
何か約束でもしていたのかギアンはちらりと時計をみる。どうやら約束の者は予定より少し遅れているようだ。
「どうせなら、それまでにストラでもかけておいたらどうだい?」
「………結構だ」
セイロンは、あれきり一度もストラを使っていない。正直なところ、肉体的には大分参っていた。だが、ギアンの指示で回復をすることは、プライドが許さない。ストラで回復させそれを嬲るのがギアンの趣味だというのならば、あえて自らストラを封印するという無言の抗議。幸か不幸か命を取られる事はいまの所ないようで、ストラを使わずともこうして耐え続ける事が出来ている。どうせストラをかけたところで、再び同じように傷つけられていくのだ。ならばそれは、無意味。痛みを初期化する行為にすぎない。
「己が死に直面すれば自主的に使うでしょう…放っておけば宜しいかと」
「ふん…そうだな」
クラウレがセイロンを睨み付ける。その瞳は あの時言った事を忘れるな、とそう言っているようだった。
「………」
セイロンとて、忘れたわけでは無い。ただ、この者達の見ている前では使いたく無いのだ。彼らの前で使用するということは、暴力に屈した弱い己を晒すことだ。だからといって己が生を捨てるつもりは無い。もし生命にかかわる事態に陥ろうものなら、即座に回復をするつもりでいる。約束を果たす為に。その為には恥もプライドも捨てる覚悟。
だがいまはまだ、その時では無い。まだ、耐えられる。
「…来たか…」
丁度その時、階段を誰かが降りて来る音がした。一つでは無い、複数だ。
「あ、あの…ギアン…さマ…」
その足音は牢の前で立ち止まると、中にいるギアンに躊躇いがちに声をかける。気弱で臆病そうな声。
「あぁ…待っていたよカサス。入りたまえ」
名を呼ばれ入ってきたのは獣人の青年だった。金の髪がまるで鬣のような、整った顔立ちの青年だ。彼は目の前の光景に脚を止めると、一瞬絶句する。
「そのひト…なんデ、ここに居るですカ!? な、何…しテ…ッ!?」
そのカサスと呼ばれた青年はセイロンの事を知っている様子だった。セイロンもその男の姿を見るが、どこかで見かけた記憶は無い。もとラウスブルグの者ならば、セイロンの事を知っていてもおかしな事では無いので不思議な事でも無い。それ程セイロンはラウスブルグでも異端で目立つ存在だったのだから。
だがここでセイロンが気にかかったのは、彼が何故自分を知っているかでは無く、何故彼がギアンに呼ばれたか、だった。
「それより、連れてきてくれたんだろう?」
「は、はイ…体格の良イ戦士、たくさん、たくさん連れてきたでス…」
カサスの後ろには、獣化した獣人達が何人も連なっていた。どれも逞しい巨体だ。皆急に呼び出されて何事かとざわめいているようだ。
「それでは…彼らにもあの中に混ざって貰おうか」
「!」
カサスが驚いて言葉を詰める。あの中、とは今目の前で行われている、その中、の事だ。今のギアンの言葉を聞き、少なからず動揺している捕らえられた敵の一人が、枷で拘束され更に手足を押さえられ凌辱を受け続けている、その輪の中。
その中に、この巨体の獣人達を混ぜ同じ事をしろというのだ。
「そんナ!そのひト、獣人に比べてとても小さい…!そんなコトしたラ…」
「カサス」
ギアンが笑顔でカサスに近付くと、腕をクラウレの方に伸ばした。
「………」
クラウレが、その腕に無言で鞭を渡す。
「まずは…君が部下にお手本を見せないとね…!!」
ピシィ!!
「な…ッ!!」
振り降ろされた鋲のついた鞭が、カサスの皮膚を切り裂いた。
「うあァッ!?」
悲鳴をあげたカサスが裂けた傷口を押さえ後ろによろける。
「そなた…部下に何を…!」
「まぁ…見ていたまえよ…」
己の部下に対して突然の暴力を振う行為は、敵とはいえセイロンには見すごせない事態だった。だが此所にいる誰もその行為に驚く事も無く、然も当然のように受け止めている。異を唱えるのはそれを初めて目にするセイロンただ一人。
「あ…アぁ…あっ…血…ああッ…!!」
「な!?」
興奮したように取り乱すカサスの様子に驚くセイロンの目の前で、男の筋肉は着ていた衣服を破り数倍にも膨れ盛上がり、全身に覆うような毛を浮き上がらせる。肉体そのものが完全に異質なものへと変貌する獣人化。だが彼はそれら獣人の一般的なそれよりも、異常な程に変質している。
そして数秒の後、青年の姿はもうそこにはなく、一人の獣が立ち尽くしていた。
「こやつ…獣皇!?」
セイロンを知っているはずだ。その男は、獣皇だったのだ。
「君は見た事がなかったのだろう?紹介しよう、我が同朋『獣皇』カサスだ」
先程までの気の弱そうな好青年の面影は見る影もなくなり、鼻息荒く涎を垂らした口元が唸り声をあげている。まさに野獣という風貌に変貌していた。その目の焦点が、合っていない。
「…強制的に狂わせておるな…!?」
意志が、力に負けている。暴走する己の肉体に精神が負けている。もうここに、先程の青年の意志はないのだろう。獣の本能と力が暴走するように攻撃的な気を放出させている。
「だったらどうだと言うんだい?君には関係ないだろう」
ギアンは獣皇の胸を軽く叩き注意を引くと、セイロンを指差した。
「さぁ獣皇…よく聞くんだ。目の前のこれは子供達を手込めにしようとした恐ろしい龍なんだ」
「な…!?戯言を…我がいつそのような真似をしたというのだ!」
突然、ギアンは茶番のような言葉を語り出す。
「だが安心したまえ、子供達は私が安全な所に救出したからね。さぁ…お前の可愛い子供達に手を下すとどうなるか、この色情魔に思い知らせてやれ。この龍が子供達にしようとした事をそっくりそのまま返してやるんだ」
まるで、催眠術。
「グルルル…!」
ギアンのその言葉を理解出来ているのか、獣皇は言われるが侭セイロンに狙いを定め歩み寄る。覆い被さる獣の影がセイロンを包み、そして大きな獣の手がセイロンの脚を掴む。爪が皮膚に食い込んだ。
「く…ッ…放っ…」
あまりの力に抵抗もできず、セイロンは引き摺るように獣皇に引き寄せられ脚を開かされる。その開かれた脚の間に、獣皇の野生が姿を現した。聳え立つ肉の塊。
「…う…!?」
そのあまりの大きさに、セイロンが絶句する。今までに辱めを受けたどの其れよりも、桁外れに大きい。セイロンの腕…いや、脚程もある太さ。
男達に陵辱され続けてきた其処に、その凶悪な物体が押し付けられた。捲れた其処に熱く硬い塊を感じてセイロンの身が強張る。
「や……め…っ…」
今までのような苦痛では済まない事は明白。それ以前に、行為そのものが不可能にも思える。それでも獣皇の力は凄いもので、入らないはずのモノを強引に押し付け、其処をメリメリと拡げ始める。
「ぐ…うゥ…ッ」
最後の足掻きとばかりに、セイロンは弛んだ身体に力を込めそれに必死に抵抗する。この力を緩めてしまえば、身体を壊され簡単にこの獣の餌食と成り果てるだろう。
「そんなに力んでいては入らないだろう?もっと…力を抜きたまえ」
「くあッ!?」
耳元で、ギアンの声がしたと思うと、脳に激しい刺激が流れる。
「心配する事はないさ…このくらい、入るものなんだよ、人の身体というのはね」
ギアンの手がセイロンの角を掴んだのだ。そしてその手が、角の表面を絶妙な力加減で撫で上げる。
「ひぅ…ぁッ…!」
思わず身体の力が、抜けてしまった。不覚、と思った時にはもう後の祭りで。
次の瞬間には、物凄い圧迫感がセイロンの身体を貫いていた。
「あ…うああああああぁーーーーッ!!」
悲鳴をあげるセイロンの身体が、ズズッ…と獣皇の身体に近付く。赤い雫が数滴、床に垂れた。
「ははは、ホラ…ちゃんと入るだろう?」
拡張しきれずに切れてしまった菊が太い肉を半分程飲み込んだところで、獣皇の動きが止まった。
「ハァ…はぅ…ぐ、…ッ…あ…」
セイロンは苦しげに呼吸をし胸を激しく上下させる。
既に獣皇はセイロンの奥深く侵入し、彼の腹を内側から薄らと競り上げる程になっている。だが獣皇ほどの力をもってすれば、強引な突破も雑作ないはず。
「やれやれ…相変わらず甘いことだ…」
ギアンがあきれて溜息をついた。
「どうやらカサスがね…これ以上君を傷つけたくないらしいんだよ」
「グルル…」
狂った獣に成り果てたと思われた青年の意志が、行動を止めさせたと言う。彼は狂いながらも、僅かばかりの意識をちゃんと共存させていたのだ。その意志が、この行為を拒み、セイロンを壊す事の意味を見い出していない。獣の瞳が、悲しげに沈んだ光を放つ。暴走する己の身体を制御しきれずに、苦しんでいる。
この男は、決して争いや血を望んでなどいないのだ。
「まぁ…カサスの意見を尊重してあげなくもないよ?彼の態度次第ではね」
カサスの鬣をペットでも撫でるように手を滑らせると、ギアンはセイロンを見おろす。
「…媚びろ」
薄笑いを浮かべセイロンにそう言い放った。
「さぁ…媚びるんだよ。情けなく、みっともなく、命乞いをするんだ」
自分に平伏す高貴な者。それを踏みにじり、嘲笑う快感。全てが自分に従い、思い通り。そうでなくては、ギアンは自分の存在を保てない男だった。いままで手に入らなかったモノ全てを夢中で追い求める様に。
「はぁ、はぁ…っ……」
セイロンは呼吸を整えると、ギアンをできる限り睨み付ける。そして引き攣った笑みを浮かべ、言った。先程と同じ言葉を。
「媚び方など…知らぬよ…」
屈しない。屈するくらいなら自らを断つ事とを選ぶ男。だが自らを終らせる迷いを捨てた今、セイロンにはこうするしかない。最後まで、力には屈しない意志を曲げぬ事。
「……そうかい」
ギアンは手にした鞭の先を左手に握ると、右手を引きピンと鞭を張った。そして、その鞭を振り上げる。
「だったら…こうだよ!」
風を切り、鞭が唸る。
ピシィッ!!
振り降ろされた鞭は、セイロンではなく、カサスに。
「グガアアァアッ!」
獣の悲鳴と共に、獣皇の瞳が狂気に染まる。理性が消え去った瞳は、迷い無くセイロンの身体を掴み、引き寄せた。
「!!」
セイロンの瞳が大きく見開かれる。
「ウああああァッーーー!!!」
今度は、龍の悲鳴。沈んだ身体が、獣皇を一気に根元まで飲み込んだのだ。セイロンの腹が獣皇の雄の肉の形に内側から競り上げる。ポタポタッと赤い体液が数滴勢い良く垂れる。
「…良い形になったじゃないか」
ギアンはその突き出た腹を撫でると、セイロンの皮膚の上から獣皇を握りしめた。
「あがァッ!?」
ビクン、とセイロンの身体が跳ねる。
「まだまだ余裕だろう?」
ギアンは突き出た獣皇の亀頭をセイロンの腹越しに握ったり力を緩めたりして刺激を与える。
「ぐがッ…ア…!」
セイロンの脚が数度虚しく空を蹴った。だがすぐに身体に襲い掛かる異変にその脚はびくびくと痙攣するように動きを止める。ギアンの手によって次第に獣王が硬度と体積を増し、セイロンを更にメリメリと押し拡げ始めていたのだ。床に垂れる雫が1滴、また1滴と増えていく。限界を越え、軋み出す身体。
「壊されながら犯される気分はどうかな?若君」
「……っ…ぁ…」
もはや言葉を返すという行動が出来ず、セイロンは苦しそうに口を開き必死に呼吸をする。こんな状態では意識を保っているのがやっとで、相手を睨むなど到底出来そうになかった。
「さぁ、やれ獣皇…犯れッ!!」
ピシィ!
ギアンの鞭が三たび獣皇に唸る。
「ぐガあああぁあーーーッ!!」
獣なのか、龍なのかわからない悲鳴があがる。セイロンを掴んだ獣皇の手が、動き出した。乱暴に離した身体に亀頭を埋めたまま、すぐにまた根元まで突き刺す。まるで己の手で己のモノを自慰するかのような動きで、速く、激しく。
悲鳴をあげる龍が獣の手の中で人形のように揺れる。
「苦しいか?辛いか?若君…」
「ああああああァァーーーッッ!!」
ギアンの声は、悲鳴にかき消される。相手の耳に届いているかもわからない言葉を、ギアンは構わずに呟いた。
「これが、生あるものの最下層だよ…」
狂喜に光る赤い瞳は、満足そうに揺れる身体を眺めていた。
2007.04.01