飛べ…ない…っ
もう、飛べない…よぉ…
惨劇のあの場所からある程度の距離を保った事で
必死の逃走で分泌されていたアドレナリンがおさまり
脳内モルヒネが効れる。
今までどうして飛べていたのだろうというほどに、
右の翼が動かせない。
左だけを必死に羽ばたかせてもバランスは取れず、
決死の覚悟で右翼を動かせば、
飛び散る血飛沫と 気を失う程の激痛。
速度は落ち、高度は下がり、
方角も定まらぬまま空を彷徨う。
(にぃ…ちゃん…)
兄に示された場所に、いかなくてはならないのに。
『アークランド』に向かわなくてはならないのに。
(ごめん…にいちゃん…オレ…もう……)
右に左にふらふらとマナの潮流に流されながら
さながら舞い落ちる木の葉のように
少年の身体は重力の餌食となる。
眼下に迫る木々が次第に鮮明に見えて来る中、
高くのびた枝が、少年の右翼を掠めた。
ーーーーー!!
少年の意識は、そこで途絶える。
end
ファングの幼少のお話。
2010.08.20