PARDONER

 

 もし、過去にもどれるならば私は…生まれたばかりの私を殺したい。
「どうした?ジェイド」
「………」
 平和になればなるほど、考えてしまう。
「もし、私がいなければ…世界はどうなっていたでしょうか」
「…は?」
 フォミクリーは生まれず、ホドは沈められず。
 ヴァンがこの世界を怨むこともなかったろう。
 ルーク・フォン・ファブレの人生が歪められる事もなかったろう。
 師匠だって、死ななかった。
「まぁ、あくまでも仮定ですけど」
「ジェイド…」
 見てみたいものだ。
「タイムマシンでも本気で開発してみましょうかねぇ」
「お前な…」
 自分のいない世界。
 自分の殺された世界。
「お前がいなくたって、ホド戦争は起きた」
「でも島は沈まなかった」
「沈んだかもしれない」
 すべてが予言に読まれていた事象だといわれても。
 その発端を担ったことに変わりはしない。
 混沌の元を辿れば、辿り着くのはこの私。
「すくなくとも…沈んだ原因は私の研究じゃ無い」
 もし、過去にもどれるならば。
 世界が乱れる前のあの瞬間に戻り、私はまっ先に生まれたばかりの私を殺す。
 これから起きる全てが消え去るように。
「お前がいなかったら、ルークや導師イオンはどうなる?」
 私によって生まれてしまったあるはずの無い命。
「生まれる事もなければ…消える事も無いでしょう」
 それが、自然の摂理。
 理不尽に生み出され、理不尽に消滅することなど…。  
「その程度かジェイド」
「!

「共に旅した仲間に対する思いは、自責の念から生じた感情か?」
「………」
 彼等を見守り、そして見届けた。
 それは私の義務だ、と…感じたからだった、はず。
 すべての責任を認める事しか、できなくて。
「違うだろう。あいつらはたしかに、生きている楽しさを感じ、短いながらも己の生を全うした」
 彼等は悩み、苦しみ、もがき…そして生まれた意味を知った。
 自らの手でみつけ、そして、選んで。
「それを奪う権利はお前にはないぞジェイド」
 彼等は…幸せだった?
 いや、そんなはずはない。
「お前はたしかに世界を乱したかもしれない。でも、世界を建設する一端を担ったろう」
「単なる結果論です」
 それは自分の造り出したもので、自分の造り出したものを沈めたに過ぎない。
 自分のしくじりにつぎ当てをしたに過ぎない。
「壊れなければ建設する必要もなかったのですよ」
 貴方との約束を、私は破ったのだ。
 あれほど忠告された、貴方の言葉を。
「そんなに自分が気に入らないか?」
「…いいえ、私は自分が大好きですよ?」
 だから周りを犠牲にできる。
 だからあんな事ができた。
 だから、今ものうのうとこうして生きている。
 自分勝手で我侭だから。
「可愛さ余って…なんとやらですがね」
 だから…殺したい。
「ジェイド、俺は…少なくとも、お前が生まれて来て良かったと思っている」
 どうして。 
「それは光栄極まりないですねぇ」
「茶化すな」
 貴方との約束を、私は破ったのに。
 その約束を犯した私を、その事を、何故貴方は責めないのだろう。
「俺がもし過去に戻れるなら… 過去の自分を殺しに行ったお前を殺すぞ」
「な…」
「その俺をお前が殺しに行くというなら、更に俺がそのお前を殺しに行く!」
「……は?」
「俺は絶対にとめるからなジェイド、今のお前を消させる事を。お前を殺してでも!」
「………」
 あぁ、なんだか面倒臭くなって来た。
「…何笑ってる」
「いえ…あなたは本当に馬鹿な皇帝だ、と思いまして」
 どうしてこの人は、こんな私を。
「だから頭脳明晰な側近が要る。…だろ?」
 そんな風に、受け止めてくれるのだろう。
 そんな風に、認めてくれるのだろう。
 こんな私を、ありのままの今のこの私を。
 それでもいいと。
「まったく…苦労します」
 貴方といると、少しだけ錯覚する。

 私は…もう許されてもいいのだろうか、と。

end




2009.03.22

 

 

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