「まさかこんな華奢な野郎とはな
縛り上げたその男を床に転がす。
どれほどの厳つい大男かと捕えてみれば、
白い肌に美しく整った顔立ち。
それが数々の味方部隊を壊滅させてきた驚愕の敵将の正体。
「散々手こずらせてくれたぜ…!」
今日も捕らえる為に、小隊が2つ、中隊が1つ全滅した。
「流石のネクロマンサー殿も年貢の納め時だな」
多大な犠牲の下にようやく捕えた、死者の軍隊の師団長。
ネクロマンサー・ジェイド。
「俺の兄貴を殺した男だ」
「俺の親友もだ」
「私の師匠もです!」
憎しみを一身に浴びながら、ネクロマンサーは言う。
「…それが、戦争というものですよ」
「黙れ!!」
腹を蹴りあげられ、長い髪がその衝撃に舞う。
「…楽に死ねると思うなよ」
ぐい、と髪をひっぱりその顔をあげさせる。
「ふん、女みたいな顔しやがって…」
白くきめ細やかな肌に妖艶な赤い瞳。
長く顔にかかる髪はまるで誘っているかのような色気を放つ。
「上に引き渡す前に…な」
背中を押さえていた手が、身体をなぞりながら下り始める。
上着の裾をまくると、身体のラインの露なインナーに手がかかった。
「死に匹敵する屈辱を味わわせてからだ」
掴んだインナーを引き降ろすと、
35の男のものとは思えない白い綺麗な尻が顔を表す。
「おやおや…そのような趣味がお有りでしたか」
美しい顔が、怯えも見せず、微笑する。
「何がおかしい」
相手を馬鹿にしたような、見下したような。
余裕の微笑。

「いつまでそうしてられるかな、ネクロマンサー・ジェイド」
そんなものはただの強がりに違い無い。
両手を拘束され敵の陣地にただひとり、
そんな男に何ができるものかと。
誰もがそう思って居た、この時は。
「どれ…」
白い尻を無骨な手が撫でる。
ぴくん、と身体が反応を示したのを見て、
薄ら笑いが沸き起こる。
「感度は宜しいようで?ネクロマンサー殿」
「…お誉めにあずかりありがとうございます」
嫌味に返される減らず口に、舌打ちする。
こんな状況でも、この男にはまだ余裕があるというのか。
だが彼等とて、屈辱の与えかたくらいは心得ているのだ。
方法は暴力だけでは無い事を。
「噂じゃマルクト皇帝の情婦だそうじゃねぇか」
それは、言葉と言う屈辱。
「毎晩ココに突っ込んで貰ってンのか?ん?」
指が、無遠慮に突き刺さる。
「っ…」
其処は反射的に、キュ、と指を締め付けた。
「…へぇ…使い古しのくせに『名器』だな?」
「バカ皇帝のお気に入りなわけだ」
ピク…とジェイドの口元が揺れた。
「イイ歳して身も固めずこんな野郎に夢中なんだからな」
「マルクトもいよいよお終いだぜ」
沸き上がる失笑。
「…………」
それは彼の前では一番してはならない事。
主人の、愚弄。
ジェイドの顔からは、すでに微笑みが消えていた。
「がはッ!?」
突然、尻に触れて居た男が胸から血を流し倒れる。
「!?」
何が起きたのか、誰もが把握出来ない。
「甘いですねぇ…」
「何…?」
倒れた男を抱き起こした男は、見た。
捕えた捕虜の掌が光り、その光の中から何か長いものが現れ、
自分の腹を貫くのを。
「ぐっ…!?」
それは一瞬の出来事。
なぜこの男が武器を持っていないのかを、
理解出来た瞬間だった。
「こいつ…!」
押さえ込もうとした手を躱し身を翻したネクロマンサーの腕から、
千切れた拘束具が床に落ちる。
その右腕には、長い一本の槍。
「今度私を捕えた時は…両目を潰し腕を落としておくのですね」
ネクロマンサーは、素手で幾人もの兵を惨殺すると言う噂がある。
「そうか…これが…!」

その噂の正体が、これなのだ。
己の身体に武器を融合させ、戦闘時のみ瞬時に具現化させるという、
あまりにも人間離れした高等譜術。

その正体がわかったところで、もう遅い。
「旋律の戒めよ…」
ネクロマンサーが囁く。
「!」
周囲の音素が、ある点に集中し始めているのに 譜術士達が気付く。
「まずい、離れろ!」
気付いたところで、もう遅いのだ。
「ネクロマンサーの名の下に具現せよ…」
音素の凝集点、それはネクロマンサーの血のような赤い瞳。
「逃げろ!!」
逃げたところで、遅過ぎた。
「ミスティックケージ!」
彼の攻撃範囲は…その赤い瞳の捕えた視界のすべて。
激しい衝撃が、辺りを包み込んだ。

「…やれやれ、少々やリ過ぎましたかねぇ」
乱れた髪をかきあげ溜息一つ。
出口に折り重なるように倒れた死体をかき分け、
ネクロマンサーは扉をあけた。
「それでは…失礼します」
悠々と歩き敵陣を後にするその姿を、誰一人として追わない。
動くものなど…誰もいなかった。


end


ジェイドって敵の本隊を潰す為にわざと掴まった振りをして

内側から破壊して平気な顔で帰って来る
…とか結構してたと思う。
つくづく恐ろしい男ですよこのネクロマンサーは(笑)。


2008.01.31

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