真・最重要参考人 〜慟哭〜
「本当にいいんだな…石田」
「うん…」
チャドは今一度そう聞くと、雨竜の意思が硬い事を確認し自らの服をはだける。あらわれたのは、さっきまでの死神達よりも一回りは立派なチャド自身。
「!」
雨竜はそのサイズに一瞬表情を強張らせた。
「…痛いぞ」
「……うん」
だがすでに覚悟の出来ていた雨竜は意思を変える事なく頷いた。
「…わかった」
チャドはそれ以上の確認は取る事なく、雨竜の懐にそっと手を差し入れる。雨竜の傷を避けるように掌を滑らせ、緊張をかくせないでいる胸の突起を軽く摘み指で撫でた。
「あ…っ」
チャドの指が触れる感触に雨竜が短く声をもらし、顔を赤らめた。
「あ、あのっ…さ、茶渡くんッ…!」
「…どうした」
行為に付属する前戯を拒むように身を捩る雨竜に、チャドの手が止まる。
「あの…そういうの、…しなくていいから…」
「む…」
「その………するだけで、いいから…」
「……そうか」
愛を語らう為の交わりではない。ただ、経験としての行為がそこにあればいい。雨竜の中の割り切った感情がチャドに伝わる。
チャドは雨竜の懐から手を抜くと、直接着物の裾に手を伸ばした。雨竜の細い脚がびくりと反射的に震えたが、その脚は自ら恐る恐る開いていく。
「石田…」
「……」
名前を呼ばれ黙って頷く雨竜の脚をチャドがそっと持ち上げ、身体を傾けた。
「ーーーっだぁああーーちょい待て−ーーい!!」
「!」
「?」
そこで騒ぎ出したのは、その光景を傍で一部始終見ていた岩鷲だ。
「ま、ま、待てって!お前らホントにする気かよ!?」
「……そうだけど」
「だぁーーーーだから待てって!!目の前で見せられる俺の身にもなれっての!」
慌てふためいて騒ぎ立てる岩鷲に雨竜が苦笑する。
「あれ?…君は協力してくれないんだ?」
「でっ…できるか馬鹿ヤロウッ!?」
岩鷲がこの展開に激しく動揺しまくっていることはよくわかる。だが、雨竜とてここで退くわけにはいかないのだ。
「それじゃ…見ないでいてくれると助かるな」
「なッ!?」
その方が気持ちも楽だから。雨竜だって見られたくなんか無い。本当は、こんな事だってしたくない。
「んなことこの狭い部屋で…わぷッ!?」
岩鷲の顔にバサリとシーツが投げられた。
「これでもかぶって向こうを向いていろ」
チャドはそういうと、雨竜を抱えて部屋の隅に移動する。
「〜〜〜ったく、テメェらやめようって気はねぇってのかよ…ッ。あーそーかいそーかいわかりましたよ!もう勝手にしろぃッ!」
岩鷲は苛立った口調でそう言うとシーツをかぶって二人に背を向けた。止める事はもう適わないと、悟る。
「それじゃお言葉に甘えて…茶渡君、続きを…お願い」
「………あぁ」
チャドは雨竜の脚を抱えると、肩に乗せた。雨竜の意思が揺るぎない事はわかっているから、余計な事はもう何も言わない。
「…あ、待って!」
だが、意外にもその雨竜自身が静止の声をあげる。それにはチャドも意外だったのか、顔をあげて雨竜を見た。その瞬間に互いの視線がぶつかり、雨竜の顔がサッと朱に染まる。
「どうした」
「ごめん………向き、変えたい。顔…見られたくないよ…」
「…そうか」
チャドは雨竜の心情を察したのか、雨竜の身体を抱き起こすと、そっと裏返した。
「腕は大丈夫か」
「…ん、大丈夫…」
傷を負った腕を下にする形になりチャドが気を使うが、雨竜は平静を装ってその腕を床に敷く。雨竜はその腕を軸にして尻を突き出すように自ら腰を上げると、チャドに自分の恥部を曝け出す。傷が痛まないわけは無い。だが、こんな時の顔を見られるよりは…いいのだろう。
チャドの目の前に晒された雨竜の其処は凌辱の痕を色濃く残しており、痛々しく腫れ上がっている。だが其処に普通よりも巨大なチャドのモノを挿入しろと要求しているのは、雨竜にほかならない。
「それじゃ…いれるぞ石田」
「……うん…」
熱い肉の感触が雨竜の入口に触れた。先程までの痛みを思いだし、雨竜の腰が僅かに退く。だがそれ以上逃げる事は無い。
「う……!」
突き付けられたモノに力が込められ、雨竜の下肢にも力が入る。
「石田…受け入れる時は力抜いてた方がいい。たぶん…」
「う…ん…」
雨竜も気持ち的には力を抜きたいのだが、強張る身体にはどうも余計な力がはいってしまうのだ。それでもどうにか力を緩めようと努力はしているようだった。そうすることが苦痛をいくらかやわらげる事は今日の経験で学んだから。
ググ…
「うぅ……」
チャドの先端が雨竜をゆっくりと押し広げる。必死に力を抜こうと努めている雨竜にも、反射的に力が入っていく。
「うっ…くッ、も、もう……入っ…た…?」
「…いや、まだだ」
「う…ッ」
随分と其処を拡げられている感覚はあるのに、一向にチャドのモノは奥に入ってこない。それもそのはずだ、なにしろまだ入口を通る事すら出来ていなかったのだから。チャドはそのままゆっくりと力を加えていく。
「うっ…あ、あッ!」
次第に雨竜の声が痛みを含んだ悲鳴になる。
「…まだだ、石田」
もうすでに普通のサイズのものならとっくに挿入されている程、雨竜の其処は拡げられているのに未だチャドは雨竜の外にいた。雨竜の其処は簡単にチャドを飲み込める程柔軟では無く、又、チャドのものはそれほど立派だったのだ。
「はぅ、うぅーッ…さ、茶渡…君っ!」
雨竜が苦しそうにチャドの名を呼んだ。
「…少し中断するか」
その辛そうな声に、チャドは雨竜の腰をつかむ手を少し緩めた。もう少しで通りそうな所まで来ているのだが、ここを無理に通ろうとすると雨竜を傷つけてしまうだろう。いきなり挿入する前に、其処をもうすこし慣らす必要があった。
だが雨竜は、首を左右に振って否定する。
「いい…そのまま…い、れてっ…力づくで、いい…からっ…!」
「……!」
雨竜に余裕が無い事は雨竜の身体に触れているチャドにはわかっている。だが、あえて其処を強引に突き抜けようという案を、雨竜自身が出して来たのだった。それは、この行為が暴力に慣れる為の訓練なのだという雨竜の強い要望。
「かなり痛いぞ…たぶん」
「う…ん、わかってる…」
そうでなくては、訓練にならない。死神達より痛い事が予想できるから…だから、いいのだ。その為に恥を忍んでチャドにお願いしたのだから。
「できるだけ力は抜いていろ」
「うん…」
チャドは雨竜のうなじにそっと唇を寄せると、腰を掴んだ腕に瞬間的に力を込めた。
メリッ!
「うああぁぅッ!!」
悲鳴と共に雨竜の身体がチャドを受け入れる。入口なのか、それとも奥なのか、雨竜の其処から血が伝う。
「ひぃ…イッ…いっ…ーーッ…!!」
諤々と全身を震わせ、雨竜はチャドの鎌首をギュッ、ギュッと強く締め上げた。苦しそうに短く浅い呼吸を繰り返し、雨竜はその痛みを懸命に堪えている。
「…痛いか?」
「…ーーッ…!」
雨竜の首がこくりと頷く。痛く無い、と強がることすら出来ないのだろう。
「っ…でも、大丈夫…っ、い、いれて…そのまま…奥…まで…ッ!」
その様子から見て少しも大丈夫そうでは無い事は明白だった。だが雨竜はまだ拡げられた入口の太さにも慣れきっていないというのに、さらなる苦痛を求める。死神は、痛みを耐えているからと言って待ってなどくれない。
「わかった…」
チャドは雨竜の腰をさするように一度撫で、身を進めた。
ズッ…ズズズズ…
「うッ…アッ!くあぁッ…いっ…ぎぃッ!!」
雨竜の望むまま、痛みが奥まで挿入される。反射的に逃げる身体をしっかりとささえ、チャドはゆっくりと自身を雨竜の中に収めていく。大きく拡がった雨竜のアヌスがゆっくりチャドを飲み込み、そして赤い体液が腿を伝い堕ちる。
「ひぃッ…グッ、ぐぅッ…うッ…!」
必死に堪える雨竜の瞳から溢れ堕ちる涙は、チャドからは決して見えない。当たり前だ、見られたく無いから、彼に背を向けている。
「辛いか…?」
だがその苦痛を察したチャドの手が、そっと雨竜の前にまわされた。
「あ…っ?」
チャドの大きな掌は雨竜の性器を包み、優しく刺激し痛みを和らげようとして来たのだ。拡げられ貫かれる痛みを、雄の快感で緩和させようと。少しでも、雨竜の苦痛を取り去ってあげたくて。
「僕っ……そういうの…いい、って、…言った…よね…?」
「む…」
だが、雨竜はその行為を拒絶する。本当は有り難いはずの、その行為を。
「しかし…」
「死神は…そんな、事…しない…よ…?」
「…………」
あくまでも、暴力に慣れる為の、痛みに慣れる為の行為。だから、余計な快感を覚えてしまっては、かえってそれが邪魔になってしまう。
「…う…動いて、茶渡君…ッ」
痛みの最中、雨竜はまたも辛い要求をする。雨竜にとっても、チャドにとっても。
「………」
この状態で動いては、相当な痛みを与えるだろう。チャドは迷っているのか、なかなか動いてはくれない。
「ありがとう、茶渡君…でも、気…つかわなくて…いいから……ッ」
チャドの優しさは凄く嬉しかった。でも…今はそれすら必要としていない。今は何物にも替え難い、痛みが欲しいから。
「……いくぞ」
何かを振り切るように、チャドの腰が動く。
「う…あッ! ああああああぁーーッ!!」
雨竜が悲鳴を上げた。
「はッ…あ、アァッ!う、痛ッ…いた、うぅッ!あ、あぁぁッ!!」
喰わえているだけで限界を感じている窮屈な穴を、チャドの太い肉棒が無造作に往復する。
「痛いか…石田」
「う、あぐぅ…ッ、い、痛い…ッ…!!う、うッ…で、でも、もっと…強く…ッ」
「そうか…」
痛みを隠せずに涙声でそういいながらも、雨竜は要求を止めない。この痛みを求めていた。痛みの上に積み重なる痛みを。これに耐える事ができたなら、また死神達の前で生意気に笑ってやれる気がするから。
「あ、アァッ!茶渡…君ッ…!はぁッ、あぁッ!」
だから、耐える。
「…………」
そんな雨竜の姿を、チャドは悲しそうに見つめていた。何もしてやる事が出来ない。何も助けてやる事が出来ない。そんな自分のしてやれる唯一の事が、こんな風に痛みを与える事だけだなんて。護りたいその存在を助ける手段が、傷つけるだけだなんて。
悲鳴をあげながら自分を受け入れ揺れる身体を背後から抱きしめ、チャドはその手を抜く事なく雨竜を突き上げた。彼の望むよう、納得のいくよう、加減はしない。
「あうッ…ぐ、うあ…痛ッ!」
「…む!」
雨竜の両腕が上半身を支え切れずに崩れ、胸の下敷きになる。チャドはその腕に血の染みが更に拡がっているのに気付く。
「腕…」
チャドは雨竜を後ろから抱き起こすと、繋がったままの雨竜をぐるりと反転させる。
グリュリュッ!
「うぁ!?あおぉッ!!」
突然、体内を埋め尽くす肉棒が激しく回転し、内側が捩れる感覚に雨竜が辛そうに呻いた。
「む…すまん!」
それは思った以上に雨竜にとっては苦痛な行為だった事を知り、チャドがすかさず謝った。そんなつもりでやったのではなかったのだ。
「はぁ、はぁ…い、いいよ…でも、な…なんで…」
苦痛を与えてもらう為にやっているのだ、予想外だったが苦痛をくわえられた事には雨竜は何の問題も無い。だがそれより、向きを変えられた事に合点がいかなかった。顔を見られたく無いからわざわざ背を向けていたというのに、この体勢では自分の全てをチャドの前に晒してしまう。チャドの視線から隠れる事が出来ないではないか。
「どうしてもこっち向きでは…だめか?」
チャドの手が雨竜の前髪をかきあげ、涙が伝う頬を撫でる。
「や…!」
泣いている事を見られ、雨竜は顔を背けようとするがチャドの手はその顔を追い更に涙を拭おうとする。
「…だめか?」
覗き込む眼差しは痛い程優しく雨竜に突き刺さる。そう、痛い程に。
「………ふ…」
雨竜は苦笑した。こんな姿を親友には見られたく無いと思っていたが、今更だ。こんなことを頼んでるくせに顔は見るななど、これ以上何を隠すというのか。もう充分に不様な醜い姿を見せていると言うのに。
死神達は雨竜の凌辱中の顔を眺めまわし、罵声を浴びせる。死神達に浴びるその視線が辛かった。身体に受ける痛みよりも、浴びる視線の痛みの方が苦しい時もある。不様な姿を人に見られるということは雨竜にとってこのうえない苦痛。だが、それならばなおさら…この親友からの視線を受け止めることで視線に慣れるが出来たなら。
「…いい…よ」
雨竜は頬を染めながら承諾した。チャドに顔を見られながらされるのは、すごく恥ずかしい。それは、悔しい、に限り無く近い羞恥心。当初は死神達の与える痛みだけをチャドに求めていた。でも、これで見られる痛みにも慣れる事ができるのならばそれでもいい。一石二鳥と思えば良い。
「そうか…よかった」
チャドはホッとしたようにそう言うと、その手で雨竜の腕に優しく触れる。
「…え?」
チャドは雨竜の腕を気づかって向きを変えたのだろう。ただでさえ酷く傷つけられた雨竜の腕…滅却師の命ともいえるその腕だけでも、チャドは護りたかったのだ。もちろん、その腕に滅却師の力が残っていない事など、チャドは知るよしもない。だが、それを知っていたとしてもチャドなら同じ事をしたかもしれない。そういう男だった。
「まだ、続けるんだろう」
「うん…」
チャドは血の滲む雨竜の腕を労るように摩ると、手枷の付いたその手を自分の首にかけさせる。余計な重みが腕にかからないように。だがそうすることで間近にチャドの顔を見る事になり、雨竜は顔を染めて視線をそらす。
「掴まっていろ」
「う、う…ん」
「いくぞ」
雨竜の背中にまわした手をゆっくりと腰にまわし身体を少しもちあげると、チャドは雨竜の身体を最奥に届く勢いで貫いた。
ズンッ!
「がはッ…!」
グッ、と雨竜の腹が一瞬盛り上がる。向きが替わった事で先程と突き上げられる角度が違う。
「は、ヒィッ!…すご…ッ、今の…あぐぅッ!」
ズンッ!
グッ、とまたチャドが雨竜の腹を突き上げる。
「はぁッ、はぁ、うぐッ…茶渡くんッ…あぁッ!」
望むような苦痛がチャドによって頻りに与えられ続け、雨竜の身体は衝撃に揺れながらも必死にチャドの首に縋り付いた。
「あぅッ、すご…ひッ! あうッ!はぁッ、こ…壊れ…そ…ッ!」
「辛いか…石田」
「う…ん…ッ、…ッく、ア!でも…ッ続…けて、茶渡…くん…ッ」
辛さを肯定しながらも、雨竜はチャドに身体を預け、必死に苦痛に身体を慣らそうとしていた。死神達の責苦に耐えられる身体になる為に。大切な仲間を護る為に。その為には耐え、越えなければならない。
「そうか…それならもう少し強くするぞ」
チャドは腰の動きを少しづつ速めていく。
「は…アッ!?」
ズッ…ズン、ズブッ、ズンッ!
「あ、アアァッ!壊れ…るゥッ…!」
そのあまりの加減の無さに、雨竜の身体が軋みあがる。口からはひっきりなしに悲鳴と苦痛の声。だがその腕は逃げる事なく逆に求めるようにチャドに絡み付いていた。容赦の無い痛みを与えてくれる友に対して敬意を示すように。
「…………」
目の前で雨竜の顔が苦しそうに歪むのを間近にみながら、チャドは雨竜を突き上げる。 替われるものなら替わってやりたいとチャドは思う。だが、それは適わない事。ならば雨竜の望む事を与してやるしか手助けが出来ない。それが例え痛みであったとしても。雨竜がそれを求めているのならば。
「石田……」
流れ続ける雨竜の涙を指で拭い、優しい口調でチャドは名を呼びその身体を抱き締める。雨竜を見つめるその視線が、雨竜の潤んだ視線と合い逸らさずに覗き込む。悲し気で優しく、雨竜の全てを見届けていた。
「んっ…くぅ、茶渡…くん…ッ」
最初はその視線から逃げていた雨竜も、次第にその視線をまっすぐに受け止め始める。
「はぁ、はぁッ!茶渡君の…す…ごい…よぉッ…!」
死神達犯された時よりも、ずっとすごい。チャドのは大きくて硬くて痛くて激しくて…でも、その手がとても暖かく、その瞳が…あたたかい。雨竜は苦痛の表情の中にふっと笑みを零した。
「で、でも…はぁッ、どうして、だろ…痛…く、ない…や」
「…ん?」
「茶渡君に…っ、見られても…なんだか、痛く…ない…」
そして雨竜は苦痛の中で気付いた。視線を浴びる苦痛がなによりも辛いはずなのに、チャドに見られる事には苦痛を感じない事に。それどころか、逆に大きな安心感を感じてしまう。この手と瞳に包まれていると。
「…そうか。俺に…他に与えられるものがあって良かった…」
チャドの口元が僅かに微笑む。
「でも、これじゃ…ンッ、見られる…訓練に…なんな…」
視線を浴びる事に慣れる事も兼ねていたはずなのに、チャドの視線を痛く感じないのではなんの意味も無い、そう言おうとした雨竜の言葉はチャドに遮られる形になる。
「んッ…!?」
チャドの厚い唇が雨竜の唇を塞ぎ、雨竜の言葉を飲み込む。
「茶…渡君?」
「辛かったら俺に噛み付いてもいい、首をしめてもいい…だから、なんでも一人で溜めるな」
チャドはそのまま雨竜の頭を抱き、慈しむように何度も撫でる。言葉では言い表しきれない感情を指先から訴える様に。
「………ありがとう」
なぜチャドに見られていても痛くないのか、その理由は今の言葉でわかった気がした。
「ね、…茶渡君の…中に出して…っ」
きゅう、っと雨竜がチャドを締め上げる。
「む……!」
「ッ…ひゃぅッ…!」
ビクン、とチャドの巨体が一瞬身震いしたかと思うと、今度は雨竜の身体が大きく震えた。
「あっ…あっ…ん…ッ」
熱いチャドの体液が身体に放たれていくのを雨竜は身体を震わせながら受け止める。腹の奥に注がれた濁流が繋がった箇所から溢れだし、その流れが止まるまで、雨竜はチャドの首にしっかりとしがみついたままその余韻に感じ入っていた。暖かいその安心感を。
「………はぁ」
どちらともなく大きな溜息を吐き、チャドは繋がったままの身体をゆっくりと動かした。
ぬるるる…
「あ…あ…っ」
ずる…ん
「ん…っ」
僅かに縮んだチャドのペニスがそっと雨竜から抜き取られる。 大きく栓をされていた其処から中に残っていた行為の痕がトロトロと流れ落ち、痛々しく腫れた其処がゆっくり口を閉じていく。
「俺のは痛かったろう」
「そりゃもう…かなり、ね」
「そうか」
「ふふ…」
嫌味っぽくそう答えた雨竜は、チャドの胸に頭をこつんとぶつけるとその口元に穏やかな微笑を浮かべた。チャドはその頭を慈しむように撫でると、優しい光を放つ瞳をそっと閉じた。
「………ん?」
チャドに抱かれながら、雨竜はふと部屋の隅の白い物体に視線が行く。白い布の隙間から瞳だけを覗かせこちらをじっと見ているその物体。
「岩鷲君」
「!!!!」
シーツをかぶって向こうを向いているはずの人物と視線が合い、雨竜はその名前を呼んだ。呼ばれ、岩鷲は慌てふためいてシーツをかぶり直そうとバタバタしていたが、開き直ったようにシーツを脱ぎ捨てる。
「おおおおおおお俺はッ…べ、べつに覗いてたとかそんなんじゃねぇぞ!断じて違うからなァッ!?た、ただあんまりデッケー声だしてるから…ッ」
最初はシーツを被って背を向けていた岩鷲も、あまりにも激しい声と音に気を奪われ、遂には凝視状態になっていたのだった。
「なんだ、見てたんだ?」
「なっ…!!」
岩鷲の顔が噴火寸前の火山のように真っ赤になる。
「ま、待てッ!!俺は覗き見な変態じゃねぇぞッ!そこんとこ誤解すんなよッ!?」
「別にいいのに…」
「よよよよくねぇッ!」
「見てたのか岩鷲?」
「みみみ見てね…い、いや、ちょっと、ほんのちょっとだけ…ちょっとだよ!」
岩鷲は必死に否定した。見たくて見たのではないということを自分にも周りにも言い聞かせているようだった。
「見たく無かったのではないのか」
チャドの冷静なツッコミに岩鷲は逆上したように言い返す。
「あ、あのなッ、あんなヤラシイ音立ててアンアン言われリャ誰だって見らさるっつぅの!俺だって男だっつぅの!!」
「…確かに女には見えんが」
「そういう意味じゃねぇ!!」
「まぁ、まぁ、どっちだっていいじゃない?」
コントのようなやりとりに、まるで人事のように雨竜が仲裁に入った。
「でも見てたんなら話は早いや」
「…は?」
雨竜はチャドの胸から頭を離すと、岩鷲に意味深な視線を送る。
「岩鷲君も、協力してくれる気になったってことだよね?」
「なッ!?」
岩鷲が不細工な顔を更に不細工に歪ませて驚愕した。
「なに勝手な事言ってんだよメガネッ!だから協力なんてしねぇって言ってるだろが!男となんかッ、てめぇとなんかしたくねぇつうの!」
「…僕だってしたいわけじゃないよ」
「う…!」
冷めた声でそう言った雨竜の言葉に、岩鷲が黙り込む。
「前にね…やらなきゃやられる、一人じゃキツイ、だから仕方なく組みたくも無い手を組む…って、どこかの誰かさんが言ってたんだよね」
「…?」
「…石田…それは…」
雨竜は真顔で岩鷲に向き直った。
「…脱出、したいでしょ?ここから」
「!」
岩鷲の顔もまた、真顔に戻る。
「その為の作戦の一つだと思って…協力してほしいんだけど」
手伝って欲しいから。仕方なくでいいから。自分一人じゃ…キツイから。
「…………」
岩鷲は黙り込んでしまい、何も答えない。
「どう、かな?」
催促するように雨竜がその顔を覗き込むと、岩鷲は急に眉を吊りあげ奇声をあげた。
「だっしゃァッ!」
「うわッ!?」
驚いてよろけた雨竜をチャドが抱きとめる。
「そこまで言われちゃぁこの岩鷲、男として黙ってらんねぇぜ?」
そう言って口元に不敵な笑みを浮かべて岩鷲は豪快に服を脱ぎ捨てた。
「……!」
さきほどまであれほど拒絶して否定していた岩鷲が、急にそんな気になったとは思えない。そうやって自分のテンションをあげる事で、周りと、自分の気持ちを誤魔化しているのだろう。彼は自分の役割と言うものを、本当に良く知っている。この男もまた、優しい男だから。
「前戯も愛撫もしてやらねぇからなッ!俺様の超メガトン級グレートマグナムを喰らわしてやるから後悔しろぃ!」
「…………期待してるよ、岩鷲君」
野獣の様に自分に覆い被さる岩鷲に、雨竜は嬉しそうに微笑んだ。
そうだ、僕には仲間がいる
こんなに僕のことを思ってくれる仲間が
だから
死神になんて 負けないよ…
慟哭 〜終〜
2005.05.08