『……上等ォ!…てめーは絶対後で泣かす!!』
『どうぞ 君が生き残れたならね!』

…戦いは終わった。
複雑な思いをそれぞれの胸に残したまま、戦いは終わった。

〜口約束には御用心〜


 翌日は何事も無い様子で学校に向かった黒崎一護。それはいつものことだった。彼が虚(ホロウ)と戦っているなんて周りの誰も知らない。昨日の疲れが残っているからって、いちいち次の日に欠席なんてしてられない。戦いが終われば何事も無かったようにいつもの生活に戻るだけ、それが黒崎一護の死神生活の日常だ。いつも通りの平凡な日常。だが今日は、少し違った。
 ガラ…
 もう3限目だというのに教室の戸が開き、一人の生徒が教室に入って来た。
「!?」
 遅刻してきたのは石田雨竜。両腕を包帯に包まれた痛々しいその姿で、雨竜は平然と現れた。そしてその姿に、クラスがざわつく。
「石田!?どうしたのそのケガ!?」
 教員の越智が、当然のように驚いた。
「階段から落ちました」
 浴び過ぎる注目を、彼は下手すぎる嘘でやり過ごす。
(嘘がベタ過ぎなんだよ馬鹿…)
 誰もが入れたくなる突っ込みを、一護は腹の中で呟く。ざわつく教室内を、何事もなかったように雨竜はいつも通りに自分の席に着いた。
(そっか…あいつは治んねぇんだっけ…)
 石田雨竜、滅却師(クインシー)。彼もまた一護と同じく、虚と戦う能力と運命を背負っている。ただ大きく違うのは、死神化して霊体で戦う一護と異なり、彼は『生身』の肉体のままで戦っているという事。まして彼には、一護のように自分の傷を癒してくれる存在がいるわけではない。戦いで受けたダメージは精神的疲れや霊力の消耗としてではなく、当然その肉体に直接傷として刻まれる。
 今日は昨日の怪我の治療の為に遅れて登校して来たんだろう。
(休めばいいじゃねぇかよ……)
 一護の視線が無意識に、斜前の席の雨竜の背中を見つめる。
「あまり気に病むな、貴様のせいではない。奴の自業自得でついた傷だ」
 突然、隣の席のルキアに小声で囁かれ一護はビクッと体を震わせた。
 朽木ルキア、人間だった一護を死神生活に引きずり込んだ張本人。一護が死神である彼女の力を吸収してしまった為、力を失った彼女は人間の振りをして一護のクラスに転入してきた。今ではそれなりにクラスに溶け込んでいる。人前ではお嬢様ブリッコ。しかし一護の前では口調も態度も豹変するのだ。
「べっ…別に!あんなモン心配するほどのケガじゃねーよ!」
「ほぅ…誰が心配していると言った?私は気に病むなと言ったのだぞ」
「…てめぇ…」
 からかうように言われ一護はルキアを睨み付ける。そんな一護にルキアは意味深な笑いを返していた。
 メノス戦の直後、暴走する一護の霊力を雨竜が自分の体を媒介にして必死に空へと放出させていた。 その強大な霊力の衝撃は、雨竜の両腕の皮膚を切り裂いた。一護が止めろといっても、雨竜は止めなかった。ボロボロになった腕で、一護の暴走した力をいつまでも必死に空へと放っていた。
 その時の一護は雨竜が何をしているのかよくわからなかったのだが、一護は後で知った。あの時雨竜が弓を射るのを途中でやめていれば、自分は消滅していたトコロだったということを。
  …俺ノ為ニ、ソンナボロボロニナッタノカ?
 いや、元を探れば一護に戦いを挑んできたのは雨竜のほうだった。そしてそこから拡大した騒動の尻拭いを一護がしてやったようなもので、一護が悪いわけでは無い。雨竜の自業自得、たしかにその通りなのだが…でも一護は雨竜のその白い包帯に、どうしても目がいってしまうのだ。
(…別に……そんなたいした怪我じゃねーだろ…こうやって学校来てるし…)
 あんな奴の事は気にするまい、と気を紛らすように一護は窓の外を眺めたりしてみるが、ふと、昨日の血だらけの雨竜の姿が瞼の奥に思い出される。そして気がつくとまた無意識に雨竜の背中を見つめてしまっていた。
(ったく、本当こんな時ぐらい休めばいいじゃねぇかよ……)
 不自由そうにノートをとっている無遅刻無欠席だった優等生石田雨竜を見つめ、一護はまた、苛つくようにそう思った。
 そう、学校での彼はただの勉強のできる優等生でしかない。彼の傷がどうしてついたかなんて、誰も知りやしないし、たいして気にしない。澄ました顔の優等生石田雨竜しか知らないこの学校の連中は、あんなに必死に戦っている石田雨竜の姿なんて、誰も想像出来ないだろう。実際、一護とて先日まではその一人だった。同じクラスだというのに、名前も覚えていないくらい気にも留めない存在だった。
(………最後の滅却師…か)
 200年前に死神に滅ぼされたという滅却師、その力を受け継ぐ最後の生き残り石田雨竜。仲間はもうどこにもいない。たった一人で虚と戦い、死神を憎み、師匠の仇を探していた。人より霊力が強く霊を見る事ができるものの、そんな事はたいした気にもせず、一護が人並みに無邪気にサッカーなんかして遊んでいた子供の頃から、雨竜は一人で戦い続けて来たのだ。
(…もしかして俺が死神になる前って…こいつがこの街を…?)
  一護が死神や虚の存在を知るずっと前から、雨竜は虚と戦ってきている。ということは、今までこの街で虚の被害が最小限に押さえられていた影には…雨竜の存在もそこにあったからなんだろうか?と、一護は今まで気にもしていなかった事をふと思った。
(……なんつーか…本当不器用だよなコイツ)
 他人なんて興味ないね、というような顔をして、その他人のために人知れず命をかけて。
 街の人を危険にさらす勝負を挑んできた雨竜に一護は心底腹もたったが、今までこの街を護り続けてきていたのは、他ならぬ雨竜自身だった。おそらく雨竜は今まで一人で護り続けていたこの街を、今まで通りに自分一人で守り抜ける自信があったのだろう。だからあんな事をしたのだ。だがそれは彼の奢りでしかなく、結果的に今回の事は彼にかなりの精神的な敗北をもたらした。死神を憎んでいた自分がその死神に助けられる事になるなど、彼にとって、あってはいけない結果だったはずだ。
 自信喪失、自己嫌悪、己の自惚れ、罪悪感。プライドの人一倍高い雨竜の中に刻まれた、目には見えない心の傷は数多いだろう。今の雨竜は身も心も傷だらけ、という言葉が大袈裟ではなくあてはまるように一護には思えた。
 そんな状態で有りながら、雨竜は外面上いつもと何ら変わりが無い。
(…ったく、無理しやがって…)
 平気を装っていても、長い前髪の影から覗く澄ました横顔に、傷の痛みの為か僅かに冷や汗が滲んでいる。そうまでしてなんで学校なんか来なきゃならないのかという疑問さえ感じる。たかが、学校だ。
(家で傷が治るまでゆっくり寝てリャいいのに……)
 そんな事を思っている自分に気付き、一護はハッとする。
(……なんだよ俺…あんな奴の事…やっぱ…心配してんのかよ!?)
 あんなモン心配するほどじゃねーよ、数分前そう言ったそんな自分を一護は笑いたくなる。不本意ながら自覚した気持ちはルキアに言い当てられた通りのものだった。でもそれは雨竜の腕の傷が『自分の為に負った傷だから』とか、そんな責任感的な気持ちでは無かった。この気持ちは一個人としての感情的なもので、義理や貸し借りの問題じゃない。
(なんで…こんなに気になんだよ俺…!?)
 一護がそんな事を考えていた時だった。ふと、視線を感じたのか雨竜が顔をあげ、突然斜後ろを振り返る。ぼんやりとその背中を見つめていた一護と目が合い、一瞬、一護に妙な緊張が走る。視線を外そうかとも思ったが、逆にわざとらしい気がして一護は頬杖をついたそのままの姿勢で雨竜の視線を受け止めた。
「………」
  一護と目のあった雨竜の瞳が一瞬の沈黙の後、ツン、と興味なさげにまた前を向き直した。
(……っ…か…可愛くねーーっ…!)
 一護の中の感情が沸々と苛立ちに変わる。人が心配してることを認め始めた瞬間に、雨竜のこの態度。それは一護の感情を激しく逆なでする。そして、昨日の直情的な感情が復活してくる。
「………何か凄ぇムカついてきた……あのヤロ−………ぜってー泣かしちゃる…」
 ボソッと小声で一護は呟いた。
 

「黒崎…か?」
 放課後の教室は雨竜一人きりだった。校内はもう殆どの生徒が下校している。雨竜は1限目と2限目のノートを借り、一人で居残り復習をしていた。ようやく終わり、片付けている所に一護が現れたのだ。
「こんな時までお勉強かよ…サスガは学年1位の優等生だな石田」
 一護は、皮肉たらたらな口調で雨竜に言った。
「…君はそんな事を言う為に、こんな時間まで残ってたのか黒崎?」
「…別に」
 教室のドアの所に立っていた一護は、戸を閉めると雨竜に歩み寄った。肘まで巻かれた真っ白な包帯は、近寄るだけでも鼻をつく薬の匂いがする。医者の息子である一護にとってはとても身近な、嗅ぎ慣れた香り。一護は雨竜の座っていた机の前に立つと、その机に手をついて言った。
「黒崎医院(ウチ)の売り上げに協力してくれればよかったじゃねぇか石田、治療代くらい少しは負けてやるぜ?」
  一護もまた不器用な人間で、こんな言い方しか出来ない。だが、その気持ちは、雨竜の事を気づかっているのだ。少しカンのいい人間なら彼の言わんとしている気持ちがわかるだろう。だが、この石田雨竜という男は、頭はいいのだが何か抜けたところを持っている。そういう感覚には鈍感だった。
「断る。死神の病院なんて御免だよ」
 雨竜は小憎らしい口調でさらりと答えた。一護の眉間にぴくりと皺がよる。
「言ってくれるじゃねぇか、俺の家族は死神じゃねぇっつの!」
 あいかわらずの可愛く無い反応に、一護はわざと雨竜の右手首を軽く掴んで引っ張った。
「ッ…!?」
 ビクン、と雨竜の体が震えたが、その口は『痛い』とは言わなかった。
  痛イクセニ 何強ガッテンダヨ?
「…何をするんだ黒崎…!」
 雨竜が眉を歪めながら、少し怒った口調で言った。一護は予想通りの反応に苦笑する。
「ホラ、まだ痛ぇんだろ腕…いいからウチ来いよ」
「別に…こんなの病院に行く程の傷じゃないよ」
 雨竜は一護の手を振り解き、庇うようにその手を左手で包んだ。だが一護はその行動よりも、その言動に眉を潜める。
「…ってお前まさか、あのまま病院行って無いのか!?」
「行って無いけど?」
 そう、雨竜は病院には行って無かったのだ。
(…ったくコイツはッ…!)
 病院に行けば当然、怪我の原因を聞かれる。勿論本当の理由は言えないから嘘をつかなくてはいけないのだが、何分嘘の苦手な雨竜である。おそらくそれが鬱陶しいからとか、たぶんそんな理由で病院に行かず、自分で適当に処置をしたんだろう。
「……言いたい事はそれだけかい?僕はもう帰るよ」
 雨竜は徐に立ち上がって鞄に手をかけた。
「待てよ」
 一護は雨竜からその鞄を取り上げる。
「…何をする黒崎」
「あくまでもそういう態度かよ……いいぜ、そっちがそういうつもりなら……ここで一つ、昨日のケリつけようぜ石田?」
「昨日の?」
 死神としてではなく、クラスメイトの黒崎一護として話をしていたはずの雨竜の瞳が、一瞬驚いたように見開く。そして変わりに滅却師としての石田雨竜の鋭い光が宿る。
「……そうかい、君がその気なら僕もかまわないよ…」
 滅却師を滅ぼした死神と、その存在を憎む滅却師の因縁ともいえる対立。雨竜の右手にかけられた弧雀が、チャリ…とざわめいた。
「だから、そういうんじゃなくてよ!」
「……どういう事だい?」
 一護が言っているのは死神と滅却師ではなく、黒崎一護と石田雨竜としてという意味だった。 だが雨竜は話の検討もつかないという顔で一護を見ていた。恍けているのではなく、どうやら本当にわかっていない。
「虚に囲まれた時の会話覚えてっか?」
 一護は、雨竜に自発的に思い出させるように会話を進める。
「囲まれた時って…囲まれてからの、どの会話の事だ?」
 囲まれたまま、二人はいろんな話をした。戦略の事、敵の事、雨竜の過去の事、一護の過去の事、そしてたくさんの口喧嘩。 雨竜にはどの会話を指しているのか、つかめていない。
「…ったく、余計な事はネに持って覚えてるクセに、自分に都合悪い事は皆忘れやがって…」
 一護はふぅ、と溜息をつくと眉間にさらに皺を寄せる。
「だからどういう意味だ?大体君は今日の昼食の時といい、おかしいぞ?」
 今日、一護は昼食に雨竜を誘った。とにかく、何か話がしたかった。断る雨竜をなんとか丸め込んで共に食事にこぎつけたものの、殆ど口喧嘩みたいな会話を交わしながらやっぱり雨竜は強がったままで素直じゃ無くて、一護はさらに苛立ちを募らせていた。
「あの時は二人きりじゃなかったからな…今なら1対1だ、誰も邪魔は入んねぇぜ?」
 昼食時には二人の他に啓吾や水色がいた。だから一護は今まで押さえて来たのだ、この渦巻く感情を。
「何を言って…」
 一護は一歩、雨竜に歩み寄った。じり、と雨竜がその間合いをキープするかのように後ずさる。
「………よーするにだな…」
 じり、と更に歩み出た一護から本能的に逃げるように、雨竜も後ずさる。
「…えぇいッ、説明すんのも面倒くせぇ!」
 一護は突然実力行使に踏み入った。
「!?くっ…黒崎ッ!?」
 ガタン!
 椅子がひっくり返り、次の瞬間雨竜は床に組みしかれていた。
「な…ななな何なんだ君はッ!?」
「……とりあえずテメーを泣かす」
「な……泣かすぅ!?」
 雨竜は動揺を押さえきれない様子で慌てふためいていた。
「君の言ってる事はワケがわからないぞ黒崎!?」
「お前が自分で言ったんだろうが石田!今日はきっちり泣かすからなァ、逃げんなよ!?」
「えッ…!?」
 驚いて目を見開いた雨竜に、畳み掛けるように一護は言った。
「『どうぞ』なんだろ!?」
「…あっ!!」
 一護に組み敷かれながら、雨竜はようやく思い出す。虚を追い回しながら町中を走り回っていた時、顔をあわせるたびに一護がしきりに「てめ−を泣かしてやる!」と喰いかかって来ていた事を。そして背水の陣に陥った、背中合わせのあの会話。
  『……上等ォ!…てめーは絶対後で泣かす!!』
  『どうぞ 君が生き残れたならね!』
「そういや…そんな事…言った……かも…?」
「言ったんだよ!」
 かも、ではなく雨竜はあの時たしかに『どうぞ』と言っていたのだ。
「えーっと…僕達は生き残った、という事は…僕がおとなしく黒崎に泣かされてやるって事…になるのか…!?」
 自分の口走った言葉達を組み立て、その意味を雨竜はいまさら把握する。
「そういうこった!約束は守れよ石田!」
「……え…っ!?」
 あの場ではそう言ったものの、勿論雨竜には本当に殴られて泣かされてやる気は毛頭無かった。目の前には、今にも殴り掛かってきそうな勢いの一護。このままでは良いようにボコボコのタコ殴りである。あの一言は、今思うと余計だったかもしれないと雨竜は後悔する。
「く…黒崎…あれはッ…言葉のあやってもんだろう!?」
 雨竜は身を捩りながら必死に叫んだ。
「うるせぇなッ!とにかくてめーの泣顔拝まないと終わった気がしねぇのよ!泣け!」
「ちょッ…くろさ…あうぅッ!」
 押し退けようと一護の胸に腕を突っ張ね、両腕に走った激痛に思わず雨竜は腕を退いた。それを見た一護の動きが、ピタリと止まる。
 数秒の沈黙。
「………腕、イテ−のか…?」
「……ッ…」
 突如自分にかけられた心配そうな声に、雨竜は戸惑ったように顔をそむけた。 雨竜は、そんな態度を自分に向けられる事には慣れていない。
「べつに…こんな傷たいした程じゃない」
「石田…」
 あきらかな強がりの返答。だがその態度が、一護には腹立たしい。
  素直ニ痛イッテ言エヨ!
「………へーそうかい」
 心配そうな顔をしていた一護の顔が、いつものようにみるみる眉間に皺が集まっていく。そうやってまた強がって可愛く無い事ばかりいうこの男に、どうしようもないほどの苛立ちを感じるのだ。
「痛くねーんだったら…手加減しねぇからなッ!」
「なッ…!」
 一護がふたたび雨竜を押さえ付けた。霊力の弓という武器で遠隔戦法をとっている雨竜には、肉弾戦に対抗できる筋力も体力もない。刀を武器としての接近戦を得意としているうえに、生身でもそのへんの不良どもをラクに一蹴できるほどの力をもっている一護に、雨竜は力ではとうてい適うワケがない。
「黒崎…ッ」
  揉み合ううちに雨竜は簡単に服を剥がされ、身体を裏がえされていた。
「!?」
 泣かす、というからには殴られるのだと雨竜は思っていた。だがこの一護の行動は、相手を殴るソレとは何か違う。
「な…なな何をしようとしてるんだ黒崎ッ!?」
 雨竜は上擦った声で叫んだ。
「…てめーが泣くような事だよッ!」
 雨竜は伏せに押さえ付けられたまま腰を持ち上げられ、一護に一気にズボンを引き降ろされる。 それだけではなく、ズボンと一緒にその下の衣服も引き降ろされていた。
「!?……な……な…っ…まさか…ッ!?」
 一護は咄嗟に暴れた雨竜を片手で押さえ付けると、もう一方の手で自分の衣服を開く。いくら雨竜が鈍感とはいえ、この現状から想像できる事は一つしかなかった。
 犯される!
「黒崎ッ!僕は男だ!オトコだぞ!?なッ…なに血迷って…」
「血迷ってなんかいねぇよ!女相手だったらこんなコトするかよッ!」
 探り出された一護の象徴部。振り向きざまに視界に入った自分のモノなんかより全然大きいそれに、雨竜が青ざめる。
「やめろ黒崎!…くろさ………」
「いいからおとなしく泣け石田ァァーーッ!」
「ちょ…やめ…ッ!」
 熱いものが触れた、と思った次の瞬間には、ソレは雨竜の中に無理矢理捩じ込まれていた。
「ーーーーーッ!!?」
 慣らす事も何の前戯もなく、突然に、強引に、乱暴に、それは雨竜の肉体に押し込まれた。配慮の無いその行動は雨竜に痛覚以外を与えない。
「くぅーーーー……っ…ッ…!!」
 雨竜の背にどっと汗が浮かび上がる。そうとうキツいのだろう。声をあげず黙ってその苦痛を堪えているものの、その体は、ぎゅう、と一護をめいっぱい拒絶する。
「うっ…狭ェ…!」
 それは一護にとっても痛みを伴うほどだった。だが一護にはわかっている、この強情な男はこんなぐらいじゃダメだという事を。
「痛ぇか石田?痛くねぇだろ!てめーはこれでも痛くないって言うんだろ!?」
 一護は狭い其処に強引に身を進めた。雨竜の窮屈な肉がメリメリと開く。
「ひぃッ!?」
  おそらく雨竜は、こんな行為は始めてなのだろう。そうする事が自分を苦しめるだけだというのに、拒む肉は苦痛を顧みずに闇雲に一護を締め付けた。一護はそれに構わず、貫いたままの雨竜の腰を乱暴に揺すった。
「ぐぅっ!?ア、…ッ、〜〜ッ!!」
 あがりそうになる悲鳴を、雨竜は腕を噛んで咄嗟に押さえる。小さな口から覗く白い歯が、包帯の巻かれた腕にぐっと喰い込む。
「…ンの、腕、噛むな阿呆!開くだろ傷ッ!」
 雨竜の口からその腕を取り上げようとして一護が身を前にずらした拍子に、ズッ、とさらに深く雨竜に繋がる。
「んッ!…ーーーーぁあああァッ!!」
 噛んでいた腕を一護に取り上げられた瞬間、雨竜の口から悲鳴が漏れた。与えられる痛覚に素直に反応した悲鳴。痛みを訴える素直な声。
(お…これで泣いたか?)
 一護は雨竜の前髪を掴むと、ぐいっと自分の方を向かせる。だが一護と視線の合った雨竜の瞳は、一護をキッと睨み返してきた。
(まだかッ!)
 一護はその髪を離すと、雨竜の腰に両手を添えた。
「は…ッ!?…やめ!くろさ…き…ッ」
 一護は雨竜の声を無視するように、入りきらずに雨竜の外に残っていた部分を一気に彼の中に埋めた。
「うあああぁッ!」
 ビクンと跳ねた雨竜の体から悲鳴があがる。
「くっ…キッツぅ !」
 ぎゅうぎゅうに締め付ける雨竜の中に、一護が辛そうな声をもらす。自慢ではないが、一護はちょっと人より立派な物を持っている自信があった。ただでさえ狭い雨竜の其処は、その一護による急激な拡張に当然のように出血してしまった。昨日と同じ、雨竜の赤い血。
 自分がこれだけ辛いのだからコイツはもっとキツいはずだ、と思い、一護は再び雨竜の髪を掴み引っ張った。
「…う…ッ!」
 一瞬、泣きそうな顔をしていたように見えた雨竜は、一護の視線を捕えると、またキッと睨み付けた。
(…ンのォ…!!)
 一護の眉間にギュッと皺が集まる。雨竜の腰に添えた手を少し前にずらし、体を僅かに退く。そして勢いを付けて、雨竜の体にもう一度打ち付けた。
「アアアァーーッ!!」
 耐えきれない悲鳴が雨竜の口から溢れる。
「…泣けよ石田…泣けよコノッ!」
 押さえた雨竜の腰を乱暴に前後に動かし、そして自らの腰を逆の動きでそれに会わせる。雨竜の内側の粘膜と、一護を包む皮がずるずると激しく擦れ合う。
「ヒィ!くろさ…きッ…くあッ!うあ…アッ!」
 一護は半ばヤケになっているかのように無茶苦茶に腰を突き動かした。皮膚を叩くような高い音と、雨竜の悲鳴が誰もいない放課後の教室に響く。誰かが教室に入ってくるかもしれないという不安も、一護はすでに忘れてしまっていた。
「ひぃっ!あッ、あぁッ!クッ…ああぁッ!!」
 一護の視界に、雨竜と繋がった部分を見える。出血し、辛そうにヒクヒクと痙攣しながらキツく締め付ける其処は、一護自身を喰わえながらも必死に拒絶を意思表示する。誰も自分の中に入ってくるなと、自分の奥底に踏み入るなと、まるで彼の心を表しているかのように。逃げようと必死にもがく雨竜の体を一護は押さえ付け、自分に引き寄せる。傷付いた腕で床から這い上がり、必死に逃げようとする雨竜を一護は何度も自分のもとへと手繰り寄せる。そして深く、より深く雨竜の中に侵入する。
「逃げンな…石田っ…逃げんなッ!!」
「うッ…くッ…黒崎ィっ…!うあッ…ンくッ…やめ…ッ!」
 叩き合う肌の音の合間に絶え絶えに雨竜の抗議の声があがる。 次第に一護を喰わえる雨竜の其処が、出血したことによって、水っぽい粘着質で卑猥な音を立てはじめる。淫猥なその音は当然雨竜の耳にも届いていた。
「あ…やだ…いやだ……ぅ…はぁッ!嫌ぁッ!」
 この湿った淫猥な音から逃れようと雨竜が耳を塞いで暴れ出す。この行為から逃れたくて、自分の内に深く踏み込もうとしてくるこの男から逃げたくて。だが暴れる体は、逃げようとする体は一護に押さえ込まれる。
「てめーはいっぺん泣かしとかねーと、どうしても俺の気が済まねぇンだよ!」
 一護は絶対に、意地でも雨竜を泣かせてやろうと思っていた。雨竜が泣くまでは、絶対にやめないと決めていた。
「こんな…ッ、コト…してまで…ッ!く…あぁッ!」
 往復する一護の茎に内側を擦りあげられ、傷付いた其処から流れる雨竜の血が床まで到達する。だがその血を見ても、一護は止める気にならない。
「どんなコトしてでも泣かせてぇんだよ!」
 それが子供じみた感情だというのはわかっていたけれど。子供じみた感情…いや、正確には違うかもしれない。力づくでも屈服させて泣かせてやりたいと思う、雄の本能的な支配的感情以外に、別の理由が。
「は…黒崎ッ、…うっ…あッ、アッ…あ…ッ!」
 だがこの強情で意地っ張りな男は、いつまでも泣かないつもりなのかもしれない。そう思うと、自分の行動が無意味で滑稽にも思えて、一護はまた苛立ってくる。
「いいかげん泣け石田ーーッ!!」
  一護はその苛立ちをぶつけるように、乱暴に雨竜の最奥を突き上げた。
「くああぁーーッ!」
 雨竜の体がビクンと反った。
「……ッう…っ…」
 その拍子に一護からは見えない雨竜の顔から、ぽたっ…と雫が床に垂れる。
 一護は動きを止め、無言で雨竜の髪を摘み、こっちを向かせた。
「………これで…気が済んだのか君は…ッ」
 ゆっくりと振り返った雨竜は、泣いていた。唇を悔しそうに噛みながら、瞳に溜った涙が後から後から溢れて頬にこぼれるのを、一護は確かにその目に見た。
  コイツ…コンナ顔スルンダ…
 一護のもう一つの理由。ただ純粋に、雨竜の泣いた顔が見てみたかった。
 やっと、泣かせてやった。その澄ました顔を、平気を装おう嘘つきの顔に溜った涙を絞り出し、生意気な仮面を引っ張がしてやった。清々したような、一瞬のその喧嘩で勝ったような達成感が一護を満たす。
 …だがそれと同時に、後悔と罪悪感。
「黒崎…気が済んだなら…もう……」
 濡れた瞳で雨竜が一護を見上げた。 縋るような瞳が、まっすぐに一護にむけられる。懇願してくるその表情に、一護は胸が熱くなった。こみ上げてくるたまらない感情は、先程までこみ上げてきたものとは、何か違う。そして、押さえられなくなる。
  …ヤバイ
「…てめーが遅ェから悪ィんだからな…」
  テメ−ガ泣イタラ、ソレデヤメルツモリダッタノニ
「くろ…さ…」
  ソンナ顔、見セルカラ…ッ
「てめーがなかなか泣かねぇから…ッ!」
  モウ、止メランネーヨ!
「う…!?あッ!」
 言うと同時に、一護は急に行動を再開した。
「ひィッ!や…ぅッ!あぅッ!は…あゥッ!」
 一護の腰が激しくぶつかる度に、喉を突く悲鳴を吐き出し、雨竜の体は糸の切れた操り人形のように衝撃に揺れる。
「や…やぁッ…も…やめッ…壊れる…ッ…黒崎ィ…もう…っ…!!」
 雨竜の涙ぐんだ声が一護に懇願してきた。その弱々しい熱っぽい声に、一護はまた体が熱くなる。既に当初の目的がなんだったかなんて、忘却の彼方に行ってしまっていた。
「は…ッ、あ…ひぃッ…やめ…ッ…黒崎…ィ…!」
「…石…田ッ…!」
 熱い、体が熱い。どくどくと奥底から沸き上がってくる感情が、一護の腰の動きを次第に速めていく。翻弄される雨竜の体がガクガクと震え、うっすら血の滲んだ指先で頻りに床を掻きむしっている。一護はその紅い血を痛々しいというより、むしろ艶かしいとさえ感じた。純粋に、その様をもっと見たいと思った。
  オレハ…ナニガシタカッタンダッケ?
 一護は自分の沸き上がる感情に抱く疑問を振り切るように、掴んだ細腰に八つ当たりでもするかのように、己を乱暴に突き入れた。
 自分の下で乱れていく石田雨竜。揺すられる体は必死に首を振りながらその暴行を受け入れている。涙を振り飛ばしながら、必死にその刺激に耐えいてる。一護はそんな雨竜を…綺麗だ、と思った。
 どくん、どくん、
 昇り詰めていく、熱の渦。
「い…しだ…ッ…!!」
  泣イタラ、本当ニヤメルツモリダッタ
「ヒ…あッ!?」
 雨竜の中に突如熱い液体が放たれた。
「あああぁーーーッ…」
 最奥で放たれたその熱さに、雨竜の体が大きく仰け反った。ビクビクと痙攣しながら一護の吐き出したモノを受け止める雨竜の体を、一護はギュッと抱き竦めた。折れそうな細い腰がその腕の中にすっぽりと包み込まれる。
  ダケド今ハ……コノ体ヲ、ズット掴ンデイタイ

「ーーーーーッ………はぁ…ッ…」  
 身震いした一護は、その行為の波が終わると大きく溜息を吐き、小さくなった己をそっと雨竜から抜く。体積の縮小したそれを抜くには何の抵抗も無かった。出血をともないながら一護の形に拡げられていた雨竜の其処が、血の混じったどろどろした液体を排出しながらゆっくりと、段々と窄まっていき、元のように口を閉ざしていく。きつくて裂けそうだった雨竜の其処が、どれだけ無茶に拡げられていたかを一護は確認する。そして同時に腕の包帯に血を滲ませる雨竜を見て、怪我人の雨竜の体にかなりの無理をさせてしまっていた事も知る。雨竜は俯せに崩れたまま体を震わせ、いまだ小さな嗚咽をもらしていた。
 胸が痛んだ。
「だい…」
 大丈夫か、と言いかけて一護は口を噤む。自分でやっといたくせに、ここで雨竜に謝ってしまうようでは一護の面目は何もなくなってしまう。これは約束したうえでの、合意の行為だ、と一護は自分に都合のいいように自らに言い聞かせた。
「……あ…謝んねーからな」
 一護はボソッと呟いた。
「俺はてめーを許してねぇんだからな」
  違ウ…ソンナノハ口実ダ
 本当は許すとか許さないとかは、もうどうでも良かった。ただ、何か理由がなければ出来なかっただけだ。
「…………」
 雨竜は何も反論しては来ない。いや、そう言えば雨竜が何も言い返せなくなることが一護には予想がついていた。彼の性格上、自分がひき起こした結果なんだから何も言い返せなくなるだろうという事が。
  オレハ…猾イ
  雨竜は黙ったままゆっくり体を起こすと、眼鏡を外し涙をごしごしと擦った。
「…もう気が済んだろう…」
 雨竜は少し赤い潤んだ瞳で、一護を見つめてきた。
「……いしだ…」
 初めてみる眼鏡を外した雨竜の姿に、一護の胸が再び妙な高鳴りを覚える。潤んだ切れ長の漆黒の瞳が、何も遮るもの無く一護を見つめてくる。汗ばんだ白い肌に纏わりついている艶のある黒髪が、性別を忘れさせる程の色気を放つ。疲れ切った弱々しいその仕種も、何か艶かしさをともなって一護を魅了した。
 そして、その顔に吸い寄せられるように、一護は口付けていた。
「ーーッくろさ…きッ!?」
 自然に口付けをしたくなった。それだけだった。
  ドウシチマッタンダ?俺
 驚いて見開かれた雨竜の瞳を間近に、一護はその体をゆっくりと横たえさせる。
「…や…」
 組みしかれた雨竜が先程の痛みを思い出し暴れるが、一護はその体を押さえ込み、脚を開かせる。
「な…ッ!……や…やめ…もう…!」
 一護は雨竜の脚を抱え上げ、抵抗する両手を床に押さえ付けた。
「嫌だッ…嫌…やめろ黒崎…や…」
 怯えたように引き攣る雨竜の素顔を間近に見つめながら、一護はその中心にゆっくりと割って入った。
「ひ…いあああぅッ!!」
  再び苦痛に貫かれた雨竜の表情が歪む。その表情すら一護は、もっと見ていたいと思った。
 そのまま体を進めると、行為に傷付いた雨竜の其処が先程よりもゆるりと一護を奥へ迎え入れる。
「はッ、う…ッくあッ…や…痛ッ…痛い、黒崎…痛…くッ!!」
 だが雨竜にとってその苦痛は、先程といくらも変わりはない。揺すられる度に歯を喰いしばり、呻き声がその口から漏れる。ようやく口にした『痛い』という言葉。一度流れてしまったら、止まる事の無いその涙。
 当初求めていたモノは満たしたはずなのに、それでも一護の求めるモノは満たされない。
「やめッ…やめてくれ…痛い!黒崎っ…、やめッ…!」
 泣きながら解放を求める雨竜の声を耳にしながら、一護は今までまるで無視していた雨竜の敏感な其れに手を伸ばした。
「ひぁッ!?」
 突然の感覚に雨竜が上擦った声をあげた。一護よりも随分小振りなその器官を優しく撫でてやると、すぐに反応よく立ち上がり始める。感度はかなり良好だ。
「や…ぁんっ!」
 頬を薄く紅葉させ、切な気な吐息が呻き声に混じる。今までにない雨竜の甘い声に、一護の気分が更に高まる。野郎の器官なんて触りたくもないと思っていたのに、自然と愛し気に雨竜を撫で上げる一護がいた。
  ヤベェ…俺ヤベェヨ
 一護は雨竜の脚を更に高く抱え込むと、その腰の動きを速めた。
「ひっ!は…ッあぅ!や…んっ…あっ、はぁんッ!」
 立ち上がりかけた雨竜の其れは一護の腰が動く度に一護の腹に擦られ、痛みと快楽とを同時に雨竜に与えた。辛そうな呻き声に、時折甘い喘ぎ声があがり、そんな声を出してしまっている自分に雨竜は戸惑ったような困った表情を浮かべている。そんな雨竜の泣顔に一護は愛しそうに何度も口付け、苦しそうに息継ぎをする唇を吸い上げる。
「う…ッ…黒…さ…きっ…んッ…あ…」
 縋るものを求めてか、雨竜の腕が一護の服を握りしめる。辛そうに吐き出される吐息は、苦痛だけではない事を一護にも伝えていた。
「いし…だ…ッ!」
  モシカシテ俺…コイツノコト…
 床に膝が着く程雨竜の体を折り曲げ、最奥を突いた一護は其処に自分の熱い感情を流し込んだ。
「はぁッ!?ん、あッ…!!」
 雨竜の瞳が一瞬大きく見開かれる。
「あ…あっ…!」
 雨竜はガクガクと体を震わせたかと思うと、一護の腹に快感を吐きかけていた。そして、そのまま一護の腕の中で眠るように意識を手放した。彼はこの歳まで、絶頂を迎えた経験がなかったのだ。始めて感じたあまりの衝撃に失神してしまっていた。
「石田…」
 一護は抵抗の無くなった雨竜の体を抱きしめた。幾筋もの涙の痕を残す雨竜の頬は、明らかに自分が泣かせた事を物語る。これで、満足のはずだった。だがそれでも満たされない心と体は、まだ雨竜に何かを求めている。
  一護はその痕を指でそっとなぞると、意識のない雨竜にもう一度口付けていた。
  俺…コイツノコト………スキ…ナノカモ?


「…最ッッッ低だな君はッ!他に僕を泣かせる方法を思い付かなかったのかッ!?」
 意識の戻った雨竜が最初に発した言葉が、これだった。
「…もうこれで気がすんだんだろう、いい加減どいてくれッ」
 意識が戻ってからも、いつまでも雨竜の上に重なったまま避けようとしない一護に、雨竜の呆れ声が投げ付けられる。雨竜にとっては不覚にも口走ってしまった口約束の為に生じた不慮の事故、とでもとらえているんだろう。一護は、眉をひそめ苦笑した。
「んー…まだ足りねぇかな?」
 一護はからかうように雨竜の太ももを、さわ、と撫でた。
「なっ…冗談じゃないぞッ!?」
 さっきまで一護の腕の中で甘い声をあげていた雨竜は、またいつもの態度に戻っていた。
「お前だって結局最後イッてたじゃん」
「〜〜ッうるさいッ!!」
 雨竜は顔を赤らめながら床に転がった眼鏡をかけると、勢い良く体を起こした。
「あ、馬鹿!ンな急に立つなって!」
「…いッ!?」
 立ち上がった瞬間体に走った痛みと内股を伝う不快感に、よろけた雨竜の体を一護がしっかりと抱きとめる。
「だから言ったろ?」
「うるさい!触るな!放せ!」
 雨竜は一護の手を振り解き、今度はゆっくりと体を起こすと散らばった服を手にとった。行為直後そのままの体に身につける事に戸惑っていた雨竜だが、ここは学校、他にどうしようもないと諦めたのか、意を決してそのままシャツに袖を通した。
「…そのまんま帰る気か?」
「うるさい」
「エライ事になるぞ?」
「うるさいッ!」
 一護の声を無視して黙々と衣服を身につける雨竜に一護が手を伸ばすと、まるでハエでも叩くみたいに雨竜はその手を払った。
「…ったくこれだから無知は…しょうがねぇな!」
「何…ッわ…っ!?」
 一護は着替え途中の雨竜の腰を掴むと、自分の膝の上に乗せた。
「何すん…っ!」
「いいから俺に任せろって」
 一護は雨竜の半分履きかけた下着をもう一度引き降ろすと、雨竜の蕾に指を押し込んだ。
「ーーッあ…ッ!?」
 ビクンと雨竜の体が跳ねる。まだ痛みの残る其処に、再び一護の指が押し込まれてくる。
「や…ぁッ、何…やぁッ!?」
「こうしないとお前が困るんだぞ?」
 一護は差し込んだ指で雨竜の中を掻き回した。
「ひッ…や…んッ!」
 一護の指が中で動く度に、掻き出された一護の体液がとろとろと流れ出て来た。一護は逃げようとする雨竜の腰を左手で抱え込み、丹念に指を動かす。
「や…ぅッ、や、…黒崎ィ…っ!」
 激痛はないものの屈辱感と気恥ずかしさに耐えきれず、雨竜はまたその頬に涙を伝わせながら、一護のその指の感覚に耐えていた。
「ホラ、終わったぞ」
「……っは…」
 粗方掻きだし一護が雨竜の腰を放してやると、雨竜はそのまま床に力無くへたり込んだ。
「…なんだよ、また泣いてんのか?お前って意外と泣き虫だな」
「…うるさいなッ!」
 座り込んだまま涙を零していた雨竜に、一護はそっと手をのばしその頬を伝う涙を拭った。
「……泣くなよ」
「…っ!?」
  自分の頬を優しく撫でるその手に雨竜は戸惑った表情を浮かべる。
「……な…泣かせたのは君だろう…ッ!?」
「………」
「僕を…泣かせたかったんだろう?」
「…うっせーな、いいからもう泣くな!」
 一護はごちゃごちゃ疑問をぶつけてくる雨竜を両腕で強く抱きしめた。少し抵抗するように身を捩った雨竜は、その手を振り解けないとわかると、諦めたように抵抗をやめた。
「……まったく、ほんとうにワケがわからないな君は……」
 雨竜の口から溜息が漏れる。
「……うるせぇ!俺もわけわかんねぇんだよ」
 泣かせてやりたかった。
 そして泣かせてやった。
 泣かせた自分に満足した。
 泣かせた自分に腹が立った。
 もっと泣かせたいと思った。
 もう泣かせたく無いと思う。
 一護は自分のこの感情と行動の矛盾が、自分でもワケがわからなかった。
「放してくれ黒崎、僕は早く帰りたいんだ」
 いつまでも汗ばんだ不快な体でいる事に耐えきれず、雨竜が言った。ここは学校、まだ誰かが残っているかもわからない学校なのである。こんなところを誰かに見られでもしたら、と雨竜は現実的な心配で気がきじゃない。
 昨日の事で雨竜は少なからず一護に負い目を感じて居た。だからといって、いいようにされるがままになってしまった自分を雨竜は情けなく思う。さっさと帰って風呂に入って、ふて寝でもしてしまいたかった。
「どうせまともに歩けねぇだろが、おくってやるよ」
「〜〜ッ、誰のせいだと思ってるんだッ!?」
「ハイハイ…俺のせいですよ、っと!」
 一護は雨竜に服を手渡しながら、雨竜の鞄を持ってやる。辛そうながらも立ち上がった雨竜は、一護に支えられながらなんとか歩き出す。一護の肩には、少し包帯に血の滲んだ雨竜の腕が廻される。
「腕…オヤジにちゃんと診てもらえよ」
「……気が向いたらね」
 あいかわらずの雨竜の態度。
「……ほんっと、可愛くねぇな」
 でもそれは、一護には先程よりも少し前向きな言い方に聞こえた。

 雨竜に肩を貸したまま教室を出ると、教師の越智が其所に立っていた。
「ーーーー!?」
 二人の顔が、青ざめる。
「あれ?なんだおまえらまだ残ってたのか?」
「……あ、…えっと、もう帰るよ」
 一護は適当に返事をした。大丈夫、どうやら何も見られてはいないようだった。だが、越智は今の二人の体勢を見て不思議そうに言った。
「……石田、どうかしたのか?」
「え……あ…その…」
  一護に肩を貸され、よろけながら立っている雨竜の様子は、誰が見ても疑問に思うだろう。俯いたまま、雨竜の顔がみるみる紅くなっていく。
(ほんっと嘘とかつけないのなコイツ…)
 しかたねぇ、と一護は苦笑しながら助け舟をだしてやる。
「こいつ…ホラ、腕の傷で熱だしちまってよ、教室で一人でぶっ倒れてたんっスよ。俺が忘れモン取りに来て見つけて、拾ったんっス」
「え!?…あ、う…うん?…そ…そそそそう…かも…?」
 雨竜が辿々しくも、必死に口裏を合わせていた。
「ふ〜んそうなんだ?まぁいいや。じゃ、お前等気ィつけて帰れよ」
 越智は特別詮索もせずに、そのまま通り過ぎていった。
「はぁ…」
 雨竜は一気に緊張が溶けたのか、もたれるように一護に寄り掛かった。一護は安心させるように、その肩をポンポンと軽く叩く。
「大丈夫、奴はなんも見てねぇよ、ホラ、歩けるか?」
「…ん」
 一護は雨竜の体を支えてやると、そのままゆっくりと歩き出す。何も話す事もなく、二人は寄り添ったまま無言で歩く。越智の去った後の校舎はシンと静まり返り、歩く靴音がヤケに大きくも感じられた。
 その沈黙を、一護が破る。
「それはそうと、なんでお前今日休まなかったんだよ?どうせ無遅刻無欠席は今日でダメんなったんだし、ついでに休んじまえばいいじゃねぇの」
 一護は歩きながら、話し掛けた。遅刻までしてわざわざ学校に来て、体辛いクセに。そうまでして学校にくる意味が、やっぱりわからなかった。自分はこのくらいじゃ何でもない、という姿でも見せたかったんだろうか。
「…答える必要ないだろう」
「…言わネェと手、離すぞ?」
 言われて、雨竜がグッと口を結んだ。一人では到底歩けそうにないのだ。一護はまた、猾い事をする。
 暫くして、雨竜は観念したように口を開いた。
「…………………嫌、だから」
 小声でぽつりと呟いた。
「何が?」
 一護にしてみれば休める口実があれば、喜んで休みたいものだというのに、この優等生は勉強が遅れるのがいやだとか、またそんな可愛くない事を言うつもりだろうと一護は予想していた。ところが。
「…………家に…一人で居るのが…」
 雨竜は俯いて、少し拗ねたような口調で言った。
「は?」
  ヒトリデイタクナカッタカラ、ダッテ?
 無理をしてまで学校に来たその理由が、『一人で家に居たくなかったから』だというのだ。学校に特別親しい友人がいるわけでもないというのに、あの優等生の、あの滅却師の石田雨竜が、人の温もりを求めて学校に来たと言うのだ。
 以前までの彼ならこんな状況でもなんでもなかったかもしれない。だが、昨日の一件で大きな心情の変化を迎えただろう雨竜は、一人ベットで横になったままでいる事に、たまらなく不安を感じたのだろう。いろいろな考えを巡らせてしまって、何をしていいのかわからなくなって、そして学校に来ていたのだ。
「……ッか…」
 一護は苦笑して雨竜の髪をぐしゃぐしゃと掻き撫でた 。
「なッ…何をするッ!?」
 顔を紅くして抗議する雨竜に構わず、一護は腰に廻した腕に力を込めた。
「石田ァ…お前って…」
 笑いを堪えたような口調で、一護はまた雨竜の髪をくしゃ、と撫でる。
「可愛いのな」
「なッ…!!」
 雨竜は真っ赤になってその手を振り払った。
「可愛いだと!?僕が!?ふっ…ふざけるなよ黒崎!」
「あーもー、ほんッと笑えるくらい可愛いわお前」
 その態度も、仕種も、一生懸命強がってる姿も。弱い自分を必死に隠そうとしてる、へたくそな嘘も。
「何だとーーッ!!」
「ホレ、そんな暴れると転ぶぞッ!」
 真っ赤になって怒る雨竜を殆ど抱きかかえながら、一護は校舎から出る。外はもう日が落ちていて、グラウンドではサッカー部が後片付けに夢中で出てきた二人の姿には目をくれていない。
「や…黒崎もうすこし離れろ!」
「…どうせ誰も見てねぇよ」
  人目を気にする雨竜を一護は構わず抱きよせる。
  わずかに残る夕日の光が二人の影を長く高く校舎に映し出して居た。

  アァモウ、ヤバイワ俺
  コイツノコト…

  スキダ。
 

end

 

 一護の淡い(?)恋心の芽生え…みたいな話を書こうと思ったらなんだコリャ、中盤の一護まるでケダモノです(笑) まぁいいか。とにかく一護→雨竜な話を書いてみたかったのね。雨竜かなり迷惑そう(笑)でも一応ラブラブでしょ?
 そして雨竜はこの日の夜に恋次に八つ裂きにされてしまうわけですね(苦)不憫な雨竜。

 ちなみに地下二階には、ほんのりとこの話の挿し絵っぽい落書きがあったりしますヨ♪探してみてね。

2003.01.06

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