「…八戒さぁ…俺の事、どんだけお子様扱いすんの?」
「な…ん…」
「八戒、19の時ナニしてた?カノジョと住んでたんだろ?
それって同棲っていうんだろ?Hしてたんだろ?」
「ひッ…!」
「俺、18なんだよ?八戒がカノジョとえっちしてた歳と、
殆どかわんないんだよ?わかってる?」
「……ッ、あぁッ!!」
「俺が何にも知らないお子様だって、ずっと思ってたんだろー… 俺だって欲情するし、
Hだってしたくなるんだから。もう大人のオトコなんだよ?」
「お…願い、ですっ…もう、やめて下さい…ッ!」
「だ〜め、やめないよ。ずっと八戒のコトこうしたかったんだから!」
「ご…くぅッ…!」
 自由の効かない身体で、八戒はその名前を呼んだ。

無邪気な策略家


「は〜っかいッ♪」
「はいはい、なんですか悟空?」
 いつもの様に八戒に甘えてくる悟空。だが彼とて無意味に甘えてくるわけではない。彼が八戒に甘えてくる時は大体何かおねだりをしてくる時なのだ。
 彼は八戒が自分に甘い事を知っている。自分を可愛がってくれている事を知っている。自分が子供らしく甘えれば八戒は親馬鹿みたいに甘やかしてくれる事を、彼は良く知っている。
 孫 悟空、彼が意外にも策略家だという事を知る人はいない。
「あのね、俺欲しいものがあるんだけど〜…」
「なんですか?三蔵には言ったんですか?」
 悟空は首を横に勢い良く振った。
「どうせダメっていうし、言ったらまたハリセン喰らうだけだもんな!だから、八戒にだけ内緒で聞いて欲しいんだ」
「しょうがないですねぇ悟空は…で、何ですか?肉まんですか?それともタコヤキ?」
 八戒は苦笑しながらも満更では無い様子でそう答えた。自分に甘えてくるこの存在を、彼は気に入っている。
「ここじゃダメなんだ、んっとね、後で俺の部屋に来てくれる?」
「食べ物の事じゃないんですか?」
「ん〜っとね、どっちかっていうと相談…になるかな?」
 悟空はちょっと首を傾げて考え込むフリをする。そうする事で実年齢よりずっと幼く見える仕種だと言う事を彼は良く理解している。
「あ〜でも馬鹿にされっかもしんないから、三蔵にも悟浄にもこのコト知られたく無いんだ、絶対内緒にしてよ?八戒!」
「はいはい、わかりましたよ」
「約束だよっ?」
「はい、約束です」
 悟空は嬉しそうにニカッと笑うと、八戒もにっこりと微笑み返した。悟空はこの八戒の笑顔が大好きだ。自分を信じきった、疑いの曇りもナイ笑顔だから。
「じゃあ後でね」
 悟空は八戒に手を振り、背を向けると無邪気な笑みの口の端をきゅっと吊り上げた。普段よく目にする、尊敬するあの人を真似て。

ホラ、 これでもう彼の計画通り。

 悟浄が今夜街へとくり出す事は悟空には予想がついていた。日中の喧嘩しながら歩く道中、悟浄が気になる店をチェックしていたから。 今夜は三蔵も急に野暮用で出かけていった。いや、実は急じゃ無く、前から出かける事になっていた。悟空はそれをちゃんと覚えていた。だから今日は悟空と八戒以外誰もいない。偶然では無く、ちゃんと仕組まれた舞台だった。
「悟空、はいりますよ?」
 部屋がノックされ八戒が悟空の部屋に入ってきた。
「待ってたよ八戒!」
 八戒がドアを開けた途端、悟空は子犬みたいに八戒にじゃれついた。
「はい、少し待たせてしまいましたね。洗濯がおわらなくて…ごめんなさいね」
 悟空は八戒の腰にまとわりつきながら、八戒に見られないように口の端を吊り上げる。
 ホラ、また八戒のその笑顔。警戒心なんて欠片もないって、その証拠。
「で、なんですか?その相談と言うのは。一体悟空の欲しいものって何なんですか?」
 八戒はどうせ悟空の事だから下らないことだろうと思っているんだろうが、親身に相談に乗る素振りを見せる。 いつも悟空に優しい八戒。それが誰にでも優しい振りでも、上辺だけの偽善者でも、悟空は別にどっちだって良かった。自分に対して優しい八戒であればそれで良いのだ。
「あのね…」
「はい?」
 悟空が身を乗り出して八戒に顔を寄せると、綺麗なその顔がまた悟空の大好きな笑顔になる。悟空は言いづらそうにためらいながら子供っぽく言った。
「じつはさぁ…ずっとまえから欲しいモンがあるんだけど…何だかわかる?」
「…さぁ、一体なんでしょう?」
 相談を聞きに来たはずが、逆にクイズのように質問されて八戒が微笑しながら困ったように首を傾げる。
「でね…それ、……八戒が持ってるものなんだ…!」
「え?僕のものですか?」
 悟空の言葉を聞いて八戒は最初驚いたが、直ぐになぜこんなに悟空が言いづらそうにしているかを彼なりに推測したのだ。人の物を欲しがるなんていけないと思っているから、いつものように大っぴらにおねだりをしてこなかったんだろう。それほどまでに自分の持ち物で欲しがるようなものがあっただろうかと八戒は思ったが、悟空のことだからきっと何か他の人にはたいしたものじゃ無いものに執着したのかもしれない。そう、たとえばこのモノクルとか、いつもつけてるバンダナとか、自分が持っていないものなら何にでも興味を示したのだろうと考えた。
 クスッと八戒が笑う。その笑みは、悟空はあいかわらず子供ですね、と言っているようだった。悟空を可愛い弟の様に…いやむしろ息子ぐらいに思っている八戒にとって、彼のワガママはこのうえなく幼稚で可愛いものとしか思わない。
「…いいですよ、僕のあげられるものなら悟空にあげますよ。あ、このモノクルはちょっと大事な物なのでダメなんですが…他の物なら良いですよ?」
 悟空がそれを聞いて満面の笑みを浮かべ、そしてそのまま八戒に抱きついた。
「本当?約束だよッ!八戒大好きッ!!」
「 はいはい、あげますよ。約束しますからそんなに抱きつかないで下さいね?で、悟空は僕の何が欲しいん…」
 抱きついたまま離れない悟空の腕に次第に力が入っている気がして、八戒は言葉を止めた。試しに身を捩ってみようとしたが、悟空はまるでその動きを押さえ込むみたいに八戒を抱く腕に力を込める。ようやく何かがおかしい事に八戒は気がつき悟空を振り解こうとしたが、逆に悟空に押し倒されベットに沈められる。
「…え?」
 今、自分に何が起きているのか八戒には把握出来なかった。
「俺、八戒が欲しい!欲しかったのずっと!くれんの?本当に?マジで?」
「僕…ですか!?」
 八戒の胸の辺りに埋めたままだった悟空の顔が、すぅっと上を向き八戒の視界がそれを捕らえる。あいかわらずの無邪気な笑顔しかそこにはなくて、八戒は戸惑ってしまう。この行動もいつものようにじゃれてる延長なのかとも思えてしまうのだ。
「なに言ってるんですか悟空?」
「だって今、八戒言ったじゃん!モノクル以外はくれるって、だからモノクルは八戒の物だけど、八戒は俺の物な?」
「あのですねぇ、そういう…ッ、ちょっ…!」
 ぶつかるように強引に唇を塞がれ、八戒は返そうとした言葉を奪われる。嬉しそうに目を輝かせたままの悟空が八戒の腕をベットに押さえ付け、八戒の上に馬乗りになった。その瞳は旨そうな飯を目の前にした時のいつもの輝きと寸分違わなく見える。
「や…めなさい悟空ッ!」
 悟空を振り解こうともがくが力で悟空に適うわけが無く、八戒は悟空の片手で両腕の自由を簡単に奪われてしまった。
「暴れないでよ八戒。手、縛るよ?」
 言うが早いか悟空は意外な程器用に枕元にあったタオルでその腕をぐるぐる巻きにし、その端をベットの縁に結び付けた。
「なっ…悟空ッ!」
 八戒が力を込めて腕を引いても、ベットがギシリと軋むだけで腕の自由は帰って来ない。
「これでよしッ…と」
 両腕の空いた悟空の手が八戒の衣服に掛けられ、粗雑に衣服を脱がしはじめた。ラフな部屋着で来訪した八戒の服はボタンを外すだけで容易に脱がす事が出来、悟空は鼻歌を歌いながらボタンを一つ一つ丁寧に外していく。
「や…めッ!悟空っ!何のつもりですか!?」
 必死に抗議する八戒を無視し、悟空ははだけた上着をたくしあげた。腕を縛り上げられている為、袖口に溜まり完全に取り去る事は出来ないが、八戒の白い肌を露呈させるにはそれで充分だった。悟空の目の前に現れたのは、いつも人前で露出しないため透き通るように白い八戒の肌。
「八戒の肌って綺麗だな〜、八戒いっつも脱がないからなかなか見れないもんな」
 さらにズボンにまで手を掛けようとしている悟空を拒むように八戒は暴れ出す。悟空が何をしようとしているかなんて、ここまでくれば解るしか無い。
「悟空ッやめなさ…ひッ!?」
 
悟空が腹部の古傷を指でスッとなぞった。それだけで八戒は大袈裟な程身体を震わせる。ケロイド状のその傷痕は、他の皮膚に比べて随分神経が過敏になっているのだ。
「この痕すげぇ痛そう…やられた時痛かった?もう痛く無いの八戒?」
 こんな状況の時に、心配そうな表情で八戒を覗き込んでくる悟空。自分にこんな拘束をしておきながら、そんな顔をするなんて卑怯だと八戒は思った。そんな顔で見られたら本気で抵抗する気も、憎もうとする意思さえも奪われてしまう。
「ええ、もう…大丈夫ですよ」
 この傷も、この傷に関する傷も、もう大丈夫。でも大丈夫になれたのは…自分だけの力じゃ無い。  
「…そっか、じゃ大丈夫だね」
 悟空の顔に笑みが戻る。悟空の笑顔は自分が何をされているのか八戒に一瞬わからなくさせる。この笑顔で何度も癒され、勇気付けられ、励まされてきたから。見ているだけで心が安らぐようなホッとした気持ちになる。
 だが八戒がその笑顔に見とれている間、悟空は黙って微笑んでいたわけでは無い。視界に自分の白い脚が映った時、八戒は瞬時に我に返った。
「えっ…!?」
 いつの間にかズボンが下着ごと脱がされていたのだ。まるで先程の悟空の態度が抵抗する八戒の気を反らす為の策略のようにさえ感じてしまう。だとすると、八戒はまんまとその策にはまってしまった。
「そんじゃいくよ〜、八戒!」
 八戒の一糸纏わぬ下半身を、悟空がその肩に抱え込んだ。
「ちょーーッ、ダメですってば悟…ッ!」
 身構える暇は八戒には無かった。
「−−−−−−−ッ!!」
 八戒は声にならない悲鳴をあげる。悟空はおそらく、行為は知っていてもその為の準備の事は知らないのだろう。だから八戒になんの施しも無く、突然自身を打ち込んで来たのだ。固く閉ざされたままの渇いた八戒の其処は悟空を激しく拒絶するが、それに構わず悟空は力任せに其処を抉じ開けた。狭い其処は急な侵入に対応など出来ず、簡単に裂けて血を流し始めた。八戒の固く閉じた両の瞼には、うっすらと透明な水が溜まり始めていた。
「うわぁ…八戒の中キツぅ!」
「い…やッ、痛ぅッ!動かないで下さ…ッ!」
 本気で痛がる八戒の中を掻き回すように腰を動かせば、劈くような八戒の悲鳴が溢れた。
「…アレ、ひょっとして八戒はじめてなの?マジで?俺ってラッキーじゃん♪」
 悟空は出血すれば初めての証拠というお粗末な知識を八戒にあてはめているのだ。それが女性が相手の場合だとかではなく、初めてだったら出血するものだと決めつけている。だから出血したとて、たいした事ではないと感じている。
  だがあながち悟空の言っている事も全て間違いでは無く、実際に八戒はコレが初めての受け入れだった。勿論今までもこの美麗な容姿の為、何度も男性に誘われる事はあったが全て丁重にお断りしていたのだ。身近な所では、悟浄に何度となく気持ちをほのめかされた事もあった。だが今の関係を壊したくなくて、八戒は気が付かない振りをした。悟浄はそれ以上は何もいわなかった。たとえば三蔵の自分に対する態度がなんとなく不自然だと感じる事があったとしても、気のせいだと思う事にした。
 八戒はこの旅の間、このままの人間関係を保っていたかったのだ。自分さえそんな素振りを見せなければきっと大丈夫と思っていた。だがその均衡を壊したのは悟浄でも三蔵でも無く、意外な伏兵悟空だった。
「ご…く… …こんな事ッ…やめ……なさい…ッ!」
 キッと八戒が悟空を睨み付けた。それは憎しみがこもっているというよりも母親が息子を怒るそれに近く、『怒り』ではなく『叱り』の顔。上から下に物を言い聞かせるその態度。それを聞いた悟空の顔が、不機嫌そうにムッとなる。
「…八戒さぁ…俺の事、どんだけお子様扱いすんの?」
「な…ん…」
「八戒、19の時ナニしてた?カノジョと住んでたんだろ?それって同棲っていうんだろ?Hしてたんだろ?」
 言葉使いこそ多少幼稚なものの、その内容は決して子供らしい言動では無い。八戒はショックだった。花喃との事をそんなふうに言われたというよりも、そんなふうに言った相手が悟空だという事が。八戒と出会った時の悟空は本当にまだ少年で、純真無垢という言葉が相応しい健康優良児だった。一体いつから彼はこんなふうになってしまったのか?自分の教育が悪かったのか、まわりの環境が悪すぎたのか…八戒の頭を疑問と自責の念がぐるぐる駆け回る。
「こうやって、毎日してたんでしょう?」
 突然、悟空が八戒の腰を引き寄せた。その拍子に悟空の凶器が八戒に深く突き刺さる。
「ひッ…!」
 強引な突き入れに入口のみならず内側の裂けていく痛みが八戒の思考をかき消し、現実に引き戻す。その痛みは自分が悟空に犯されているという事実を八戒に嫌と言う程叩き付けてくる。肉体的な身体の痛みに、それを悟空によって与えられているという心の痛みが重なる。
「俺、18なんだよ?八戒がカノジョとえっちしてた歳と、殆どかわんないんだよ?わかってる?」
「……ッ、あぁッ!!」
 悟空は身を勢い良く引き抜くと、乱暴にまた奥まで突き入れた。痛みに跳ねた八戒の腰を押さえ込み肌を打ち付けながら激しい出し入れを繰り返す。ぶつかりあった皮膚が絶えまなく高い悲鳴をあげれば、八戒はそれ以上の悲鳴を口から漏らす。
「痛ッ、イッ…あッ…嫌ッあぁ、悟空…やめ…てッ!」
 髪を振り乱し縛られた腕を振り解こうと力を入れるが、制御装置を付けたままの八戒の腕力など微々たるもの。縛られた布さえ引き千切る事は出来ない。
「俺が何にも知らないお子様だって、ずっと思ってたんだろー… 俺だって欲情するし、Hだってしたくなるんだから。もう大人のオトコなんだよ?」
 行為は強行しても技術に欠ける悟空のsexは八戒に何の快感も興奮も与えてはくれない。自分勝手で乱暴なsex、自分が昇り詰める事が中心で愛撫も労りも其処には皆無なのだ。悟空は八戒自身に触れる事も無く己の欲の為のみに腰を揺さぶる。その行為が八戒にもたらすものは、純粋な痛みでしかない。
「お…願…ですっ…もう、やめて下さい…ッ!」
「だ〜め、やめないよ。ずっと八戒のコトこうしたかったんだから!」
 泣きながら懇願する八戒の頬を流れる涙を悟空はペロペロと舌で嘗め、子供っぽく何度もキスを繰り返した。じゃれつく犬みたいな上半身に反比例して、その身体は相変わらず八戒を酷く傷つけ続ける。血の伝い落ちる其処からシーツに赤い染みが徐々に広がっていくが、そんな事は悟空には関係がない。高まっていく己の欲望を八戒の中に早く開放する事だけを考えて、揺らす身体を速めてくる。
「あ…出る…っ、八戒、中に出すよッ!」
 内側に感じる悟空の熱がビクビクと痙攣したのを感じ、固く八戒は閉じていた目を見開いた。
「ご…くぅッ…!い…嫌ああぁっ……!」
 自由の効かない身体で、八戒はその名前を呼んだ。目の前の、自分に暴力を振う一人の男の名前を。

 

「…酷いです悟空…こんな…」
 八戒がようやく落ち着きを取り戻したのは、三度程悟空をその身に受けた後であった。
「だって八戒は俺の物なんだもん、このくらい当然でしょ?」
 何の悪びれもなくそう言って、悟空はぐったりとした八戒の長い脚をようやく肩から下ろした。とろとろと八戒から溢れ出す桃色の体液が、下ろされた脚を伝い始める。
「もう…解いて下さい…」
 余程暴れたのか、八戒の手首は鬱血した痣がくっきりと浮かび上がっている。白い肌に浮かぶその赤が、悟空にはこのうえなく綺麗に見える。ずっと手に入れたくて、夢で何度も犯した八戒。でも今日、本人公認の元、ようやく自分の物になったのだ。
 八戒は自分には絶対に逆らわない、悟空にはその自信があった。自分の笑顔が八戒には大変有効な武器だという事を、悟空は今日改めて再認識した。無邪気に笑う自分には八戒は攻撃できず、きっと流されるまま言う事を聞いてくれる。三年前からコツコツ積み上げてきた自分の純粋な人物像と、それを自分の本当の姿だと信じている八戒との信頼関係が彼をそうさせてしまうのだ。悟空にとってこのうえなく都合が良い。
 だけど八戒は誰にでも優しいから、強引に迫られたら誰にでも流されるんじゃないかと、少し悟空は不安になった。 せっかく手に入れた自分の物を人に触られるなんて絶対嫌。
「…そんなの許さないよ」
「何…です?」
 八戒に向かって延ばされた悟空の手は、拘束した腕を解こうとはせず再び傷つけられた箇所に伸びてきた。まだ痛む其処に触れられ、八戒の身体がビクンと強張る。
「…ごく…う!?やッ…!」
 悟空は八戒の中に指を差し込み、乱暴にされて切れた内側の壁をなぞる。流れた血と放たれた悟空の体液で濡れそぼった其処は淫猥に湿った音を立てながら悟空の指をニ本、根元まで飲み込んでいる。
「ね、痛かった?八戒」
 傷に触れられる痛みに八戒が小さく呻き、身体をよじる。くちゅくちゅと耳に付く音に羞恥と嫌悪を感じ、八戒の瞳からは止めどなく涙が流れ落ちる。
「…ココ?」
 そう言うと悟空は裂けた内壁の傷口に乱暴に指を突き入れ、その傷口を広げるように二本の指を押し開いた。 
「いッ…!?やああぁぁッ!」
 八戒の身体から流れ出す体液の紅の色が強くなる。絶叫する八戒の中から真っ赤な指を抜き取ると、悟空は満足げに口の端を吊り上げその血だらけの指を舌先で舐めた。
「痛い?」
「ご…くぅッ!…何をするんですか…ッ!」
 目にいっぱい涙を浮かべながら、八戒は悟空を睨み付ける。それはもう『叱り』の色では無かった。
「これで、傷が治るまで悟浄とも三蔵とも浮気する気にはなんないよね?」
「…!」
 口の周りを赤く染めながら、血の付いた指をなめる悟空に八戒は恐怖すら感じ始めた。浮気させない為にと、八戒を傷つけたのだ。八戒は彼が正気に思えなくなってくる。
「だからその間八戒と出来るのは俺だけだよ」
 ニィ…と血に染まった口が吊り上がり、その身体は再び八戒に乗りかかってきた。
「い…嫌…嫌です…やめて悟空……嫌……いやああああああぁぁぁーーーッ!」
 痛みの増した八戒の傷口を、容赦の無い悟空の凶器が切り裂いていった。
「ねぇ八戒、今日から八戒は俺のモンだよね?だけど三蔵にも悟浄にもこのコト言っちゃダメだよ?絶対あいつらも八戒の事欲しがるからね!だから内緒だよ?だって約束だもん、約束したもんねぇ八戒…約束は破っちゃだめだよねぇ?」
 そう言った悟空の顔は悪意の欠片も無い恐ろしい程無邪気なものだった。下半身を凌辱する暴力はあいかわらず緩まないのに、向けられる詐欺な程の笑み。怒鳴る事も、拒む事も躊躇させてしまうような…。
 激痛に霞んでいく意識の中で、八戒はふと、あることを思い出した。動物の子供は自分の身を守る為に、自分を『弱く可愛い物』と思わせ相手を欺く術を生まれながらに持っているという話だ。思わず可愛がってやりたくなる程の外見であったり、仕種であったり…そうすることで相手に自分を守らせたくなる衝動にさせ敵意を消失させてしまうという。そうする事が本能として遺伝子に組み込まれているのだと。

いつからこんなふうになったのかではない、彼は『最初から』こうだったのだ。

 


 こうも車泊が続いては身体が痛くなってくる。だが今日は久しぶりにちゃんとした屋根の下で寝られる事になり、三蔵一行は誰もが心密かに歓喜していた。約一名を除いては。
 だがその宿の店先で一つの争いが起る事もある。そして今日も、誰かの不平の声が響いているのだ。
「ゲ−ッ、相部屋かよぉ?」
「文句を言うな!」
「俺、八戒と一緒が良い!いいだろ三蔵?」
 ビクッ、と八戒が僅かに震えた。だが誰も気がつく様子はない。
「猿…てめぇ一人だけ安眠を確保するつもりか?俺にこのゴキブリと寝ろと言う気か?」
 相部屋となれば決まってこう言う悟空に、三蔵は即座にOKを出してはくれない。誰もが八戒と同室になりたがるのはいつもの事だった。なぜなら八戒と同室になれば一人部屋とたいしてかわらない居心地の良い空間が保証されるというのがその理由だ。
「じょーだん!破戒僧様と同室になるくらいなら俺はオネェちゃんの家にでも行ってくらぁ、ンじゃ〜ねぇ♪」
 三蔵との同室を極端に嫌う悟浄は、三蔵と同室になると聞いてさっさと宿屋に回れ右した。相部屋割りでいつものように悟空に喰ってかからない所を見ると、あらかじめ昼に気に入った女との約束を取り付けていたのだろう。
「そうか、煩いゴキブリが居なくなるんだったら俺は一人部屋になれるって事だな。…かまわん、好きにしろ。」
 今日の争いの結果は誰もが納得の解決策と思われた。それは、約一名の不平を隠したままで。
「おっしゃ、じゃあ部屋行こっ八戒!」
「は…はい…」
 彼が八戒と同室になりたがる事に、誰も疑問も不安も抱かない。もちろんそんな事も彼の計算通り。誰もこの無邪気な笑みを疑う者などいない。
 こころなしか笑いの引き攣っている八戒に誰も気付く様子も無く、各自散っていくのを八戒は恨めしそうに見つめる。
「何してんのさ八戒、早く行こう?」
「は…い」
 自分にまとわりつく悟空の笑みが以前の様に純真に見えなくても、八戒は今日も悟空の好きな笑顔を作らされる。彼の為に。彼を喜ばせる為に。


 彼は周りが自分に甘い事を知っている。自分を可愛がってくれている事を知っている。
自分が子供らしく甘えれば甘やかしてくれる事を、彼は良く知っている。
彼が意外にも策略家だという事を知る人はあまりいない。

 無邪気に笑う策略家は、その計画の成功に今日もとても満ち足りていた。


 

end

 どうも魅夜の悟空は世の中一般に出回っているのと違うようでございます(笑)でもこれが魅夜的理想悟空だったり。だって18だもんさ悟空。その歳で『赤ちゃんはコウノトリが運んで…』なんて考えてたらマジキモなもんです。むしろ魅夜悟空は本当は知ってるけど皆の前では知らない振りをして、皆が自分を純粋だと思っているのを一人で笑ってるような子です(嫌かも)。こんな悟空はお嫌いですかい?(笑)

2002.07.29
 

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