『ネスティ…… ネスティ・ライル!』
その名前で呼ばれる時
僕は人としての威厳を失い
ただの玩具になる。
蒼の監獄 <命>
「んふっ…はぁ、んぁっ…」
一糸纏わぬその姿で、ネスティは一心不乱に『主』に奉仕をする。 其れは生きる為に必要な技術であり、生きるのに堪え難い屈辱でもある。
「本当に貴様等融機人というのは淫らな生き物だな…」
「……………」
ネスティは無言のまま奉仕を続けた。
誰に教わった訳でも無かった。生まれた時から、知っていた。そうする事を、そうしなければならない事を。先祖代々受け継がれる記憶は、過去にどれだけの屈辱をうけ虐待を受けてきたかをすべて知っている。たとえ自分が経験した事のない行為であったとしても、まるで自分が受けた仕打ちかのように知っている。其れ故にどうすれば相手を喜ばせる事が出来、気に入られ、生き延びられるかを、知っている。
まるで本能のように。
「もう、よい」
「んふぁ…」
フリップは懸命な舌使いによって硬く勃起したそれをネスティの口から引きずり出す。口から唾液の糸を引いて抜き取られたその拍子に充血した其れから白濁した液体が迸り、ネスティの顔に、メガネに、髪に、ぬちゃりと擦り付く。
「あ…」
顔中にかけられる屈辱を、ネスティは無抵抗のまま浴び続ける。
逆らってはいけない、生きる為に。
「くく…本当に貴様は卑しいな。そんなにこれが欲しいのか?」
フリップの手の中には、ネスティがこうまでしても望む物があった。融機人がこの世界で生きていく為に必要な、薬。いうならば生命維持薬。
「…………」
ネスティはフリップからは見えないように下唇をかみながらも、黙ってこくんと頷いた。
「ふん…ならばくれてやろう」
汚液散る床に薬が投げ捨てられた。カツンと一度床を跳ねた薬は、白い水たまりの中に吸い寄せられるように飛び込んでいく。
「拾え。手を使うな、口でだ」
「………っ…」
肩を震わせるネスティを、フリップの杖が打つ。
「聞こえなかったのか!?」
「…っ…いえ、聞こえております…!」
そう答えると、ネスティは獣のように四つん這いになり汚れた床に顔を近付ける。
「舌で取るんだ」
「……はい」
水たまりに顔を寄せ、言われるがままネスティは薬に舌を伸ばす。だが人の舌などそう器用に出来ているものではなく、つつくように舌を動かせば薬は位置をずらすだけで拾い上げる事など困難。
白い水たまりの上を動き回る錠剤をぴちゃぴちゃと音を立てて必死に舌で追うその様は、さながらミルクを舐める猫のよう。
「ふ…まるで下等な生き物だな」
全裸のまま四つん這いになり、その屈辱的な姿勢の獣に遠慮無く蔑む言葉が浴びせられる。床に着いたネスティの掌がきゅっと握られ僅かに震えるが、ネスティはそのまま獣を演じ続ける。
「貴様にはその恰好が相応しいぞ…ネスティ・ライル!」
突如背後から尻を鷲掴みにされ、肉を左右に押し広げられる。
「ーー!」
そして突き刺さる痛み。当然のように犯される孔。
「…っ…あ、あッ…!」
乱暴に打ち付けられる腰にネスティのひ弱な身体が軋みあがる。何の施しもなく与えられる拡張は痛みでしかない。だが、ネスティの中に刻まれる忌わしい記憶は、その行為に一番快楽を感じ得ていた者の記憶と置き換えようとする機能が働くのだ。痛みを与えられ、歓喜する獣の記憶へと。
「あ…あぁっ、は…っん、んはぁッ…」
身体に感じるのは明らかに痛み、それでも口から漏れるのは歓喜の悲鳴。矛盾にも似た脳からの命令は、ネスティの自尊心を封印するよう働きかける。自我など、融機人が持ってはならない、と。それが、一番相手の御機嫌をとれる方法だから。生き抜く最良の策だから。長年の融機人達の生き抜く知恵が、ネスティに浅ましい獣を演じさせる。
「ふ…フリップ…さま…あぁ…ッ!」
床に着いた腕が肘からがくんと折れ、ネスティはべちゃりと水たまりに顔を埋めた。突かれる度に揺れ、その顔には汚液が塗り重ねられていく。
「……ふ…ん……!」
「ん、…あッ!?」
一際乱暴に突かれ、直ぐに抜き取られる感触にネスティの身体が拍子抜けしたように崩れ落ちた。その髪を後ろから鷲掴みにされ頭を強引に持ち上げられる。
「あぅ…!」
浮いた身体を腕で支え、相手の意のまま顔をあげれば、そこにはネスティの望む物が視界に飛び込んで来る。
「あ…」
薬。
「これが欲しいのだろう?」
床に投げ捨てた物とはまた別の、真新しい薬。
「口をあけろ」
餌を待つ雛鳥のように、 ネスティは口をあける。命じられるままに、そして自分の意志のままに。
ネスティの口の中に錠剤が数粒投げ込まれる、そして。
「んぐッ…!あふぅッ…」
「飲め」
立て続けに流し込まれるフリップの体液を、ネスティは喉を鳴らして飲み干した。
ようやく薬を手に入れられた満足感と同時に満ちていく屈辱。芝居の終った舞台には取り残された自我がその虚しさに拍車をかけていく。
だが、これでまたしばらくは生きていける…
「こんなものがないと生きていけないとは…まったく厄介な生き物だな融機人というものは」
鼻で笑うフリップの声がどこか遠くのように聞こえた。呆然と虚を見つめる思考には相手の言葉など右から左にただ流れていく。
「……聞いておるのか!?…まぁよい、用がすんだらさっさと出ていくがいい」
「…はい…ありがとうございました……」
よろよろとたちあがり、顔と頭だけは辛うじてタオルで汚れを拭き取り汚れたままの身体に衣を羽織る。不快で堪らない事だが、それでも忌わしい紋様を隠す事は出来た。
行為の代償に渡された数日分の薬…それを手にネスティは部屋を出る。
「…………」
カツン…。
歩みを止め、ネスティは派閥の廊下で立ち尽くした。自分の部屋に戻る為にはマグナの部屋の前を通る事になる。まるで犬のようにネスティの足音を聞き分けるマグナは、いつ飛び出して来てもおかしくない。ネスティは深呼吸をすると背筋を伸ばし顔に生気を宿し凛として歩き出す。
『優等生の兄弟子』
彼の前では、そうありつづけると決めたから。
カツン、カツン…。
気を張り詰めたまま部屋の前を通り過ぎる。
「………」
マグナは出てこなかった。 ホッとしたような、少しがっかりしたような、複雑な気持ちになる。
バタン。
ようやく自室に戻り、ネスティは戸を背にしたままその場にズルズルと座り込んだ。ここはようやく落ち着ける唯一の閉鎖された空間。
「はぁ…」
安心したのかどっと疲労感が押し寄せ、その場を動くのが億劫になる。だが、不快なままの衣服を着ていたくもないので、のろのろと身体を起こしバスルームへと足を向けた。
衣を脱げば、また忌わしい紋様が現れた。この紋様を持つ一族として生まれた為に、受けなければならない生き地獄。
「くッ…!」
闇雲にその模様に爪をたてれば、白い皮膚は無意味に赤く色付き、紋様はさらに鮮やかに浮かび上がる。消す事など出来ない呪印。ライルという名を継承する罪の一族。
「ふ…は…はは…あはは…っ」
そして、ネスティは笑い出してしまう。
「なんで…僕は…こんな…ッ」
己の汚れた身体を見下すように見つめる心は、何故こんなことをしなければならないのかという諦めかけた疑問すら蘇らせる。こんな事をしてまで、何故生きようとするのか。
こんな世界に生きる意味などあるのか。こんな薬に頼ってしか生きられない不様な人生など…
「こんな…薬…!」
排水溝の蓋を開け、渡された薬をすべて手に取る。必死に手に入れて来たその薬を。
「……っ…」
薬を捨ててしまえば、遠からず自分は死ぬだろう。だが同時にこの地獄から逃れる事もできるのだ。たとえ自らの身体を刃で貫く勇気がなくても。
だが 口を開けて待っている排水溝の上に手を掲げたまま、その拳を開けずにネスティはためらう。
「ネス〜!いる?」
「!?」
突如聞こえる弟弟子の声にネスティの身体に緊張が走った。
大丈夫、鍵はかけてある。
「戻ってんでしょ?さっき足音聞こえたからさ。んで…なんか今日の宿題全然わかんない問題あって、教えて欲しいんだけど…」
緊迫感も何も無い間の抜けた弟弟子の声に、ネスティは苦笑する。苦笑して、そのまま手をおろした。
「……今はちょっとダメだ。後で教えてやるよ…部屋で待ってろ」
ネスティがそう答えると、扉の外のその声は嬉しそうに返事をしてバタバタと騒がしい足音をたてながら自室へと帰っていった。
「………なんで…生きる、か…」
ネスティはまた苦笑した。
この世界に絶望しきった自分に降り注ぐ唯一の光、マグナ。人との接触を避け、機械の様に生きていこうと考えていたネスティの心に無遠慮に近付き、そして抉じ開け、居座ってしまった。始めは戸惑い拒絶したものの、それでも自分を頼り、慕ってくるこの存在はやがてかけがえのないものへと変貌をとげていた。
「…やれやれ…はやくシャワーを浴びないとな…」
自分を必要とする唯一のこの人の為に、自分は生きようと決めたから。彼を護る為に、彼だけは自分のようにはさせない為に。だから、死ねない。まだ、死なない。
たとえどんな仕打ちを受けようと…生き続けてやる。
そう、この命は君の為に…。
end
なんつーか、もう、サモンナイト的に当たり前の事を書いただけですよ。ゲームのストーリー上にこんなシーンが入ってもなんの抵抗もないでしょう?
全年齢向けゲームだったからあえてこういうシーンを省いただけっぽいものあのストーリー(笑)
えーと、こんな感じで「蒼の監獄」はネスティの派閥での日常凌辱シーンをシリーズ化ぽくして思い付くままにさくっと書いていってみようかと思っています。もちろんあらゆる凌辱をねv う〜ん今後地下二階が多くなりそうよ(笑)
2004.09.05