「不二…ッ、もうそんな演技はやめてくれ…!」
手塚は耐えきれずに言った。

 

僕の一等賞

 

「……なにが?」
不二は、にこ、と微笑むと首を傾げた。
「………いつまで…そうやって俺より弱い振りをするつもりなんだ?」
手塚は少し悔しそうに唇を噛む。
「…何言ってるの?君のほうが強いじゃない?」
「違う!」
あいかわらずの笑顔で否定する不二に手塚は声を荒げて反論する。
いつもの手塚らしくもなく。
「本気を出せばお前の方が強い…なのに何故、俺にいつも勝たないんだ!?」
いつも屈辱的な手加減を手塚は感
じていた。
不二と戦う度に、いつも。
それは、手塚もかなりの実力の持ち主だからこそ、
不二の巧妙な演技を体で感じる事が出来るものだ。
不二は自分より…ずっと強い。
「…………テニスの事となると…手塚は鋭いんだねぇ?」
不二は苦笑し、遠回しに手塚の言葉を肯定する。
あえて誤魔化しもせず。
「どうしてだッ!?」
「…どうして、だって…?」
くす…と可笑しそうに不二が笑う。
そんなこともわからないの?とでも言う風に。
「だって…君にはずっと『一番』でいてもらいたいもの」
手塚に微笑みかける不二の笑みは、
それはそれは嫌味な程に、綺麗に。
「ーー俺は…ッ!!」
手塚は不二の肩に掴みかかると、部室の壁に押し付けた。
「いた…っ、酷いなぁ手塚…乱暴しないでよね?」
あくまでも余裕のその笑みを絶やさず、不二は微笑む。
「そんな状態で人の上に居たいなんて少しも思わない…!」
このうえない屈辱に、手塚の怒りがかつて無い程露になる。
「本気で戦え…!俺と…!!」
だが不二はそんな手塚を嘲笑うかのように、
また苦笑する。
「ダメだよ…だってそんな事したら僕、勝っちゃうじゃない?」
「ーーーーーッそれが…それでいいんだッ!俺に、皆の前で勝てばいいんだッ!」
不二の秘められた実力を予測した上で、手塚は自らの負けの可能性を否定はしない。
本気の不二と戦えば、おそらくは勝てないだろう。
だが、そんな強い不二とも戦ってみたい。
手塚の純粋なテニスへの思い、向上心。
「…だから…それじゃダメなんだよ」
呆れた様に苦笑混じりの溜め息で、不二は興奮気味の手塚の手を払い除けた。
「何がだ!?それが…それが自然だ、それが勝負だろう!?」
あくまでも、実力で評価されたい。
正々堂々と、評価されたい。
勝っても、負けても、どちらでもいい。
正当な勝敗という事実が欲しい。
「別に…僕は一番になりたくも無いし…そんなの興味ないんだよね」
だが不二は、手塚とは違う。
勝つとか負けるとか、評価されるとか期待されるとか。
不二にはそんな事、どうでもいい事だった。
「じゃあ…なんだ?何がしたいんだ不二!?」
この男がテニスをしているのは?
青学にいるのは?
手塚の下のNo,2で留まっている、その意味は?
「だから…さ、…わかんないかなぁ?」
不二は、くすくすと、笑う。
「僕が…君を『一番にしてあげてる』っていうのが…そこが、楽しいんじゃない?」
「ーーーッ!!」
あまりにも、屈辱的な侮辱。
会話の成立しない腹立たしさ。
「く…ッ!」
手塚は言葉を詰まらせると、不二を突き飛ばし部室から飛び出した。
「……くす…」
不二は掴まれていた襟元を直すと、手塚の背を見送りながら…
「ふふ…滑稽だね手塚……うふふっ…あははは!」
…笑う。

 

 

 

 

今日も君は僕のてのひらの上
ほら
君は僕が造り出した


道化の一等賞。

 

 

end

 

非常に性格の悪い鬼畜不二です(地上なのにね/笑)手塚が可哀相っすねぇ。
…でもこんな不二も素敵だなぁ(お前感覚おかしいゾ!?/笑)

2003.05.07

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