「手塚は柔軟が必要だな」
「…柔軟…か?」
「そうだな…明日から朝練の前にすると良い。俺もつきあおう、効率の良いやり方を指導するよ」
「…そうか、すまないな乾」
「気にするな手塚、俺の鍛練にもなるからな」

『筋トレ』

「…乾?随分早いな」
 翌朝、部室にきた手塚は、自分より先に乾が来ていた事に少し驚く。約束よりも30分前に来たつもりだったが、乾はその手塚よりもさらに早く来ていたのだから。
「少し用意があったから俺も早く来たんだ。…準備はいいか手塚?」
「あ…あぁ、今着替えるから待ってくれ」
 手塚は急いで着替えを始めた。わざわざ自分の為に付き合ってくれている乾を待たせては悪い。
「…………あぁ手塚、ジャージは着なくてもいい」
「…なぜだ?」
 ジャージを着ようとした手塚はその手を止め、不思議そうに乾を見た。
「薄着の方が良い。薄着だと筋肉の動きが鮮明に見えるからな、どこの筋肉がどの運動で使われているのかよくわかる。どの筋肉が使われているのか、どんな柔軟が必要なのか、手塚も自分でわかった方がいいだろう?」
「…そうか、なるほど…流石乾だな」
 あいかわらずやる事に無駄のない男だ、と手塚は感心する。
 手塚はジャージをロッカーに掛け直すと、乾の元へ歩み寄った。試合以外では殆ど見る事のない、半袖短パン姿の手塚国光。普段は隠れているすらりとした長い脚は、透けるように白い。
「まずは基本の運動からいこうか」
「そうだな」
 手塚は乾に背を向けて座ると脚を延ばした。床に足を延ばしての前屈運動だ。
「押すぞ手塚」
「あぁ頼む」
 乾は手塚の背に手を当てると、ゆっくりと手塚のリズムに合わせてその背を押す。
「痛いか?」
「いや、大丈夫だ」
 乾に押され、手塚は長くのびた足先を掴み、胸を膝に押し付ける。
「1、2、1、2…」
「このくらいでいいだろう、よし、今度は足を開いて前屈運動だ」
「わかった」
 手塚は足を開くと、今度は床に向けて胸を倒す。床に胸がべったりつく程柔軟ではないが、それなりに掠める事はできる。手塚は菊丸に比べればそれほど柔らかいとは言えないが、それでも平均以上には柔軟だ。それほど体が硬いというわけではない。まぁ、誰かさんの言ったように確かに顔の表情筋は硬いのだが。
 手塚は自分でも、これで硬いほうなのか?と少々疑問に感じてはいた。だが、乾の事だ、間違っている事は言わないだろう。きっと、何かどこかに柔軟性に劣る部位があるはずだと思った。そこを鍛える事によって、自分は弱味を一つ克服出来るのだ。
「1、2、1、2…いいぞ手塚、大分体があったまってきたようだな」 
 しばらく前屈運動を続けていると、かけ声を掛けながら背を押す乾の手が手塚のTシャツの裾をゆっくりとまくりはじめた。
「1…2、1……い……乾?」
 突如素肌を露出される感覚に驚いて、手塚が動きを止める。
「気にするな。背筋の動きを見たいんだ」
「…あぁ、そうか」
 手塚は納得して頷くと、乾の好きにさせておく事にした。
 乾は手塚のTシャツを肩甲骨の辺りまで捲りあげると、晒された白い背を下から上に撫で上げる。
「!?」
 その感覚に、手塚の体がびくんと震えた。驚いて乾を振り返る。
「…ほら手塚、ここの筋肉が伸び縮みして運動しているんだ、わかるか?」
 乾はそう言いながら、手塚の背から脇腹に手を滑らせる。
「…な…なんとなく…あ、んっ…!?」
 くすぐったさと妙な感覚に手塚の動きが完全に止まる。
「気にせず続けろ手塚」
「…あ…あぁ…だが………」
「どうした?」
「…いや、なんでもない」
 乾のする事に間違いはないと思い込んでいる手塚は、これにも何か意味があるんだろうと自分で自分を納得させているようだった。
 ニヤリ、と乾が口元を緩めたのにも気がつくわけもなく。
「よし、体勢を変えようか手塚」
「…どうすればいいんだ?」
 乾は手塚の背から手をはなすと、手塚の前にまわった。
「今はこうして床に足を付けて上半身を倒しているだろう?」
「そうだな」
「今度は…」
 グッ…!
「!?」
 乾は手塚の体を床に押し倒した。
「い…乾、何をする…!?」
 急に押し倒され驚いている手塚に、乾は冷静な口調で言った。
「…今度は、背中を床に付けて下半身を持ち上げる運動にしてみようか」
「あ…あぁ、180度反転の発想ということだな? 」
「そういうことだ」
 一瞬動揺した手塚だが、乾の言った意味を理解し再び手塚も冷静になる。 これは柔軟運動なのだ。自分よりもずっと各筋肉の構造や働きに詳しい乾の助言なのだから、疑う余地は手塚には無かった。
「1…2、…1、2……クッ…」
 手塚は素直に床に背を付けた状態で、下半身を持ち上げた。上半身を倒すよりも、全身に力が入る。
「そうだ手塚、いいぞ…」
 だがその光景は端から見るととても滑稽で、見ようによってはエロティックですらある。しかし自分の姿の見えない手塚はそんなこと知るよしもない。
 そんな手塚の姿をしばらく眺めていた乾は、時は来たとばかりに自分の描いたシナリオを始める。
「……そうか、わかったぞ手塚!」
 乾の眼鏡がキラリーンと光る。
「え…?」
「今、見ていてよくわかった。手塚に足りないのは…此処の柔軟だ」
 乾の手が唐突に手塚の尻を撫でた。
「ひゃっ…!?」
 咄嗟にへんな声をあげてしまった手塚だったが、直ぐに冷静な顔に戻る。
「……………どこ…だって?」
 乾は手塚の開かれた脚の付け根をビシッと指差す。
「ここだ!…そう名称で言うならば、すなわち、肛門括約筋!!」
「…こ……」
 手塚の目が、点になる。
「…………乾……お前、たまに自分はかなりおかしい事を言っていると思う瞬間は無いか…?」
 さすがに今回ばかりは手塚も、あぁそうか、という気にはなれない。手塚は呆れ半分で乾に言った。
「何を言う手塚、此処は大切な筋肉なんだぞ?」
「……いや、たしかに重要な器官だとは思うが…そうではなく…」
 そういう事を論じているのでは無い。手塚はそれがテニスと関係があるか否かを言いたいのだ。だが、そこはそれ、相手は乾貞治なのである。
「重要もなにも、下半身の中心にある筋肉である此処は、瞬発力、跳躍力、俊敏さやパワーにまで影響をおよぼすんだ。体に力が入る時、歯を食いしばったり拳を握りしめたりするだろう?あれと同じだ。ここをきつく締めたり緩めたり効率良く出来るかによって、いざというときの咄嗟の力を増大させる作用があるんだ。これをよく火事場の馬鹿力とも呼んでいるな。とにかくスポーツ選手にとってとても重要な事だぞ」
 次々と飛んで来る乾の自信たっぷり且つ論理的な弾丸トークが手塚を惑わせる。
「む……そういうものなのか…?」
 もっともらしく説く乾節に、手塚の疑問は揺らぎはじめた。
「手塚は今までそんな事も知らなかったのか?」
「あ…あぁ…正直初耳だ…。そんな話聞いた事もない…」
 まるで誰でも知っている事だぞ?という乾の口調に、手塚は今まで全然知らなかった自分がおかしいのだろうかとさえ感じはじめる。常識の枠も揺らぎ始めた手塚の様子に、乾は口元に笑みをこぼすとたたみ掛けるように続けた。
「青学レギュラー陣も皆しっているし、家でちゃんと自分で此処の柔軟運動をして鍛えているんだぞ?」
「何!?…そうなのか!?」
 知らなかったのは自分だけ、というよりも、皆家で鍛えているという事に手塚は驚いた。大石も菊丸も不二も…皆?あの越前も!?皆しているというのか、 家で、自分で、どうやって??
 手塚の疑問はどんどん膨らんでいく。
「いちいち口にはしないだろう。みんな毎日家で歯を磨いていますという事を人に言うか?言わないだろう、あたりまえのことだからだ。それと同じ事だな。それにこれは人目を忍んで自分で黙々と毎日続ける自主トレのようなものだから、むしろ口に出さないのがエチケットというのが一般的だな。知らなかったと言う事は、手塚は今まで柔軟を怠っていたんだろう?つまり、それがお前に欠けていた柔軟運動という事だな」
 乾は辿り着いた結果に満足げに頷いた。呆然と聞いていた手塚は、乾のあまりにも自信ありげで最もらしい論に、次第に焦りを感じ始めた。乾の言っている事が本当なのだとしたら、まわりの皆がしていた事を今まで自分はしていなかった事になるのだ。こんな基本的な事を、部長である自分が。手塚はなんだか自分一人が取り残されたような気分になる。
「俺は…どうしたらいいんだ乾?」
 無表情の手塚の表情に不安そうな影が落ちる。おそらく、そんな事も知らないで部長をしていたなんて…とか思っているんだろう。
「何、そう悲観する事じゃ無い。手塚も今日から始めればいいんだ、今からでも充分に間に合う」
 乾は優しい口調で手塚に言った。
「そ…そうか…良かった…」
「やり方を知らないんだろう?俺が教えてあげよう」
「ああ…お願いするよ乾」
「それじゃ始めようか…」
 乾の眼鏡の奥が不敵に光った。
「じゃあまず…服を脱ぐんだ手塚」
「服…?」
「そのままじゃ筋肉の動きがよく見えないだろう?」
「……あぁ、そうか」
 手塚は納得し、服を脱ぎ始める。
「下着もだ。全部だぞ手塚?」
「…あ、あぁ…わかっている…」
 納得はしたものの、風呂でもない場所で全裸になることに抵抗を感じ、手塚は恥ずかしそうに下着に手を掛けた。その下着を降ろすのを躊躇っているようだ。
「よし、一人で裸になるのが恥ずかしいんだな?それなら俺も一緒に脱ごう」
 そう言って乾は豪快に自分も服を脱ぎ始める。
「ほら、これなら恥ずかしくないだろう?」
 乾は手塚より先に全裸になると、隠しもせず堂々と自分を曝け出した。
「乾…気を使わせてすまないな」
 そんな乾の気づかい(?)に手塚は感銘をうけ、躊躇っていた下着を降ろす手を動かすと、 手塚の形のいい尻と性器が乾の前に恥ずかしそうに姿をあらわした。
「そうだ手塚、何も男同士で恥ずかしいことはないだろう?」
「あ…あぁ、それもそうだな」
 そういいながらも、乾の視線はその手塚の裸体を食い入るように眺めまわす。
「あまりジロジロ見ないでくれ…」
 その視線に気付き、手塚がほんのりと顔を赤らめる。
「いや、手塚の筋肉を見ていたんだよ。思った通りイイ筋肉をつけているな、と思ってね」
「そ…そうか、それは良かった…」
 それでも、その乾の視線のしつこさに手塚はまだ顔を赤くしている。しばしたっぷりを手塚の裸体を観賞すると、満足した乾はようやく指示を出した。
「……よし、それじゃ柔軟を始めようか手塚。そこに座って足を拡げてくれ」
「え?」
「さぁ早く、俺によく筋肉が見えるようにだぞ?」
「……あぁ…」
 手塚は素直に言われるまま腰掛けると、そろそろと足を開いた。
「もっと大きく開いて。膝の裏を自分で持ち上げるんだ」
「……わ…わかった」
 言われるがまま、手塚は自分で足を持ち上げ乾によく見えるように足を拡げた。
「こ…こうか?」
「…あぁ。良く見えるぞ手塚」
 目の前に自分に向けて股を開いている手塚に満足そうに微笑むと、乾はしゃがみ込んで手塚の股間を覗き込んだ。
「綺麗な色だな手塚。健康的でいい色だぞ」
「そ、そうか、ありがとう…」
 なにがありがとうなのかよくわからないが、黙っていると恥ずかしいのか手塚は必死に平常心を装って返事を返している。そんな手塚に乾の口元が緩む。
「それじゃ手塚…自分で此処に指を入れてみるんだ」
「え!?こ…ここにいれるのか?」
「そうだ」
 驚愕している手塚に乾は真顔で答える。
「自分の其処がどれだけ柔軟が必要なのかを、自分で理解するんだ」
「わ…わかっ…た」
 面白い程素直に言う事を聞く手塚は、自分の手を股間に持っていくとそっと己の蕾に触れた。皺に隠された其処は硬く閉ざされたままで、指を入れてみようとするがそれと同時に身体に力が入りその侵入を拒む。
「……入らない」
「もっと指に力を入れるんだ」
 反射的に加減しているのを見ぬき、乾は手塚にもっと手に力を入れるよう強要する。手塚は暫し躊躇ったように己の蕾をつついていたが、意を決したのか突如指を立て力を込めた。
「うぅ…っ!」
 ゆっくりと、手塚の指が己の身体に飲み込まれていく。
「そうだ手塚、できるじゃないか。…どうだ?どんな感じなんだ?」
「…っ、…きつい…ッ」
 異物感に表情を僅かに歪め、無意識に力の入る手塚の身体は自分の指を硬く締め付ける。
「そうか、そうだろう。手塚は柔軟を怠っていたからな、だから筋肉が硬くなってきついんだぞ?」
「あ、ぁ…よく、わかった…っ」
「よし…それじゃ抜いていいぞ」
 その言葉を聞くと、手塚は急いで己の指を一気に引き抜いた。
「ひゃぁ…!」
 だがその感覚に、悲鳴がもれてしまう。咄嗟に出た声の自分らしくなさに手塚は顔を赤くした。
「ふふ…どうしたんだ手塚?」
「…なんだかすごく妙な感覚が…あ、いや、なんでもない」
「そうか?ふふ…」
 悪くない手塚の反応に乾は不敵な笑みを浮かべる。
(やはり…俺の思った通りだ)
 自分の読み通りの手塚の感度に乾は自己満足し、持って来た鞄から何かの瓶を取り出した。
「よぅし…それじゃあ俺が筋肉を解すマッサージをしてやるからな」
 蓋をあけ中の液体を指にからめると、乾は手塚のアヌスを撫でた。
「うッ!?どうするんだ!?」
「オイルマッサージだよ手塚。聞いた事あるだろう?さぁ 始めるぞ」
 返事をまたず、乾はその指をくぼみに潜り込ませた。
「ひぃ!?」
 ぬめる物体の侵入に、手塚の其処に力が入る。粘液の助けで侵入を許した乾の指を手塚は力一杯締め付けた。
「あぁ…ほんとうだ、これはキツいな。これはじっくりとマッサージをしなくてはダメだな手塚」
 乾の指は手塚の其処に出し入れされながら筋肉を刺激していく。
「ひゃ…、ふぁ…!」
 内側を自由に動かれる感覚に、手塚の口から奇妙な声がもれる。
「さぁ手塚、力を入れてばかりじゃなく緩めてみるんだ」
「ぅ…、こ、こう…か…?」
 与えられる刺激に力ばかり入ってしまう其処を、手塚は必死に緩めてみる。
「そうだ手塚」
 その力の弛んだ瞬間に、乾は指を根元まで一気に押し込んだ。
「ぅあ…!あ、乾、指…っ、いれすぎだ…ッ!」
「何を言う手塚、普通はもっと奥まで入るんだぞ?」
「はぁ…あ…ッ、そう…なのか?わかった、我慢…する…」
 乾の言う事には逆らえない。何しろこれが正しい筋トレだと思い込んでいる手塚には、乾は絶対的なトレーナーなのだから。もう乾のペースからは抜けだせないのだ。
「よし…いいか手塚、俺が『1』と言ったら力をいれて、『2』と言ったら緩めるんだ。できるな?」
「…やってみる」
 身体の奥に蠢く指の感覚に必死に堪えながらも、手塚は素直に頷いてそれに答えた。
「それじゃいくぞ……1!」
  ずるるっ!
「ひ、あッ!」
 抜かれていく乾の指を、手塚は思いっきり締め付けた。
「…2!」
  ずぶぶっ!
「うあぁ…ッ!」
 押し込まれる乾の指を、手塚はやっぱり強く締め付けた。
「あぁ手塚、それじゃダメだろう?「いち」で締めて、「に」で緩めるんだぞ?」
「だ…だが…」
「さぁもういちど…1!」
「まっ…あ!」
 抜かれていく指を手塚は強く締め上げた。
「2!」
「はぅ…くっ!」
 そして、今度はちゃんと挿入される指を力を緩め一気に受け止める。
「そうだ手塚、いいぞ!少しづつ速くしていくからな」
「あ…待ってくれ…あっ!」
 乾の指は次第に速さを増して手塚のアヌスを擦りあげた。
「1、2、1、2!」
「あっ、あっ、あっ…!」
 身体をヒクつかせながら、手塚は必死に力を入れたり緩めたりして指を吸い上げる。もはや、乾の思うが侭だ。
「大分良くなって来たぞ手塚、最初より軟らかくなっているのがわかるだろう?」
「ふ…はぁ、よ…く、わからん…」
「そうか?」
 指の刺激を我慢するだけで必死の手塚には、そういう判断などできそうになかった。
「こんなに柔軟になってきているんだぞ、ほら…」
  乾は指をもう一本増やす。
「イっ…!」
「どうだ、さっきまで一本でキツかったのにもう二本も入るんだぞ? 」
 乾は二本の指を今までと同じように出し入れさせた。当然のように、先程までよりも手塚が辛そうになる。
「このマッサージにはそれだけ効果があると言う事だ。わかるな?手塚」
 乾の問いかけに、手塚は眉をよせながら一つ頷いた。
  くちゅっ ちゅ ぐちゅ
「はっ、はっ、はぁっ…」
 二本の指で入口を擦られ、手塚は力を入れたり緩めたりして必死にそれを受け止めた。次第に二本の指はスムーズに出入りできる様になってくる。いい具合だ。
「…よし、このくらいにしておこう」
 乾は指を抜き取った。
「はぁ…ふぅ…、そ、そうか…終ったか。うむ…これは中々きついトレーニングだな…」
 手塚は場違いな台詞を口走りながらも、その表情に安堵の色を浮かび上がらせる。
「…何をいっているんだ手塚?」
「え?」
 乾は安堵している手塚に不敵に笑いかける。
「今度は…これを使って柔軟をするんだぞ?」
 乾の手に握られていたもの…それは、乾自身だった。
「な…お前こそ何を言っているんだ乾!?」
 さすがにこれには、手塚は激しく動揺していた。
「『それ』を使うということは…すなわち『トレーニング』ではなく『性行為』だろう!?」
 手塚だって何も知らないお子様ではない。それを使うべき場所と意味くらい当然知っている。それがこの場にふさわしいもので無い事くらいは。
「おかしな事をいうな?手塚は」
 だが、乾はそんな手塚の反応だって予想済み。ちゃんと次の台詞は用意されているのだ。
「性行為とは男女間で行う繁殖を目的とした生殖行動だろう?俺達は男同士じゃないか、子供などできない。性行為ではないだろう?」
「……む…?たしかに…そうだな…」
 手塚の眉間に皺が寄る。
「それにここは人間のとても繊細で敏感な部位だ、これは指よりも正確に手塚の力加減を感知できる最良の箇所なんだぞ?」
「…ふむ…」
 手塚には乾の言っている事がだんだん尤もらしく聞こえ、さらに共感さえしそうになる。乾の言霊マジックだ。
「それにこれくらいみんな入るのだからな?…まさか手塚は入らないとでものか?」
「そうなのか!?むむ…それは困るな…!」
 みんなはできる、という焦りが手塚の正常な判断力をかき消した。もはや、手塚にとって乾の言葉は正論でしかなくなっているのだ。疑問の余地も無い。
「納得したようだな…それでは何も問題はないな?手塚」
「あ…あぁ……」
 うまいこと手塚をいいくるめた乾は、自分に向けて脚を拡げているその魅惑の門に己の先端をしっかりと押し付けた。
「…いくぞ!」
 無言で頷いた手塚の腰を抱え込むと、乾は自分の腰に引き寄せる。
「く!……う、おぉッ…!」
 苦しそうな手塚のうめき声と共に、手塚の身体はゆっくりと開門していく。
「ひ…っ!」
「大丈夫だ…大丈夫だぞ手塚、俺に任せて力を抜いていれば大丈夫だ」
「…あ、あぁ…まかせる、乾…っ」
 未知の恐怖に怯えながらも、手塚は乾を迎え入れようと四肢を引き攣らせながらも懸命に力を抜く。
「あぁそうだ、そのまま… よし、いくぞ手塚」
  ズズッ!
「おぁッ!?」
 僅かに弛んだ手塚の身体に、乾は半ば強引に自身を埋め込んだ。その拡張感と苦痛に堪え切れず、手塚が悲鳴をあげる。 
「辛いか手塚、」
「う…ッ、はぁ、ッ…乾…少し待て…」
 乾は手塚の言葉を聞いてか聞かずか、その腰を更に奥に沈めていく。
「うっ…あああぁッ!」
  ズブブブ…
 ゆっくりとではあるが、強引に乾は自身を手塚にすべて打ち込んだ。
「く、うぅ、はぁッ、い、乾っ…い、痛…っ」
「あぁ…俺もだ手塚、俺も痛いくらいだ。手塚が力を入れすぎているから二人とも辛いんだぞ」
「む…そ、そうか…すまん…」
 苦痛を訴えた手塚は、逆に言い包められて済まなそうに謝っていた。何を言っても乾のほうが正しく聞こえてしまうのだから仕方が無い。口で何と言おうとも、乾には適わないのだ。
「さぁ手塚、動かすぞ」
「ま…待て!それは困る…!」
 いまだ苦しさを緩和できずにいる手塚は慌てて動こうとした乾を制止する。
「動かなきゃトレーニングにならないだろう?大丈夫だ、最初はゆっくりするからな」
「う…うむ…」
「なぁにすぐに慣れる、大丈夫だ」
「…わ…わかった、まかせる…」
 やはり言い包められた手塚は、出来るだけ力を抜いて乾に身体を預けることにした。
「よし…」
  ズル…
 乾が腰を引く。
「うあっ…あ!引っ張られる…っ!」
 内壁の裏返りそうな初めての感覚に動揺し、手塚の身体に思いっきり力が入った。
「そんなに身体を硬くしていてはダメだぞ手塚」
 痛い程に締め付けて来る手塚に、乾は先程の調教の成果を利用する。
「『1』で力をいれて『2』で緩めるんだ。覚えているだろう?」
 手塚は表情を歪めながらもこくんと頷いた。
「さぁやってみるんだ…いくぞ」
  ズブブ…
 乾が再び腰を押し付けた。
「はっ…ああぁッ!」
「そら力を抜くんだ手塚、『2』だ、『2』だぞ…!」
「は…っ、あぁッ、…に…にぃぃッ…!」
「そうだ、さぁもういちど行くぞ手塚…『1』」
「ん…くあァッ!」
  ズルル…
 締まる其処から乾の其れが抜き取られる。吸い付いて来る肉の壁は乾に最高の快感を与えてくれる。
「あぁ…いいぞ手塚、『2』!」
 そのまま続けて乾はかけ声をかけた。
「ひ…いぃッ!」
「よぅし、段々速くしていくからな」
「待っ…」
 乾は手塚の答えなど無視するように、そのまま動きを速めていく。
「1…2…1、2…1、2!1!2!」
「うあッ…あぁッ!速い…、乾、速すぎるッ…!」
「大丈夫だ、ホラ自然に力を入れたり緩めたり…あぁ、出来てるぞ手塚、いいぞ手塚!」
  パン!パン!パン!
「あっ!あっ!あっ!」
  既に乾の腰の速さは相手を労るような速度ではなく、盛った動物の繁殖行動のように速く激しく動かされる。
「うお…いいぞ、いいぞ手塚!1、2、1、2!さぁ今度は逆にしてみるんだ、『1』で力を緩めて『2』で締めるんだぞ!…あぁっ…いいぞ、そうだ手塚!最高だ!」
「ひっ…あ、あぁッ乾ィッ!…い…ち、に…あ、あぁッ!」
 奇妙なかけ声を掛け合いながら、二人は朝の部室でそのまま暫く肌を打ち付け合っていた。

「はぁ…はぁ…」
 洗い呼吸を整え、手塚がゆっくりと身体を起こす。
「…で、どうなのだ?」
「…ん?」
 まったりと腕のなかに抱いていた手塚が突如そんなことを言い出し、乾は一瞬なんのことかと思う。
「俺の筋トレの成果は」
「あぁ…」
 そういえば、本当に筋トレだと思い込んでいるんだっけ…と、半ばその信じられない現状に乾は苦笑するも自分がそうさせたのだからしかたがない。普通の人間なら途中で気付くものだが、なにしろ相手はあの手塚なのだ。
「そうだな、最初よりは随分と柔軟になった。後半はすごく軟らかくなっていたぞ」
「そうか、成果はでているのだな…」
 真顔で言葉を受け止める手塚を見ていると可笑しくて仕方が無いのだが、乾はあえて無表情のまま会話を続ける。
「だがまだまだだ、まだ平均値にも到達してはいないな」
「む…それではもっとトレーニングが必要ということか…」
「あぁ、そうだ。そういうことだ」
 そして、調子に乗ってもっと手塚を煽るのだ。手塚が気がつくその日まで。
「よし、それじゃあ明日から毎日俺がつきあってやろう」
「…本当か?いいのか乾?」
「あぁ勿論だ」
 実際、ここまで簡単に騙されるとは思ってもいなかった。せいぜい身体を触って終わりくらいだと思っていた。だが結果はどうだろう、ここまで思い通りになるとは…手塚はすっかり乾のいいなりだった。それを利用しない手はないというもの。
「手塚を…誰にも負けない柔軟な筋肉を持った部長にしてやるからな」
 部長としてみんなより鍛えていなくてはという意識の強い手塚には、その言葉の真意などわかるはずもなく。
「そ、そうか…頼むぞ乾!」
 意味がわかっているのかどうか怪しい手塚は、乾の策にまんまとはまり一つ返事で快諾をする。むしろ、自分から頼むくらいの勢いだった。
「あぁ任せておけ…フフ」
 乾の眼鏡が不敵に光る。
(そうだ…もっと太いのが一気に飲み込めて締りも最高の、鍛え上げた極上の括約筋にしてやるからな、誰よりも優れた括約筋にだ!)

 こうして、乾と手塚の奇妙な朝練の日々が始まったのだった。

おしまい。


 

2005.09.04
なんつーかもう、極上に馬鹿?(笑) 真面目に見ないで下さいよ、この話は無意味なギャグなんだってば。

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