何でも出来た。
 たいした努力もせずに人よりも何でも出来た。
 つまらなかった。
 何をしてもつまらなかった。

 生きている事すら退屈だった…。

 そんな僕の見つけた楽しい遊び。
 自分が一番だと奢っている奴の前にひょっこりと現れて、そいつの自慢の鼻をへし折ってやること。
 愉快だよ?
 みんな僕の前では醜い本性をあらわして必死に僕を倒そうとする。
 自分の限界ギリギリの力を発揮して必死に向かってくるんだ。
 その殺意にも似た闘志が、もうスリリングで最高。
 僕が本気なんて出さないで遊んでるだけだっていうのにね?
 相手が本気になればなる程、僕の顔には笑みが溢れるんだ。
 だって楽しいんだもの。
 遊んでる僕に本気で向かって来るのが、面白いんだもの。

 もっと、本気出してよ。
 もっと、必死になってよ。



 そうしたらまた、遊んであげる。








遊戯












「ねぇ君、野球部にはいらないか?」
「いまはサッカーが熱いぜ!」
「バスケやると身長のびるっていうぜ」
「なぁ、俺とバンドとか組まないか?」
 …うるさいなぁ。いつもこうだ。新しい環境にくると、いつもこうやってお誘いばかり。悪いね、どれももう飽きちゃったよ。
 僕はにっこり微笑んで丁寧にお断り。
「不二は部活何も入らねぇの?」
「そうだねぇ…帰宅部でもいいかなって思ってるんだ」
「え〜つまんねぇぞ!?」
 そうだよ、つまんないんだ。何もかも。
「今日部活見学会みたいのあるからよ、いろいろみてみればいいじゃん」
「そうだねぇ…」
 放課後、僕は特に何か期待していたわけでも無くぶらぶらといろいろな部活を見てまわった。だって、暇だったからね。
何を見るでもなく歩いていると、高いフェンスに囲まれた一角が視界に飛び込んで来た。
「…………テニス部か…テニスももう飽きたしな……」
 テニスは小学の時に一通り制覇してしまった、だからもういいや。でも素通りしようとしたフェンス越しに、なにやら楽しそうな争いごとを発見。僕は歩みを止めコートを覗き込んだ。
「………!」
「………」
「……!!」
 なにかを言い争っているみたいだけど、遠くて声が良く聞こえない。僕は見学用に一般開放されているフェンスの中に入ると、コートに近付き耳を懲らす。
「…コートに出ろ!勝負してやる!」
 あぁ、やっと聞こえた。
「僕は構いませんが…」
 どうやら喧嘩の決着をテニスで勝負しようってことらしい。でもどう見ても片方は入ったばかりの一年生みたいだけど。
「てめぇに先にサーブ打たせてやる!」
 コートに出た大きい方が、小さい方にボールを乱暴に投げてよこした。相手にサーブ権与えて先輩の余裕をみせつけてるってわけだ。あぁいいねぇこういう雰囲気…ああいう人って本当めちゃくちゃに負かしてやりたくなる。
「……いいんですか?僕が打っても」
「あぁハンデくらいくれてやる!さぁ来い!」
 ボールを受け取った小さい方はラケットを持つとコートに出た。
(………あの子、上手い…)
 僕の直感がそう告げた。
「では、いきます」
 黄色いボールが空に舞い上がる。
(…左利きだ!)
 ボールを放っただけで僕にはわかった。 ラケットを握っているのは右手…だけどあの子は間違い無く、左利き。
「!?」
 その繰り出された速球に、大きい方は反応すらできずに愕然としていた。
「…二本目いきますよ?」
 淡々とした口調でそう告げ、強烈なサーブがもう一本。勿論相手は反応なんてできていない。見えてもいないんじゃないかな。
(あははっ、あの子結構やるね?)
 楽しい…!
 調子こいてた先輩をいとも簡単にあしらってるよ。しかも、彼が左利きだってまだ誰も気付いて無い。こんなに馬鹿にされて遊ばれてるのに、あんなに必死になっちゃってまぁ…。
「うふふ…イイ気味」
 試合は勿論ストレート、小さいあの子の圧勝。
「…これで気が済みましたか?御不満ならもう一試合しても構いませんが」
「く…!」
 わざと相手をあおっているとしか思えないあの態度。素で言ってるとしたらとんでもない天然だよ。
「手塚…てめぇ…!」
 ふぅん…手塚っていうんだ。
「くす…」
 僕は自然に笑顔が顔から溢れ出る。こんなに愉快な事って無いよ?あの遊びで楽しんでいたのは僕だけじゃなかったんだ。そうだよねぇ、あの遊び楽しいもんねぇ。でも、最近は一人で遊ぶのも飽きて来たところだったんだ。
 あの子となら…一緒に遊べるかな…?
「…ん?君は新入生?テニス部見学?」
 そんな僕の存在に一人の部員が気付き、近付いて来た。
「はい、見学を………」
 よし…決めた。
「…僕、テニス部に入部しようと思いまして」
 ここに入ろう。
「お!まじで?歓迎するぜ!」
「はい…よろしくお願いします」
 そういって僕は人当たりのよい笑顔でにっこりと微笑む。
「おーい!入部希望者一名ゲット!」
 部長らしい人の所に走っていった人を無視し、僕はついさっきまでコートにいたあの子に走り寄る。
「…今の試合見てたよ、すごいね君」
「………君は誰だ?」
 汗一つかいてない涼し気な顔で、その子は無愛想に僕に聞いた。
「僕は今日からテニス部に入った不二周助だよ。よろしくね」
「…そうか、手塚国光だ。よろしく」
 僕が誰しも虜にする魅惑の笑顔であいさつしてるのに、この子ってば少しもニコリともしやしない。なんて無愛想で、僕に無関心なんだろう。…面白いなぁ、この僕すら君の遊びの対象にしようっていうのかい?ただ者じゃないね君、本当に面白いよ。
「手塚国光…か」 
  うふふ…面白い子、見つけちゃった。 これで3年間楽しめたら良いな。








 君の傍で、君が次々と先輩やら他校選手やら負かしていくのを眺めてる。
 面白いなぁ…みんな必死に君に向かっていくんだもの。
 君って、相手の恨みを買うのが本当に上手いよね?
 見習いたいくらいだよ。
 でも、たまには僕にも遊ばせてよ?
 君と戦う気満々で挑んで来た相手を、君と戦わせる事も無く僕が負かしちゃう。
 君まで手も届かずに僕に惨敗するなんて思わなかったんだろうね。

 見てよ、なんて悔しそうなんだろう、あははっ愉快だねぇ。

 自分が強いって勘違いしてるからだよ、凡人のクセに。
 かなうワケなんかないじゃない?
 だって僕達は天才なんだもん、一緒にしないで欲しいよね?

 うふふ…楽しいね。
 テニスって…楽しいね。
 ねぇ、手塚…。


 

2005.03.16

天才且つ歪みまくった不二。218話を見た時にすぐ書きたくなって、そのくせいまさらUPです。ホントはまだ続きがあって、続き書いてからいっぺんにUPしようかなって思ったんですけど、諸事情によりこっちだけにしました(苦笑)
でも218
話見る前から魅夜にとって不二ってこういう人でしたけど。え?みなさんは違うんですか? (笑)

そしていつか地下二階にでも続きの小説かこうかと…思ってたり。(苦笑)
 


 
 

 

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