LIAR
どうすれば、ジェイドが思い通りになるか。俺は知った。
とても簡単な事だった。
「ジェイドのせいだ」
ベッドに縛られるまま、ジェイドは抵抗なんてしない。
「全部ジェイドのせいだ」
ジェイドが抵抗できなくなる呪文を、俺は知った。
「なんで俺が…こんな思いしなきゃなんないんだ?」
自分の思っている事を、素直に言うだけでいい。
「ジェイドは…俺を見ていて平気なの?ただのひとごと?」
ちょっとだけ、彩をつけて。辛そうな顔で泣きそうな声で。
「無責任だよ」
ほら、もうそれだけで、ジェイドは無抵抗になる。
「何か言えよ」
力なんていらない。譜術なんていらない。
「ジェイド」
ジェイドを黙らせるには、言葉だけ。感情的な真実の言葉を突き付けてあげるだけ。
それだけでもう、ジェイドは俺の奴隷。
俺という存在が故に、その効果は絶大。
「黙っているのは猾いよ」
何も言い返せないのなんて知ってる。全部、認めてるから。全部、本当の事だから。
ジェイドは全部、受け止めようとしているんだ。
現実も、俺のこのどうしようもない感情も。
「ジェイドは…俺がいなくなったほうがホッとするんだろ」
だから俺は、それを殺さず隠さず、ぶつけるんだ。
「俺は…ジェイドの人生の汚点なんだもんな?」
ジェイドにとって見たくも無い、消したはずの過去の遺物。
それが俺。
見れるわけないよね。好きになれるわけないよね。
だから俺だって、好きになれるわけなんかないよ。
「俺、あんたが嫌いだ」
自分で巻いた種を、自分で刈り取れなくなったから。
だから、俺が刈るんだ。
「大っ嫌いだ」
どうして俺がこんなに悩んだり苦しんだりしなきゃならないの?
「自分で……生み出したくせにっ…!!」
俺はジェイドの足を抱え上げ、沸き上がるいら立ちをジェイドの中に突き入れる。
「あくッ…!」
初めてジェイドが声を出した。
それは、言葉でも何でもないただの音。
「うくっ、んっ…ん…」
突き入れられた俺が動く度に、ジェイドは抑えた声を漏らす。
何も反論せず、俺の暴力を黙って受け入れるジェイド。
毎日、毎日。
「自分の汚点に組み敷かれる気分はどんなかんじ?」
縛り付けた手には力も入らず、抵抗の意思がない。
俺がこうやってぶつける思いを、ただ黙って受け入れる。
「ねぇ…ジェイド…」
ジェイドの中は暖かい。
ジェイドの体は消えない。
猾いよ。
俺だって、まだ消えたくないのに。
俺、まだ七年しか生きてないのに。
ジェイドは何倍も生きてるのに。
ジェイドは、この体は、消えないんだ。
本物の体。
本物の人間。
「俺…消えたくない…消えたくないよぉ…」
他の人には、言えない思い。
俺とジェイドの、二人の秘密。
「ジェイドが編み出した術だろ!?ジェイドは何だってできるだろ!?」
本当に、何でもできたら…いいのに。
「助けてよジェイド…なんとかしてよぉ…」
何度口にしたかわからない、心の叫び。
毎日、毎日。
何度も、何度も。
「ルーク…」
困ったようなジェイドの表情。
毎日眺める苦悩するジェイドの姿。
繰返される俺の我侭。
そう、これは我侭なんだ。
「私には…乖離していく貴方を止められないのです…」
知ってる。わかってる。俺消えちゃうんだもん。
わかってる…わかってるんだ。
でも言わせて。
苦しいから。
「結局は、手に負えなくなって見放すのかよ?…最低だよジェイド…!」
違うってわかってる。
最低なのは俺の方。
だってこうでもしないと…ジェイドの記憶に刻み付けておける自信がないんだ。
こうでもしないと、ジェイドの記憶から俺が、消されてしまう。
不要になったデータを処分するみたいに、いつか綺麗に整理されて。
俺というものが、ジェイドの中からなくなってしまう。
…だから忘れられないように、その身体に刻むんだ。
これは俺の、ただの我侭。
俺…我侭坊ちゃんだからさ…。
「すいませんルーク…私は…」
ごめんなさい。
「もう、いい…!」
いいんだ。
本当にもういいんだ。
「あんたの望み通り…死んでやるよ」
だから安心していいよ。
俺、ちゃんと消えるから。ジェイドの前からもうすぐいなくなるから。
俺がいなくなれば、きっとジェイドは今より楽になれるんだ。
「これで満足だろ?」
俺の師匠。
俺の、生みの親。
「ルーク…」
ありがとう。
…大っ嫌いだよ、ジェイド。
だから俺の事…忘れないでね。
end
2009.03.22