「ルーク!いったいいつまで寝てるの!!」
 また今日も、寝坊してしまった。
「…くっそ〜、明日こそは寝坊しねーぞ!」
 毎日毎日、何度も何度も、皆にどやされ馬鹿にされいびりのネタにされる寝坊癖。ルークは明日からは絶対に寝坊しないで起きてやろうと心に誓っていた。
「でも御主人様…ガイさんの真似しても結局寝坊したですの」
「うっせーな!わぁーてるよ!黙ってろブタザル!」
「みゅう〜…」
 早起きのガイと一緒におきる事で寝坊を克服しようと試みるも、撃沈。早すぎるガイの起床時間についていけず、結局今日も寝坊だったのだ。だがそれをうざい動物に突っ込まれると、いら立ちも一際である。ルークはみゅうに八つ当たりをしつつも、明日寝坊しない方法を思案する。
「…そうだ、ジェイドなら!あいつ絶対寝坊とかしなさそうだよな?」
「ジェイドさんですの?」
「よーし!あいつが何時に寝て何時に起きてるのか、探ってやるぜ!」
 規則正しいを絵に描いたように見えるジェイド。おそらく誰よりも健康的に寝起きしているに違い無い。ガイの起きる時間は早すぎてついて行けなかったが、きっとジェイドなら一番最適の時間に寝て、一番最適の時間に起きている事だろう。
「御主人様、ジェイドさんの生活を覗き見するですの?」
「馬っ鹿!変に聞こえる言い方すんな!ちょこ〜っと観察するだけだよ!」
「みゅう〜…同じですの」
「うっせ!」
 こうして、ルークのジェイド観察の日々は始まった。

 

ジェイド観察日記

 

○月4日 晴
 寝坊した。くそ、明日からはしねぇっつーの!何しろ俺に策が有るんだからな!よ〜し、今日はジェイドが何時に寝てるのか、探ってやるぞ!
 ジェイドはいつものように皆と食事して、その後しばらく雑談をして…いつもと同じだ。そしてちょっと俺がトイレに言っている間に、戻って来たら居なかった。
 …どこいった!?
 ガイに聞いてもティアに聞いても、知らないといっていたな。宿の中にはみあたらない。あんまり俺がジェイドの事を聞くので、アニスに変な顔をされた。やべーな。俺がジェイドを探ってるのがばれたら、あっという間にあのネクロマンサーの耳にはいるぞ。今日はこのへんにしておくか。

○月5日 晴
 寝坊した…くそ、ジェイドのせいだ!今日こそぜってー奴の動きを探ってやる。
 ジェイドは昨日となんらかわらない。飯の後にはちょっと雑談して…お、部屋出てったぞ? よし追え!俺!
 …見失った。くそ。なんで常に気配消して歩くんだよあいつは!?
 どうやら宿の外に出かけたみたいだ。

○月6日 曇
 寝坊したぞ。ちっくしょー!今日こそジェイドの後をつけるぜ!ん?なんでジェイドのあとつけてたんだっけ俺?なんかもう、よくわかんなくなってきたな。まぁいいや。
 ジェイドが今日も出かけていった。今日はぜってーにがさねぇ!このルーク様を甘く見るなよネクロマンサー!
 ついていくと、ジェイドは一人で店に入っていった。なんだ?あいつ毎日一人で酒のんでんのか?まぁ俺等未成年だから気を使って…って、んなわけねぇな、あのジェイドが。 俺等の前で平気で飲むだろあいつなら。
 つうか、酒飲めば寝坊しないのか?ひょっとして。アルコールの作用で短時間で熟睡出来てとかなんとか、よくわかんねーけど、そういう理由とかあったりして…って、ジェイドがいねぇ!?どこ行った!?さっきまであの店にいたよな!?
 くっそぉ!今日の所は撤退だ!

○月7日 晴
 はいはい、寝坊ですよ!悪かったな!
 今日もジェイドは店に入っていった。今日はこっから先も気を抜かねぇぞ! …くそ!通りすがりの奴が俺を指差して変な目でみやがるぜ…ストーカーじゃねぇよ!うっせーよ!
 ジェイドは…カウンターで何か飲んでるな。たぶん酒だ。量はそんなに多く無いみたいだな。隣にすわってる奴と何か話してる。お?ジェイドが動いた。店を出るみたいだな、やべ、隠れないと!
 ………あぁそうだよ、見失ったよ!

○月8日 雨
 雨の朝って皆寝坊するだろ?そういうもんだろ?くそ。天気もうぜぇが皆の視線もうぜぇ!あぁ寝坊してすいませんでした!
 ジェイドが店に入ってから、どうやらあまり時間が立たない内に店から出ている事はわかった。ようはそのあとだ。雨が冷たてぇ…くそ!早く出て来い鬼畜眼鏡!!……お?…よし、ジェイドが動くぞ。昨日は隣の奴と一緒みたいだったけど今日は、ひとりだな。まぁどうでもいいやそんなこと。
 バーみたい所をでてから、ジェイドに気付かれないようにあとをつけると、ジェイドはどっかの建物に入っていった。これ、何の建物だ?ていうか、それっきり全然でてこねーし。…なんか眠くなってきた……。
 ……… って、つい寝ちまったぜ。もう外ちょっと明るいじゃねぇか!? やっべ!帰って寝ないと明日も寝坊しちまう!

○月9日 曇
 当たり前だろ!?殆どちゃんと寝て無いんだぜ!寝坊するだろ!?
開き直りはみっともないとか言いやがったあの冷血女!くっそ〜その後ろで笑ってる眼鏡が憎らしい。てめぇのせいなんだよ!
 今日もジェイドはバーを出るとどこかの建物に入っていくみたいだ。…ん?建物の入口で誰かとはなしてるな。知り合いか?どうやら待ち合わせでもしてたみたいだ。二人で中に入っていった。
 ……………つうか、ちょっとまて。これ………ラブホじゃね?うわ、うわ、俺何かすげぇ現場に居合わせてねぇ?ジェイドの逢い引き現場目撃じゃん!……つうか、待て。さっきの相手、男だったろ。あれ?…落ち着け俺。今ちょっと混乱してるぞ。
 とりあえず今日は帰って寝よう。

○月10日 晴
 昨日ちょっと混乱したしよ、寝坊するぜそりゃ。ていうか昨日の相手、どう見ても男だったよな? う、う〜ん?俺の見間違いか?今日は昨日のモヤッとした感覚をハッキリさせてぇ!
 ジェイドが店を出た。知らない奴と一緒だ。やっぱ…男、だな。
 ジェイドが建物に入って行った。…うん、ラブホだな。
 ……あれ?やっぱこれって……そういうことなのか?女だったらネタにいびってやろうと思ったけど、これって、うわ、どうしていいかわかんねぇ!
 と、と、とりあえず…出てこねぇし、帰ってねるか…。

○月11日 雨
 雨だしよ、なんか昨日戻ってからも寝られなかったしよ…寝坊もしかたねぇじゃん。昨日の事ジェイドに聞いてみようかな…つうか、やっぱ聞けねぇよ。 それじゃ俺があとつけてたのもバレるっつうの!
 ジェイド、今日は出かけないみたいだな。雨だしな。いや、でも前に雨でも出かけてたよな。ひょっとして…俺がつけてたの気付いたのか?い、いや、気付いてたら直接言って来るよな?気付かれてねぇよ!うん、大丈夫。
 夜になって、ジェイドがガイの部屋に入ってった。あ、今日はあいつらが同室だからジェイドにとって自分の部屋か? まぁどっちでもいいや。とにかく今日は本当に出かけないみたいだ。ていうかガイも災難だよな。結構あの鬼畜と同室になるもんな。俺なら絶対ごめんだね。またいつもみたいに弄られてんだろうな、お気の毒さま。…へへ、ガイの困ってる姿ちょっと覗いてやるか♪
 え?
 あれ?
 な、なななな?
 何やってんのあいつら!?
 ちょ、待てって、おい!?ガイ、それジェイドだぞ?ジェイド、それガイだぞ?何やってンだよ!?おいガイ!騙されるな!そいつは毎晩遊び歩いてるような奴だぞ!?って、そ、そういう問題じゃねぇし!何を野郎同士で…ってうわわわまじかよ!?何だこれ!?落ち着け俺!落ち着けルーク・フォン・ファブレ!
 つうか…本当に、入ってんのかあれ…うわ、うわ、まじで!?す…すげ!凄ぇ…全部入っちまった。ジェイドって…あんな顔するんだ…?俺、見た事ねぇな…ああいうの。な、なんか別人みてぇだ…ちょっと色っぽいよな…。
 あ、あ…なんか急にすげぇトイレいきたくなってきた…!

 

○月12日 曇
 今日は寝坊しなかった…ていうか、昨日一睡もしてねぇもん。あんなの見せられた(勝手にみたんだけど)後じゃ寝れねぇよ…まじで。皆は寝坊しなかったことに感心してたけど…どうでもいいし。なんかもうわけわかんねぇ。だって、ジェイドが


 コンコン
「!?」
「ルーク、入りますよ」
「うわッ!?」
 ルークは慌てて日記を閉じる。
「じ…ジェイド…?」
 部屋に入って来たのは、渦中の人ジェイド。いつもの青い軍服姿に、いつもの香水の香り。だがルークの脳内では、その姿が昨晩のジェイドの姿に変換されていく。正した襟をはだけ、長い髪を乱し…。思いだしただけで、ジェイドの事を直視できなくなってしまう。
「ルーク」
「な、何!?」
 動揺が完全に表に出たまま、ルークはあたふたと返事をする。
 ジェイドはそんなルークを見て口元に意地悪な笑みを浮かべ、言った。
「いかがでしたか?」
「……………は…?」
 一瞬、何をいわれたかわからない。
「お子様には少し刺激が強すぎましたかねぇ?」
「……………え…?」
 ジェイド自身がこう言うという事は…ルークはハッとして声を大きくする。
「お、おまッ!全然気付いてたな!?」
「当然です」
 ジェイドはルークにつけられていることなど、とっくにわかっていたのだ。
「あなたのだだ漏れの気配に気付くなと言う方が無理というものです」
 よく考えてみれば、ジェイド程の人物が連日の素人尾行に気がつかない方がおかしいのだ。
「で、私の生活は貴方の寝坊対策の参考になりましたか?」
「あ、あのなぁ〜っ」
 なるわけがない。というかむしろ、寝坊対策とかそんなことはこの際どうでもいい。大体なんで気付いていながらあんな行動をするのか。こうなるともう、何から突っ込んでいいのかわからない。
 まず、一番の疑問から埋めていこうとルークは思った。
「ジェイド…昨日、ガイと」
「SEXしていましたよ」
 さらりと、むしろ笑顔でジェイドが答える。
「そ、その前の日とか…」
「街で行きずりの相手を探しましたねぇ」
 何一つ包み隠さず。
「まぁ…私もいつも、というわけではありませんが。貴方がつけているのがわかっていましたからね、今週はサービスですよv」
「…………」
 もはやもう、これ以上何も聞く事がない。
「ルークは男性が男性に抱かれると言う行為が存在する事は知りませんでしたか?」
 質問の途切れたルークは、逆にジェイドに聞かれてしまう。
「い、いや…知ってはいたけど…」
 そういう事があるというのは聞いた事があったけれど、身近にそんな人物がいるとは思ってもいなくて。まして、ジェイドがなんて。
「意外でしたか?」
「………うん」
 この男は、誰にも触れず、触れさせず。いつでもひとりで存在し周りと深く関わらない…そんなイメージだった。それが、あんな風に誰かに自分の身体を触れさせて、あんな風に誰かの腕の中で声をあげているなんて…意外すぎて。普段のイメージとかけ離れ過ぎているのだ。
「ジェイド…その…」
 ルークは思わず、その疑問を口に出してしまう。
「…なんで…あんなことしてるんだ?」
「………」
 ジェイドは一瞬の無言の後、いつものように微笑みを浮かべて言った。
「好きだからですよ」
 この男の口には似合わない言葉。
「……ガイが?」
「ええ、まぁ」
 また、いつもの笑顔。いつもの嘘っぽい笑顔。
「じゃあその前日はなんだよ?」
 ガイのみならず、見ず知らずの男にまで。きっと、ガイと同じことをしていたに違い無い。その行動はまるで、誰でもいいみたいに。
「これでも物色は充分にしているつもりですよ?」
「あのな…」
 そういうのは誰でもいいというんじゃないだろうか。ルークはジェイドの返答にいら立ちを覚えた。
 たしかにルークは世間のことをしらなすぎる事は自覚している。でも、これだけはわかるのだ。ジェイドみたいなのが普通ではないんだってことくらいは。 そういうのは、良く無い事だ。そう認識している。
「そういうの…淫乱っていうんだろ?」
 好きな人とじゃなきゃ、しちゃいけない事。誰とでもするのは、その人が好きなんじゃ無くて、その行為が好きなのだ。そういうのはたしか、淫乱というのだ。たぶん、女じゃなくても男であろうとそういうのだろうとルークは思う。
「おや、随分イケナイ言葉を知ってますねぇ〜、ガイに教わったんですか?」
「茶化すな!」
 からかうジェイドに、ルークは眉をつりあげる。
「ガイの事…弄んでるのか?」
 この苛立ちは、きっとガイに対するジェイドの態度への苛立ちなのだとルークは思う。ルークにとって親友のガイ。好きどうしなら、ルークだって男同士だからとかどうとか、そんなとやかくなんていわない。でも、これではガイが可哀相だからだ。知ってるんだろうか、ガイは。ジェイドが夜な夜な遊び歩いている事を。
「あぁ…ガイはちゃんと知っていますよ?」
「!?」
 ジェイドの返答は、ルークには意外で。
「貴方よりは大人ですからね。話がわかります」
「な…」
「ガイとの関係に深い意味はありません。互いの利害関係が一致しているだけの事ですよ」
「嘘だろ………」
 驚きだった。ガイは、ジェイドがこんなだと知って、昨日のような関係を続けているのだという。其処に有るのは感情ではなく、利害関係。
「お互い、したい時にする。それだけの事です」
 まるで何かのビジネス関係みたいに、ジェイドはそう言った。
「じゃあジェイドはガイのこと好きでも何でも無いってのか?」
「いいえ好きですよ」
 ルークの質問をあっさりと肯定するジェイド。
「じゃなんで他の奴と…そんなにその、…するの、好きなのか?」
 ルークにはやっぱり理解できない。だって、そういう行為っていうのは、本当に好きな相手とだけするものなのだと教えられて来たから。こんなふうに、ジェイドみたいに簡単に、誰とでもっていうのは信じられない。 これが、淫乱っていうものだと言い切られてしまえばそれまでだったのだが。
「いいえ、別にそれほどでも」
 ルークの質問を、今度はあっさりと否定するジェイド。
「だって…連日相手探してたろ?」
「えぇ」
「全然わかんねぇんだけど…」
 ガイは好きだって、それでも他の奴とするって、それをガイもわかってるって…一体どういう事なのか。 そんなにその行為がすきかといえば…別にそうでもないという。そのくせ、相手を物色しては行きずりの関係を重ねる。
「貴方にわかって頂かなくても結構です」
「…どうせ俺はガキだからわかんねーよ」
 好きだけど、特別なんじゃなくて、誰にでもさせるのに、誰でもいいってわけじゃなくて。なんだかジェイドのいっている事は矛盾だらけに感じてしまう。もともと理解不能な男の事だが、更に理解不能…。そんな男を理解しようとする事は所詮無駄なのかもしれない。自分のようなガキには到底理解出来ない領域の話なのだと、ルークは問答を諦め拗ねたように口を尖らせる。
「それとも…」
 そんな様子のルークを見て口元に笑みを浮かべると、ジェイドが一歩ルークに歩み寄る。
「あなたも、興味がありますか?」
「…な?」
 向き直ったルークの視界には、思ったより近くにジェイドがいて。
「なぜ、ガイが私を抱くのか…貴方も知りたいですか?」
 ジェイドは身をかがめると、ルークの首筋に軽く唇を触れさせた。
「!!」
 ビクン、とルークの身体が驚きと緊張に跳ねる。
「な…っ…」
 ジェイドはすぐに唇をはなすと、身を退いた。ほんとうに、触れるだけという感じ。靡く髪に纏わりつくような、ふわりといい香りがルークの周りに漂った。
「あなたにその気があれば…私はいつでもいいですよ?」
「………!」
 いつものような嘘っぽい挑発的な笑みなのに、ルークはその表情にかつてない程の鼓動の高なりを覚えた。急に身体が熱くなり、顔が、異常に暑い。
「な…っ…ジェイ…!」
「それでは失礼…」
 目を見開いたまま固まったようなルークを部屋に残し、ジェイドは何事も無かったように部屋を出ていく。
「待っ…!」
 ひきとめて、どうするのか。ルークは言葉を途中でとめてジェイドの背中を見送った。
 今のは、なんだったんだろう…?とにかく、身体の熱がおさまらない。ひきとめて、どうするつもりだったんだろう…?その続きが、ルークには即座に想像出来ない。
「…んだよあの鬼畜眼鏡ッ!!?」
 ルークはいまだ退かない熱を身体に抱えたまま、ジェイドの悪態を突く。悪態をついてるのに、それでも、熱はおさまらない。
「なんなんだよ…これ…!」
 身体が、下半身が熱くなる。ドキドキと心臓の音が耳元で聞こえて来るような、変な感覚。間近に迫ったジェイドの顔。漂う香水の、ジェイドの香り。思いだそうとすればする程、熱が上昇してしまいそうだ。今までずっとジェイドと共に旅をしてきたが、こんな感覚にはならなかったのに…、いや、前に一度なったかもしれない。こんな気分になったのは…そう、昨日のガイとの情事を見てしまった時の、あの時と同じ感覚。
 『あなたにその気があれば…私はいつでもいいですよ?』
 耳元で響かれた先程の言葉。それって、そういう意味だよな?と、そう思い返しながら自問自答すれば更に身体は昂り、ルークは急いでトイレに駆け込んだ。
「俺…もしかして…?」
 今、あの時のガイと同じ事をジェイドにしている自分を想像して…興奮してる?
「ま…さか…!」
 男相手に、ジェイド相手に、そんな馬鹿な。そう思って自分を落ち着けようと思っても、身体は一向におさまらず昂るばかり。ルークは無意識のうちに自分の身体に手を絡め、昨日のジェイドを思いだしていた。
「ん…ぁ…」
 昨日のガイの顔が、自分の顔にすり変わる。
「はぁ…あ」
 ゆっくりとジェイドの中にのみこまれていく己の其れ。その妄想にあわせるように自分の手で自らを包み扱く。根元まで飲み込まれては、いやらしく音を立ててジェイドに出入りする其れ。
「あ…ぁ…俺…っ」
 あんなふうに、ジェイドは自分の其れも飲み込んでくれるんだろうか…あんなふうに、ジェイドは自分にも扱って欲しいって事なんだろうか。普段の彼との物凄いギャップ。それが、更に興奮を煽る。
 いつもの悪い冗談かもしれない。でも本気だったのかもしれない。からかわれているのかもしれない。でも、本気だったのかもしれない。ガイと寝てるって知ってるのに、誰とでもしてるってわかってるのに。
「ジェ…イド…っ」
 ルークは自覚する。ジェイドのガイに対する態度で苛ついていたのでは無かった事を。ジェイドの態度全てが、苛ついていたのだ。ガイとしてるってこと自体が、誰とでもしてるってこと自体が、苛ついたんだってこと。
 ルークは自覚する。そして今、自分も同じ事をしたいって、そう思っているんだってこと。
「…ぁっ」
 自分の腕に抱かれるジェイドを思い浮かべながら、ルークはトイレに精を吐き出した。
 ジェイドを想像しながら、達した。
「…はぁ、なにやってんだ俺」
 ジェイドの言っていた事とは、これなのか。わかっていながら、ジェイドを抱くガイの感覚とは、これなのか。少しだけ、実感する。
「ったく…冗談じゃね…」
 ルークは手を清め服を整えると、溜息混じりにトイレから出た。
「御主人さま〜」
「ぶわあぁッ!?」
 トイレから出てくるなり拍子抜けするような声をかけられ、思わずルークはその声の主を思いっきり蹴りあげた。
「なっ…なっ、いたのか、てめっ!ブタザル!!」
「みゅう〜〜痛いですの〜〜ごめんなさいですの〜〜」
 床でピクピクとしている物体が悲痛な声で訴えるが、ルークは照れ隠しのようにその物体を踏みつける。
「おま…いつからこの部屋にいた!?」
「最初からですの…痛いですの〜〜」
 みゅうがいたことすら気付かなかった。むしろ忘れていた。そういえば、日記を書いていた時後ろでうろうろしていたんだったかもしれない。なんだかそんな気もしてきた。ジェイドにドアをノックされた瞬間から、ルークは頭が真っ白で記憶があやふやで、周りが見えなくなっていたのだ。それだけ、緊張していたということなのだろうか。
「みゅう〜御主人様は、ジェイドさんの事が好きなんですの?」
「なっ…」
 突然の直球に、ルークがうろたえる。
「お顔が真っ赤なんですの」
「なっ…!?」
 ルークは自分でもわからないくらいに、その言葉に動揺してしまう。
「そういえばおトイレ長かったんですの、御主人様お腹でも壊し」
「黙れブタザル!!」
「みゅう〜〜!?」
 ルークのけりあげた肉の塊は、見事なシュートとなって扉の隙間から廊下の壁にゴールを決めた。壁にはりついた物体がずるずると床にすべりおち、動かなくなる。
「ったく…てめーはうざいんだっつーの!」
 みゅうに八つ当たりを済ませると、ルークは気を落着かせようと部屋の戸を締め日記を開く。
『○月12日 曇
 今日は寝坊しなかった…ていうか、昨日一睡もしてねぇもん。あんなの見せられた(勝手にみたんだけど)後じゃ寝れねぇよ…まじで。皆は寝坊しなかったことに感心してたけど…どうでもいいし。なんかもうわけわかんねぇ。だって、ジェイドが 』
 日記はそこで止まっていた。
「…………ジェイド、か」
 ルークはその日記をしばらく見つめると、ペンをとり黙々と続きを書き綴った。

 

「…どうしたのルーク!?」
 皆が驚きの声をあげた。 何しろ、ルークが皆より先に出発の用意を済ませていたからだ。
「へへ…俺もやれば出来るんだっつーの」
 寝坊をせずに起きている事が不思議で堪らないという皆の視線を浴び、ルークは自慢げに鼻を擦った。
「他力本願ですけどね」
「う!」
 そんなルークの後ろから振って来た嫌味な声に、ルークは表情を強張らせる。
「あら?あぁ…昨日は大佐と同室だったのね」
「それならアニスちゃん納得〜」
 ジェイドと同室だったから、問答無用で叩き起こされたに違い無い。皆はその事に納得した。
「これなら毎日大佐と同室になってもらえばいーじゃん♪」
「そうですわね」
「え、それは…」
 ルークの寝坊に困り果てていた一行は、いい解決法がみつかったとばかりに盛上がる。皆が話す中、ルークは伺いたてるような目線でジェイドを見上げた。捨て犬が媚びるみたいに。
「…別に、私は構いませんよ」
「まじで?」
 捨て犬の瞳がパァと明るくなる。
「うわぁなんかルークが悦んでる〜気持ち悪ぅ」
「…あなた本当にどうしたのルーク?」
「大佐と同室で貴方が悦ぶなんて…」
「え?あ、いや…別にうれしくなんかねぇよ!あんな鬼畜眼鏡と同室なんて!」
 昨日まで犬猿だった男との同室に似つかわしく無い態度をとった己を正すように、ルークは慌てて嫌そうな顔をつくる。
「いやぁ酷い言われようですねぇ」
「日頃の行いだろ…」
 溜息混じりに突っ込むガイの皮肉にも、ジェイドは済ました顔で動じない。その様はルークとは対称的で、いつもと何もかわらない。
「あんな奴寝坊しない為の道具だよ道具!」
「あ〜大佐!あんなこと言ってますよ〜?毎朝インディグネイションかましちゃってくださ〜い!」
「そうですねぇv」
「ちょ!それはまじ勘弁!!」
 いつものような、いつもの会話。いつもと少し違うのは、ほんの少しだけルークの肩がジェイドに近い事。それはみんなには気付かない些細な事だけれども。
 いつもと違うと気付いているのは、昨日ルークに突然部屋を変わってくれとたのまれた、この男だけ。
「旦那…」
「なんですガイ?」
「………」
 何か言いたげにジェイドに声をかけたが、ガイはそのまま首を振って、なんでもない、と言った。
「…わかっていますよ」
 そのガイの言葉を言わずもわかっているように、ジェイドは微笑みの色を少し変え、そう答えた。
 ガイはそのまま皆にからかわれ続けているルークの元に歩み寄る。
「ルーク」
「…なんだ、ガイ?」
 ルークの声は少し緊張していた。 ルークはジェイドとガイとの関係を知っていたのだ。たとえガイがジェイドの性癖を知っていたとしても、突然そこに割って入った形になったのだ。後ろめたさを隠せないのだろう。
 だが、ガイの声には少しも怒りのようなものは感じられず。
「…あんまり深入りするなよ」
「え…?」
 むしろ、心配そうに労るような。
「なにが…?」
「いや…」
 ガイはそのまま首を振って、なんでもない、と言った。


 その日からルークは、ジェイドと同室になった。その日からルークは、寝坊をしなくなった。
 最後の、その朝まで。

 


end

 



35才に弄ばれる七才児級のお子様のお話。
ドラマCD聞いたらすげールクジェだったもんでさ。
観察日記ネタ思わずかきたくなっちまいました。


ルークの日記の続きが気になる方へ。
※激ネタバレです。



2008.09.17

戻る