『見つけた…彼だ、彼こそが我等が救世主たる母体…マリア様だ』
その少年は、不自由な肉体からマイナスのオーラを放ちつつ尚、
不気味な程に神々しかった。
MARIA
〜禁断の華〜
「…狩谷君!?」
遠坂は名を呼んだその人に歩み寄った。
『狩谷』と呼ばれたその少年は遠坂と同じ整備班の少年だ。この部隊に来てから日も浅く全員の顔と名前がまだ一致しきっていない状況ではあったが、この狩谷という少年だけは遠坂は一目で覚える事が出来た。おそらく、遠坂だけで無くこの部隊の誰もが彼をまっ先に覚える事が出来ただろう。
だからといって、彼が配属早々に特に目立ったことをしたというわけではない。覚え易い顔の特徴といっても眼鏡をかけた真面目そうな少年というくらいで特に珍しくも無い。だが彼を誰もが一目で覚える理由、それは…彼が車椅子に乗っているということだった。
彼はこの最前線の軍隊の中で、ありえない存在だった。
「……なんだ、君か。たしか同じクラスの…」
「遠坂です、貴方と同じ整備班の遠坂圭吾ですよ。今後もどうぞよろしく」
「あ…あぁ…」
遠坂は丁寧に自己紹介をした。こちらからは直ぐに覚える事は出来ても、彼は違う。話した事も無い人物から一方的に覚えられても、彼には相手の事はわからないのだ。皆同じ特徴の無い、目立たない健常者だから。
自己紹介を終えると、遠坂は話を本題に切り返す。
「それで…今、何をしたんですか?」
遠坂は狩谷の前にまわると、狩谷の手元を覗き込んだ。その手には、こじんまりとした赤い花束が握られている。それほど立派なものではないが、綺麗な野草をかきあつめた簡単なものといったところだろう。
だが今、遠坂にとって問題なのはその花束ではない、その花束を狩谷がどうやって手にしたか、だった。
「あぁ…これかい?」
狩谷は左手に花束を持つと、あいた右手を空にかざし軽く手を振った。すると遠坂の目の前で、何もなかった狩谷の手の中に花束が出現したのだ。
「!!」
目を丸くして驚いている遠坂に、狩谷は微笑する。
「…なんだい、みたことないのかい?」
「………はい。……ええと…マジックですか?」
「超能力、だよ。まぁ誰にでもできる簡単なものだけどね」
狩谷は新しく取り出した花束を遠坂に差し出した。反射的に花を受け取った遠坂は、それが本物の生花であることを知る。あらかじめ仕込んでおいたものでも、造花でもなく、ついさっき積んだばかりのような新鮮な生きた花だ。
「……す……すごいじゃないですか狩谷君!?あなたにこんなことが出来るなんて思いもしませんでした!」
遠坂は少し興奮気味で狩谷の出した花を眺めまわしている。遠坂は能力者というのを真近で見るのは初めてだったのだ。超能力というのは、昨今そう異端視されたものではなく、どの学校にも一人や二人、そういった能力に長けた人物がいるものだ。普通の人でも鍛えれば使えるようになるらしいのだが、実際にその能力を引き出せる者と言うのは多くは無い。おそらく素質とかもあるのだろう。この軍隊学級にもそんな能力者がいるとは、思いもしなかった。これが芝村の姫さんなら納得もできるのだが。
「……僕が出来ると、そんなにおかしいかい?」
その声は少し不機嫌に聞こえた。
「え?」
聞く所によると、狩谷は自分が身障者であることで人より劣っているという思い込みが激しいらしく、ちょっとした言葉のあやにも直ぐに反応し機嫌を損ねてしまうらしい。そのため、遠坂は会話をするにもちょっと気を使った。
「あ、いえ、そういう意味ではなく、貴方がこんな能力を使う所を今までみたことがなかったので…驚きでした、はい!」
「そう?」
遠坂は慌てたように言葉を言い直し笑顔で答えた。だが狩谷は特に怒った様子もなく答えた。さっきの口調は別に機嫌をそこねていたわけではなかったらしい。そういう人だと言う先入観から、遠坂にはそう聞こえてしまっただけだったのかもしれない。
「皆の前では…そうだね、使った事はないかもしれないな。第一、使う必要がないからね」
「あぁ、そうですよね?」
ごもっともである。特に必要な場でなければ使う事などないだろう。人にその力をひけらかしたいと言うのなら話は別だが、授業中や仕事中に花を出す機会なんてないものだ。
「いつから使えるようになったんですか?」
生まれつき使える者もいるが、大体は何かが切っ掛けになって後発的に開花する者が多い。
「前の…学校にいた時かな、体育の時だよ。僕はすることがなくて暇だからね…まして人の体育なんか見る気もしないし」
「あ…」
彼にとって体育の授業とは健康な人間の運動能力を無駄に見せつけられる、見学と言う名を借りた拷問の時間。あるいは、疎外感を感じさせる孤独の時。
「何を見るわけでも無く、いろいろとくだらない妄想をして過ごしているのさ。そんな時に…気がついたら手にこれをにぎっていたんだよ」
「そうなんですか…」
視界を断って、周りの雑音を断って、自分一人の世界に籠る。他にすることのないその時間は狩谷にとって瞑想時間に近かったのかもしれない。精神的に複雑な環境に陥った者が能力を発揮させ易いというのは、よく聞く事だったのだ。
「…それより遠坂、その足をどけてくれないか?」
「え?」
狩谷にいわれ、遠坂は自分の足下を見下ろした。見ると、何か黒い皮のようなものが靴の下にある。
「…なんですか?これは」
一歩後ろに後ずさり、遠坂は屈んでそれを覗き込む。
「カラスだよ。…いや、カラスだったモノ、かな」
「え!?」
驚いて顔を跳ね上げ、更に一歩後ずさる。いわれてみれば…たしかに、それは『カラスだったもの』のように見えた。数日前に車にでも轢かれたのだろうか、ぺっちゃんこで、まるで乾いた皮のようだ。
「カラス…ですか…」
「……………」
狩谷は持っていた花束をぱらぱらとその上に振り掛けた。
「弔いですか……お優しいのですね」
無意味に力を使っていたわけでは無い。狩谷はこのカラスに手向ける為に花を出したのだ。
「……………哀れだと思わないかい?」
「………」
狩谷のその瞳は優しく哀れんでいるようにみえ、その反面…何か見下しているようにもみえた。いや、そう見えたのは狩谷を先入観的に見ている遠坂が感じた幻影なのかもしれない。なにしろ、彼の良い噂をきかないのだ。暗いだの、自虐的だの、人を小馬鹿にするだの、人付き合いが悪いだの…その噂を流している人物に信頼をおけるかといえばそうでもないのだが、とにかく噂がたつと言う事はそういう要素があるからだったのだろう。火の無い所には煙りなどたたないものだ。だから、そんな風に先入観の籠った視線で彼を見てしまうのかもしれない。無意識に。
「カラスが一羽死んだって誰もなんとも思わないよ…人間の生活に関係などないからね。要らないモノが生きようと死のうと関係ないんだ。車にはねられたまだ息の残っているカラスを助けようなんて思うのは、考えの足りない子供か上辺だけの偽善者さ。そうだろう?だからみんな平気で、まだ息のあるカラスをそのまま車でひいていくんだ。こんなに平らになるまでね。だけどそれって……あまりにも惨めだろう」
「…………あ…」
実際、知らなかったとはいえ足蹴にしてしまっていた遠坂は何もいえなくなる。それに気付いたのか、狩谷は遠坂に微笑して言った。
「…あぁ君が気にする事はないよ遠坂、わからなかったんだろう?それが普通だよ。僕はほら、みんなより目線が低いから…こういうものにはよく目がいくものなのさ。君は背が高いから、その分人よりもっと足下には鈍感なんだろうね」
その言葉は聞きようによっては陰険な皮肉だったのだが、なにしろ相手は遠坂だ。
「そう言って頂くと気が楽になれます」
絵に描いたような世間知らずのお坊ちゃま、その彼がそんなことに気が着くはずもない。純粋に言葉のままを真に受けその言葉に少しホッとして、笑みを浮かべた。いや、それが荒んでいない正常な人間の思考かもしれない。
「みんな同じ目線でばかりみているから、自分より低い価値のものとは目線が合わないのさ。そしてちょっと違った意見を言えば変わり者といった目で見る。人と違っちゃいけないんだろうかね…みんな、ひとりひとり違うのにさ。皆と違う環境にいれば、もっと違う物がみえて、違うものが正しく思えて来るんだ、そういうものだよ」
彼の視線から見た、この世の無情と矛盾。芝村という絶対的存在の支配下にあり戦争状態でもある昨今、個人の自由な意見を声を大にして発言する事を阻まれる、それが当たり前の世界。口先だけの平等を唱い、潤おうのはいつも決まった階層の者達ばかり。
だが忌わしい事に、遠坂自身がその階層にいたのだ。遠坂はそれが嫌で家を飛び出し自ら進んで志願兵となった。自分だけが悠長にしているその階層が、そこにいる自分が許せなかった。
「狩谷君…貴方は……」
狩谷も…以前はその階層にいたのだと、赤い髪の少女に聞いた事がある。だが、彼は今ここにいる。本来なら兵役免除されるはずの階層の彼が、ましてやこんな身体なのに、兵士として戦闘区域最前線のここにいる。兵役免除を押し退けてこの軍に志願してきたのは遠坂だけだったというのだから、狩谷は望んでここにいるのではない。何があったのかは知らないが、彼は自らの意思では無く無理矢理ここに追いやられたのだ。その裏には何か大きな陰謀の影が蠢いている気がする。狩谷はそのどす黒い世界を嫌という程見てきたのだろう。人と接したがらないのも、きっと過去のトラウマが強く響いているのだ。
「………あぁ、また変な事をいったかな僕は」
狩谷は少ししゃべりすぎたな、とばかりに自嘲して車椅子を方向転換させた。
「妙な力は使うし、僕を変なやつだと思ったろう?…君も僕なんかに構ってないで、さっさと学校に行ったら良い」
「………」
狩谷についての悪い噂は数多くに耳した。だが実際は、彼は皆が思っているような人物ではなく、口下手なだけの優しい人なのではないだろうか。自分が弱い立場にいるだけに、弱いものの気持ちをわかってあげられる人なのではないか、と遠坂は思う。遠坂の中で今まであまり親しく話した事のなかったこの狩谷という人物の印象が、大きく変わっていく。
「いいえ……素敵です、そして素晴らしいです狩谷君…!僕は今鱗が堕ちた気分です!」
「は…?」
遠坂は狩谷の手を取ると、その手をしっかりと両手で握りしめ澄んだ目で狩谷を見つめた。突然の行動に、きょとんと驚いた様子の狩谷にかまわず遠坂は喋り出す。
「あなたの仰る通りです狩谷君。今の世の中は利益や上層の者を護る為の社会に成り下がっています…僕はこう、なんというか、もっと違う目線で世界を見つめ、変えていくことが大事なのではないかといつも思うんです、そう、あなたのように、違う視線で、違う視点で物事を見つめる事が!大体僕は、今の世の中が正しいとは思えないんです…!」
「…へぇ…」
勢いづいたように熱弁を始めた遠坂に、狩谷が微笑する。
「上層の空気に浸りきっていた君がそんな風に思っていたなんてね…だけどそのことは、あまり口にするもんじゃないんじゃないかな?」
「は…!」
今の世の中一般の考えと違った視線でものを考える集団がいる。幻獣共生派とよばれている連中だ。彼らは、見つかれば徹底的な弾圧を受けるカルト集団。いまの遠坂の発言はそう判断されかねない言動だった。
「そ…そうですね、痛恨でした…」
「いや、どうせ僕しか聞いていないからかまわないけどね」
「今のは…聞かなかった事にして下さい」
「…わかった」
気がついたように恐縮する遠坂に、狩谷は意味深に笑った。
「あ…!」
その時、校舎の方から始業のチャイムが聞こえてきた。
「あぁ…もうこんな時間だったのか」
「そうですね、急ぎましょうか」
遠坂は校舎に向き直ると、駆け足で一歩踏み込んだ。
「あ…遠坂…」
「はい?」
走り出そうとした瞬間呼び止められ振り返ると、其所には忘れる事の出来ない存在がいた事に気付き遠坂はハッとする。狩谷は車椅子なのだ。
「ええと…悪いけど僕を教室まで連れていってくれないか?その…階段が…」
狩谷は少しいいにくそうにそう告げた。自力で階段の昇降ができない狩谷は人の手を借りなければ教室に行く事も出来ない。だからといってまだあまり親しい者のいないこの新しい環境で、いきなり自分を抱きかかえて運んでくれだなんて言い難いに越した事は無いのだ。まして人との接触をできるだけ避けている彼が、だ。彼にとってこの一言を人に頼む事は、よほどの恥辱と屈辱を振り切らねばならない事なのだろう。遠坂の目には狩谷が不安と羞恥でいまにも泣き出しそうな顔に見えた。
「…えぇ、いいですとも」
遠坂は笑みを浮かべると狩谷の提案を快諾した。内心断られるのでは無いかと言う不安を滲み出させている彼に、遠坂には断る理由など何も無い。それにこの時間じゃ、遠坂以外に誰も狩谷の移動を手伝ってくれる者は校舎前を通らないだろう。
「…ありがとう」
快く受けてくれた遠坂にほっとしたような狩谷を見て、遠坂もなんだかほっとした気持ちになる。
「さぁ行きますよ」
今日の一時間目は本田の授業だ、授業に遅れればまた本田にどやされるだろう。遠坂は狩谷の後ろに回ると、車椅子を押して校舎へと足早に向かった。
「……すまない」
「そんな事はいいんですよ。それより、ねぇ狩谷君」
「ん?」
車椅子を押しながら、遠坂が狩谷に照れくさそうに聞いてきた。
「さっきの花束のあれですが…誰にでもできるって、僕にも…できるものなのでしょうか?」
狩谷の使った能力、それは遠坂にとって心惹かれる魅力的なものだった。そして当然、自分も使ってみたいと思い始める。それはごく自然的な衝動だ。
「できると思うよ。…教えてあげようか?階段を手伝ってくれたお礼にね」
「ほ、本当ですか?是非お願いします!」
顔は見えないが、その嬉しそうな口調からおそらく遠坂は満面の笑みを浮かべている事だろう。
(……これだから、坊ちゃんて奴は…)
未知の力に憧れ、未知の思想を理想化する。世間知らずの箱入り息子の典型だ。
(まったく、本当に幸せなやつだよ)
階段を昇る遠坂に抱かれながら、狩谷は苦笑する。
(……まるで…昔の、誰かみたいだ…)
「…違うよ、もっとイメージするんだ。花の咲いている場所を強くイメージして」
「イメージ、ですか…う〜ん……」
授業の終った校庭の傍で、遠坂と狩谷は何かを話していた。
「イメージを思い描いて、それと同調する。集中力を乱さないようにね」
狩谷の手の中に、ふわりと花が現れる。
「こう、だよ」
何度も目の前で見せてもらっても、そのコツがわからず遠坂がすまなそうに苦笑する。
「……意味は理解しているのですが……難しいですね。僕は素質がないんでしょうかねぇ…」
半ば諦めがちになった遠坂に狩谷は言った。
「そんな事ないと思うよ。それにこれは、誰にだって出来るものなんだしね」
「そう…ですかね?イメージ…イメージ……うーん、自分の手の中に花を呼び寄せるっていうのが、いまいち現実的にイメージしにくいんですよね…あぁ、また弱音をはいてしまいました、すいません」
一人でぶつぶつ呟いては、またぼやいてしまったことを遠坂は狩谷にはにかみながら謝った。だが、狩谷はその独り言の中に何かを発見する。彼が何度やってもうまくいかないその原因を。
「いや、違うな遠坂。そのイメージは間違っている」
「え?」
遠坂がこの能力を使えない原因、それはイメージが正しくないからだった。
「花を自分の方に取り寄せるんじゃない、自分がいくんだ」
「??」
狩谷は遠坂にもわかりやすいように、言葉を続けた。
「むりやり花を呼んだって花は来ない。花には足が…ないんだからね、これるわけがない。そうじゃなくて、自分が花が咲いている場所を強くイメージして…そうだな、行った事のある場所なんかがいい、そこに自分が行くんだよ。そして花を摘み、戻って来る。もちろんイメージの中でね」
「自分が…行くんですか?」
遠坂にとっては逆転の発想だった。だが、それならイメージする事はそう難しい事ではない。いきなり目の前に花が歩いて現れるよりは。
「花の…咲いている場所……」
思い描いた草原は、子供の時に行った事があるどこかだ。そしてそこには、自然と自分の姿がイメージングされてレイヤーを統合するように重なりあう。目の前に咲く花々を眺め、手に取る。そして…。
「そこで戻る!」
「!」
狩谷の声に驚き、イメージの世界から遠坂は急に現実に戻される。
「き…急に声をかけないで下さいよ、びっくりし…」
もうすこしでイメージが固まりそうな気がしたのに、と言いかける遠坂に、狩谷は彼の右手を無言で指差した。
「ほら」
「………?」
きつく握りしめていたてのひらをそっとひらいてみると、そこには少しくしゃくしゃになった花弁が一つ、握られていた。
「ーーー!!」
「ね?できただろう」
初めて自分で出した花。初めて使った能力。それは大きな感動だった。
「や…やった!やりました、できました狩谷君!」
「うっわぁ!?」
遠坂はその喜びのあまり狩谷の頭をその胸に抱きしめていた。
「なっ、なにするんだよ馬鹿、放せって!」
暴れるように遠坂の身体を狩谷の腕が押し戻す。
「あ、す…すいません、つい」
興奮のあまり抱きついてしまっていたことに気付き、遠坂は慌てて狩谷を放した。するとそこには、顔を真っ赤にして動揺している狩谷が遠坂を見上げていた。
(おや…?)
その狩谷の姿は普段の彼からは想像出来ない程幼く見え、可愛いかったのだ。
「な…なにみてるんだよッ!」
「………いえ、貴方でもそんな顔をする時があるんですね、と思って」
そういって遠坂はくすくすと笑った。狩谷の顔がさらに赤くなって遠坂を睨み付ける。だがその様も、なかなか可愛らしい。
「ふ…っ…ふざけるなよ遠坂、もう僕は仕事にいくからなッ!」
こんな表情を人に見られた事が狩谷は不本意だったのだろう、機嫌を損ねた狩谷は遠坂から向きを反転させ、車輪を走らせた。
「あぁ、まって下さいよ狩谷君!笑った事は謝ります!」
「うるさいぞ!ついてくるな!君もさっさと仕事にいけ!」
後を追って来る遠坂に狩谷は背中越しに怒鳴り付けている。
「…でも、僕の仕事場もこっちですよ?」
「う…!」
二人は整備班。持ち場は同じハンガーの中。
「それに、貴方一人じゃ持ち場の2階にあがれないでしょう?」
「……!」
すでにみんな持ち場についている。階段の下にたどりついても、その辺を通る人などあまりいないだろう。まして仕事中の者をわざわざ呼び出して運んでもらう程バツの悪いことはない。
「ほら、ね?僕が一緒にいくべきでしょう?」
「〜〜〜〜ッ!」
遠坂は狩谷に追い付くと車椅子の取っ手を握った。狩谷は『放せ』とは言ってこない。
「ねぇ狩谷君…」
狩谷は怒っているのか、返事はしない。まだ赤い顔をしてむくれているのだろうか、そう思うとまた、遠坂の口元に笑みが零れてしまう。
「僕達…良い友達になれるんじゃないかと思うんですけどね?」
人嫌いの無愛想な少年狩谷。噂に聞いていた彼はやっぱり噂通りだけど、噂通りだけでもなくて、なんだか『傍で見ていたい』という感情を遠坂に造り出させる、気になる存在。
「…………ふん…勝手にすればいいさ」
「はい、そうします」
無愛想に返された言葉に遠坂は笑みを返す。たとえそれが狩谷には見えていなくてもかまわなかった。すくなくとも、自分だけは狩谷が階段昇降時の提案で不安を感じない存在になりたいと遠坂は思ったのだ。
この時はまだ、
惹かれた花が…とんでもない花だとは知らずに。
MARIA
〜禁断の華〜
end
next・・・〜境界線〜
遠坂に能力を教える狩谷のお話。この話は前後編の前編みたいなかんじなので、たぶん続きます。続きは地下二階行き予定。
ゲーム中でなっちゃんが「遠坂にちょっとばかり能力を教えてやったら…」的な発言をしているところがあります。それってやっぱり遠坂の十八番の花出し能力の事ですよね?それしか考えられない。となると、なっちゃんも花が出せるしそれ以上の能力者ってことだけど、ゲーム設定ではなっちゃんには超能力の技能ないことになってるんだよね。遠坂には技能レベル3もあるのにそれを教えたなっちゃんには無いなんてなんか変なの。やっぱ皆の前では隠してるからかしら?そういうことにしておくか(笑)
それにしても遠坂×狩谷ってどうしても遠坂→狩谷になってしまうんだよねぇ。だって、なんかなっちゃんてば遠坂に興味なさげなんだもん。嫌いなタイプの中に遠坂入ってるし(ダメじゃん/苦)
報われねぇな遠坂…なっちゃんも報われないけど(苦笑)
2004.12.12