千と一夜の地下室
終幕「歓声のフィナーレ」
歓声の沸き上がる、とある地下。地下室と呼ぶにはあまりにも大きいその空間は人で埋め尽くされていた。そう、彼等に会う為に、彼等の音を感じる為に集った、いわば一つの共同体。皆彼等の名を呼び、愛し、共感した。
狂おしい程の熱気の中、彼等はステージにいた。
この空間の全てを統率する最高の場所に、彼等はいた。
「それじゃ、新しいボーカルを紹介するぜ!オン・ボーカル…kazushi!!」
一層沸き立つ歓声の中、つい最近までソロ活動していたアーティストが一人、あるバンドへの加入お披露目が行われている。
「あいさつがわりに聴いて下さい…。」
しっとりした閑静な挨拶の後、煥発いれずに激しい演奏が始まった。そのステージの左右でギターを司るのは対照的な二人のギタリスト、利華と、麗蒔だった。 始めて耳にするその曲の激動のステージが、見るものにひしひしと伝わり観客を圧倒させる。熱く歌い上げる一至の声の響きが、ホールを埋め尽くしていく。絡み合う二人のギタリストの音が、観客を魅了していく。
今、ここに立つ為に、今までの全てが存在している。
演奏が終わり、一斉に思い思いの名を呼ぶ観客達を、一至は 『シーーッ!』と一喝する。突如会場はシンと静まり返る。
一至は麗蒔の元に歩み寄り、そのマイクを向けた。ざわついた会場も、麗蒔が会場を見つめると、またシンと元の静寂を自主的につくり出した。
「…このバンドが結成されてから…今日で、千と…一日です。」
その声は少し震えていた。利華が歩み寄り、すっと麗蒔の肩に手を添えた。珍しい麗蒔のMCに観客からも声援が飛ぶ。
「……大切なあなたに…この曲を贈ります…。」
麗蒔がギターのアルペジオを奏で出した。彼にとって、何度も奏でたこのフレーズ。歓声がステージを包んだ。
大好きだった、この曲。
大好きな人の、この曲。
あの人が、好き、といったこの曲を…。
蒼い夜の途中 感覚もないままで
その腕に抱いた 空白に気付かず
時が引金を引いた 鳴り響く君の音
僕だけに届いた 想いのように
永遠のように
蒼ざめた夜と 背中をあわせて
この腕に残る 空白にサヨナラ
変わらない景色の中 そっと手を離せば
君が広げた羽のように そっと祈るように
そっと祈るように
幾つもの夢を 崩れそうな夢を
護ることもできずに
越えてく
幾つもの君は 崩れそうな君は
幾つもの夜に ちぎれた
『サヨナラ…』
千と一夜の地下室 完
『千と一夜の地下室』ようやく、ようやく完成です。なんというか、「あとがき」といいますか…あとがきってどうも言い訳になってしまいそうであまり好きではありません。でも、ちょっと長過ぎるこのストーリーをこのまま放置して置くのもアレなので、少しだけこの話に触れてみます。
それにしても、なんなんでしょうこの話は。エロシーンはよりエロく、甘いシーンはより甘く、鬼畜なシーンはより激しく鬼畜にを目指して書き綴っておりまして、さっきまでの雰囲気はなんなんだ?ってな感じの急展開の羅列です。各一幕ごとに執筆時間経過が激しいというのも有りますが、御存知の方は御存知の通り、この作品を最後に同人活動を停止したにあたり、書き残す事のないように書きたいもの全てをこの作品に無理矢理ブチ込んでしまったような気もします。いったい何が言いたいのか、どうしたいのか、書いてるうちに何度もわけがわからなくなって書き直しました。でも最終的に、自分の言いたい事、想いは全て書き込めたと思います。
そして多々ある矛盾点と疑問点。いや、正確には矛盾ではないんですが、それをストーリー中で説明するのもめんどいので矛盾のままでいいです(悪いクセだ/笑)嘘もいっぱいですが、むしろそこを自分なりに解釈して納得してみて下さい(強引)そんなところです。
さて、肝心の中身ですが、この話の最後に納得のいかない人もいるかもしれませんね。ていうか、多いんでしょうね。どうしてそうしなきゃならない必要性ってあるの?って思うでしょうね。皆をハッピーエンドにすれば、それで良いじゃないの?って。だけど全ての登場人物が最良の終幕を迎えては、この話はいつまでたっても終われないのです。どうでもいい人にどうでもいい結果が訪れたって何も意味がないです。幸せになって欲しいと想う人にだって、全てに幸せが降り注ぐ訳では無いです…。その意味を含めて、この話を通じて読んだ方が何かを感じて頂ければと思います。感じなくてもいいんですけどね(笑)ただの鬼畜エロとして見て頂いても、それはそれで本望なので。
どちらにしろこの話は私の原点でも有り、最終点でも有る過去最大の代表作で有る事は間違い無いのです。
読んでくれてた方、今まで御愛読有難うございました。
この作品は今やこの世に存在していない某バンドのメンバーをモデルに描かれてたりなんかしますが、名前引用以外は当人を無視しまくったまったくもって魅夜のオリジナル設定の作品です(そのため創作扱いとしてここにおいてます)御本人様方に御迷惑のかからないよう、そのへんどうかお願いします。
2002.06.18 初項
2003.07.11 加筆
2004.03.01 加筆