捨てないで
僕を見捨てないで

僕には


君しかいないのに









断罪






うわっ融機人だ出ていけバケモノこっちくんな気味悪い模様晒してんじゃねぇよあっちいけこの野郎ねぇママどうしてあの人殴られてるの融機人だからよ僕も石ぶつけていいのえぇいいのよ融機人には何をしてもいいのよへぇそうなんだわぁい僕も石投げようっとほら見てママ逃げていくよあはははっ



ここには僕の居場所は無い。

おい見ろよ融機人だぜちょっくら遊んでやるかチッなんだ男かよ構やしねぇぜどうせ融機人なんて男も女も似たような顔してやがるそれもそうだなんだ人間様に逆らう気かこの機械人形めぶっ壊されたくなかったらおとなしくしやがれそうそれでいんだよあーいいねぇやっぱ融機人は最高の玩具だぜこの間の女も締りが最高だったよなやりすぎて壊れちまったけどそういや最近融機人の雌減ったよなぁ別にいんじゃねぇのでも便所が減るのはちょっと困るよな融機人の雌は人間様がいくら中出ししても孕まねぇから使い勝手良かったんだけどよなぁに融機人はケツで充分いけるぜ男でも問題ねぇそりゃいえてるおうおうイイ声で鳴くこと淫乱だよな融機人は女も男もよそれにガキもだぜ淫乱雌豚一族だなぎゃはははは


プライドだとか、そんなもの残していたら生きてはいけない
人間達のなすがままにされるがままに…

ただ、ここに居る。






「はぁ…はぁ…ひっく…ヒッ…」
 嗚咽を必死に我慢しながら懸命に息を殺し、寒さと恐怖にガタガタと身体を震わせ自分の身体を抱くように縮こまって、融機人は路地のゴミの影に身を隠す。
「どこ行きやがったあのガキ!」
「見つけたらただじゃおかねぇ!」
 聞こえる声が次第に近付いて来る恐怖に身体が更に震えてくる。とにかくここから離れなくては、とそれだけで頭がいっぱいで、足下にまで注意が行き届かない。
  カラン
 震える足が空き缶に触れる。

「いたぞそっちだ!」
「!!」
 追い掛けて来た数人の男達に発見され、咄嗟に走リ出そうとするものの自らの身体から垂れ流したぬめる体液に足がとられ、もつれてその場に倒れ込んでしまう。
「つかまえたぞ…このガキ!」
「ひ…いッ…」
 男は融機人の髪を鷲掴みにして後ろに引き倒した。仰向けに転がった身体はすぐさま追い掛けて来た男達に組みしかれていく。
「いや…やだ…もうやめて…やっ…やあああぁッ!」
 泣きわめく融機人に情けをかける人間などいるはずもなく、酷使されきった身体に再び人間の性器が次々と詰め込まれる。
「あぁッ、う、あっ!ひぃ…っ、いあぁッ!」
 乱暴に、ひたすら乱暴に突かれ、内側を掻き回される。融機人の其処が出血していようと、そんなことは構う事などない。融機人は人間にとって性奴、いや性欲処理用の人形だった。 だがそういう利用価値すらなかったならば、人間達はとっくの昔に融機人を滅ぼしていた事だろう。皮肉にもその端正な容姿と人間の基準で言う名器と唱われるその身体ゆえに、融機人はこうして絶滅を免れているにすぎない。
「は…あ、ああああぁッ!」
 まだ10代前半であろう幼さの残る融機人の身体に逞しい大人達の肉体が次々と詰め込まれる。すでに数時間輪姦され続けているその身体は、先程の逃亡で余力を使い果たしたのか、
ぐったりと身体を投げ出したまま、殆ど抵抗する気配すらない。もともと融機人の肉体は人間に比べて華奢で虚弱にできているものなのだ。
「うッ…うっ、うぅッ!」
 涙と精液でぐちょぐちょになっているその顔は、少年とも、少女ともとれる顔をしていた。このような綺麗な造りの顔立ちなら、酔狂な貴族のペットとして飼われる事も可能だった。だが残念な事に、その融機人の顔には融機人特有の紋様が左半面を広範囲に渡って覆っていたのだ。紋様が広範囲に渡る事は、融機人の能力に優れている事を示すものだが、人間にとってそれはただのグロテスクな模様でしかない。しかもそれが顔面ともなると、気色悪くて愛玩用として飼う気にもならない。そういう個体の運命は公衆便所と決まっていたのだ。女も男も大人も子供も、例外なく。
「は…っ、…は…はぁ…ひぐッ…う…」
 それから暫くして、ようやく泣きじゃくる融機人から人間の身体が抜かれた。ただ単に締りの悪い融機人に飽きたのかもしれない。実際、少年の其処は自分の身体の許容を超える大きさに輪姦され、すっかり弛みきってしまっていた。だが幸か不幸か人間達には都合のいいことに、融機人の其処はどれだけ酷使してもいくらか時間がたてばその機能を回復するのだ。まるで記憶合金のように、その肉体が一番正常だった状態を復元させ、締りも、感度も、最高の状態に戻るのである。だからといって傷を自己回復するのとは違う。あくまでも傷になる手前の状態だった場合に、自己修繕するのだ。組織を破壊さえしなければ、何度も楽しめる最高の玩具…それが融機人が名器と唱われる起因でもあった。
「さて、いつもならここで許してやる所だが…」
 人間はニヤリと口元を歪め不敵に笑う。
「逃げた融機人なら話は別だ」
 そういって男は融機人の痩せ細った貧弱な身体を背後から持ち上げると脚を拡げさせる。
「う…!?」
 その人間の手には現場作業などで使われる機械が握られていた。小型軽量に作られている物で、用途としては硬い岩などに穴をあけるドリルの様なもの。
「さぁ…こいつとsexさせてやるぜぇ!」
 人間は融機人の目の前で機械を稼動させてみせる。それがどんなものかを無駄に理解させるためだろう。もちろん、その動きは人の肉体が耐えられる物では無い。 スイッチが入ると同時に唸りあげるその音と、極悪なその回転に融機人の目が恐怖に見開かれた。
「おとなしくしてりゃまた可愛がってやろうかと思ってたのによ…逃げた罰だ!お前はスクラップ決定!」
「う…ぁ…」
 いくら機能を回復するといっても、それは組織が破壊されなかったらの話である。こんな物で突き刺されれば間違いなく組織は破壊され、出血多量で死ぬだろう。
 この世界にも法はある。だが人間の法は、融機人には適用されない。この世界では融機人は人間では無く物として扱われている。すなわち、殺したとしても罪にはならないのだ。あえて無理矢理にでも法的に裁くとするなら、仮にその融機人が誰かの持ち物であった場合、最高でも器物損壊罪どまり。それがこの世界における融機人の価値観。
  つまり、 人間達がだれの持ち物でも無いこの融機人を殺したとしても、だれにも咎められる事などない。生かすも殺すも、自由。 人間による融機人殺害など、昨今珍しくもない日常茶飯事だった。
「スクラップか、そりゃいいや!」
「やれやれ〜!」
 楽しそうにはやし立てる人間達に囲まれ、融機人は怯えきった表情で叫び出す。
「ひ…嫌…嫌ぁ!!嫌あああぁーー!!」
「決定なんだよ!」
 人間は稼動したままのその機械を真っ赤に腫れ捲れ上がっている融機人の其処にめがけ、構えた。
「嫌だぁぁッ!やめて…やああぁッ!!」

死にたくない…!!

「うあっっちぃィィ!?」
 機器が融機人の身体に触れるか、触れないかという時だった。融機人の身体の紋様の範囲が瞬時に拡大したかと思うと、あてがわれていた機器が突如機能を停止し、持ち手部分に高熱を発したのだ。その熱さに、思わずその人間は機器を取り落としてしまう。
「あ……」
 機械の組織に瞬時に接続し、その機能を支配し操るハッキング能力。それは彼が無意識のうちに発揮した融機人としての能力だった。しかしその力は、人間からみれば薄気味の悪い奇妙な能力でしか無い。
「…んの…バケモノめ…ッ!」
 逆上した人間は傍にあった角材を掴むと融機人に向けて振り上げる。
「…………」
 無意識とはいえ、人間に危害を加えてしまった。人間に従順に従っていかなくては生きていけないこの世界で、人間に危害をくわえてしまった。そんな個体はもはやこの先、生きる術など残っていないだろう… 融機人は何かを悟ったように抵抗をやめると、振り降ろされる角材を見つめ諦めたように苦笑した。
  命乞いなど無用。自分の運命は…死、あるのみ。
「ーーーーーやめろ!」
 そのとき、信じられない声が降り注いだ。
「!?」
 振り上げたその男の手を、後ろから押さえ付ける手があったのだ。今にも振り降ろされそうだった角材は、寸での所で空中停止する。
「…な、だれだッ!?」
 そこに現れたのは随分と若い青年…いや、少年と言った方がいいだろう。だがその腕はその幼さのあらわれる容姿からは想像もつかないほどきつくその男の腕を締め上げていた。
「…んだぁ?ガキじゃねぇか!すっこんでろこの… 」
「ば…馬鹿!やめろ!このお方は…!」
「…あ!?」
 掴まれた腕を振り解きその少年に殴りかかろうとした男は、他の男の制止の声に今一度その相手を確認し直し、その立派な装束を纏うその姿に顔を引き攣らせた。
「あ…こ、これは…く…くくくクレスメント様!?」
 相手を認識した途端、粋がっていた男は急に態度を変えた。
「………クレ…ス…メント…あれが……あの人が………」
 死を目前にしていた融機人はその名前をポツリと復唱する。この世界の者なら知らない者などいない、調律者と呼ばれこの世界の階級ピラミッドの頂点にも立とうかという身分の一族、クレスメント家。もちろんそれは融機人でも知るところである。ピラミッドの最下層にいる自分達とは一番遠い所にいる存在として。
「…何をしていた…?」
 怒ったような口調で、クレスメントは言った。
「あ、いえ、その、ちょっと…」
「悲鳴が聞こえたぞ!何をやってたんだ!」
「いえ…ち…ちょっと融機人狩りを……でして…その…」
 融機人狩り、公衆便所、輪姦、どれも意味するものは同じ事。クレスメントとて、それをわかった上での問いだった。
「……さっさと服を整えるんだ…!」
「え?あ…はいッ!」
 男達は露出したままの下半身に気付き、衣服を慌てて整え直す。このような身分の高いお方の前でとんでもない痴態をさらしたことに、体格の良い男達はそろいも揃って罰悪そうに縮こまった。本来なら正装をして恭しく謁見しなければならないようなお方に対し、なんとも言えぬ無礼な姿を晒してしまったのだから。
 クレスメントは男達のその姿を冷ややかに見つめると、一言言った。
「去れ…」
「え?」
「今すぐここから立ち去れ!」
「あ、はいッ!失礼致します!」
 調律者クレスメントの一声で、融機人に群がっていた男達は一目散に散っていった。クレスメント家、この一族の権力はこの世界ではこのように絶大なものなのだ。
「………」
 融機人の少年は、その様をぼんやりと眺めていた。自分の目の前で何が起きているのかが、彼にはよく把握出来ていない。なぜ、クレスメントがこの男達を追い払ったのかが。
「………君、大丈夫?」
 クレスメントは男達の走り去ったのを見届けると、いままで男達を怒鳴り付けていた声とは一転して優しい口調になり路上に倒れている融機人に話し掛け、その右手を融機人に差し延べた。
「………?」
 融機人には、その手の意味がわからない。
「……あの…僕…」
「…え!?」
 クレスメントはその融機人の声を聞いて、少し驚いた様子で言った。
「あれ…?君……もしかして男の子!?」
 融機人の少年は黙って小さく頷いた。男達に受けていた仕打ちから察するに女性だと思っていた為だったのだろう、直視するのを遠慮がちに少し俯き気味にそらされていたクレスメントの視線は、同性だとわかった途端に遠慮なく融機人にまっすぐ向けられる。整った少女のような顔と華奢な白い身体、だがその胸はたしかに平らで、下肢もたしかに同性のそのものだった。
「…申し訳ありません…雄です…」
 融機人の需要はやはりいまだに雄より雌の方が少し価値がある。その方が使い勝手があるからだ。しかし此所にいるのは融機人で、男で、しかも顔に紋様を持つ本当に価値の低い個体。融機人の少年は本当に申し訳なさそうに震えた声で謝罪をした。クレスメントはきっと融機人の雌を所望していたのだろう。だから自分が雌ではなく雄だとわかった途端、そんな無用な個体は消し去ってしまうかもしれない…そう思うと身体の震えが止まらず、融機人はひたすらにクレスメントに謝罪を繰り返す。
「いや、そんな、あやまることじゃないよ!俺の方こそ女の子と間違えちゃってごめん…」
「え…………?」
 少し照れ笑いをしてそう言ったクレスメントに、融機人は困惑する。
「なぜ……あなたがあやまるのですか?」
「なんでって、俺の方が間違えたからだろ?」
「え……?」
 あやまらなければならないのは利用価値の低い自分の方で、なぜ、この身分の高い人が自分に謝らなければならないのか。融機人にはわけがわからない。
「さぁ、そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?融機人って病気に弱いんでしょ?」
 クレスメントは自分のマントを外すと融機人に歩み寄った。
「あの…ヒ…ッ…!?」
 自分にマントをかけようとしたクレスメントのその行動を見て、融機人は怯えて後ずさった。それは物心つくかつかないかの幼い頃、大きな布袋に無理矢理詰められて運ばれたのを思い出させるのだ。
「…何もしないよ?怖がらないで」
「や……ぁ…!」
 人間を怖がるな、と言われてもそれは融機人には無理な話だった。怖く無い人間など融機人の記憶にはないのだから。歩み寄り手を差し出すクレスメントから逃げるように、融機人は碌に立つ事すら出来ない身体で路地の奥へと必死に逃げようとする。 つかまったら、きっと消される。クレスメントの強力な魔力で、いとも簡単に塵のように消される…融機人の思考ではそれしか考えられないのだ。
「………怪我、してるんだね…?」
 その不自由そうに逃げる様を見て、クレスメントは追うのをやめ立ち止まる。
「………?」
 追って来る気配が止まったかと思うと、背後が明るく光るのを感じて融機人は後ろを振り返った。そこには、何かぶつぶつと呪文のようなものを呟くクレスメントが、その頭上に瞬く発光体を浮かび上がらせていた。
「ーーー!!」
 召喚術。これは紛れも無く召喚術だ。いよいよ自分は消されるのだ…!そう感じた融機人はその場に蹲ると頭を抱えるように身体を丸め、恐怖に目を瞑る。目を閉じていてもわかる程の眩い光がいっそう強くなり、そして…
「………?」
 一向に身体に何も衝撃が襲ってこない事を不思議に思い、融機人は恐る恐る目を開くと顔をそっとあげた。
「え…?」
 その視界には予想もしていなかった光景が映った。 目の前にはなんとも愛らしい小さな精霊が一匹、ふわふわと浮いている。
「な…なに…?」
 精霊は融機人の頭上にふわりと舞い上がると、その小さな手を振りかざした。するとどうだろう、身体に痛みが走るどころか融機人が今まで受けて来た傷や痣が治癒されていくのだ。手首にあった縛られた痕も、酷使され出血した箇所も、体中にあった擦り傷も。
「これで少しは楽になったかな?」
「…………」
 融機人には、わけがわからない。…いや、ようやくわかったのだ。この人間が自分を『助けた』のだということを。
「…… どう…して?どうして僕を助けるの?」
 だが、融機人はそのクレスメントという人間の行動が理解できなかった。過去から継承し続けてきたどの記憶の中にも、『人間が融機人を助ける』 などという前例は無く、有り得ないことだった。むしろ人間がそういう感情を持っている生き物だという事さえ、この融機人の少年には信じられない事なのだ。人間は残虐で凶暴で嘘つきで、融機人を殺す事にも何も感じない非道な生き物。それなのに。
「どうして、って…君が……俺と似ていたからかな……?」
 その『似ている』という言葉に、融機人は過剰に反応を示した。
「に……似てなどいません!僕は…こんなにも醜くて、グロテスクな化け物で…貴方様は高貴で崇高な人間で……」
 最下層の融機人と、最高峰のクレスメント。似ているなどとは、あまりにも恐れ多い。
「そういう意味じゃ無いよ」
 だがクレスメントは必死に否定を続ける融機人に苦笑して言った。
「自分の運命に諦めてしまった君が…なんだか自分と重なって見えたんだ……」
「………」
  憂い顔でそう言ったクレスメントに、融機人の身体の震えが次第に止まっていく。この融機人は人間のそんな弱々しい表情は初めて見たのだ。恐怖感が…薄れていく。
「それに…君は鏡をみたことないのかい?」
「え?」
「君は醜くなんかない。すごく綺麗な顔をしているんだよ?」
「な………!」
 綺麗、という形容詞は融機人にとって無縁なものの筈だった。自分に対して使われる事などない言葉の筈だった。綺麗、と言われた事に融機人は戸惑い、どう反応して良いかわからず困ったように顔を赤くする。
 その様を見てクレスメントはにっこり微笑んだ。
「…俺はアルス。アルス・クレスメント」
 アルスはそう言うと、融機人にそっとマントをかける。不思議と、あれだけ怯えていたはずの融機人は逃げも抵抗もしなかった。 
「君は?」
「え?」
「君の名前、教えてくれないと呼べないよ」
「え…あ…っと…」
 急にかけられた問いに躊躇いながらも、融機人は小さな声で答えた。
「…イク……シア…」
 彼にとっても、もう忘れかけていた自分の名前。
「……イクシア?……イクシア・ライル?」
 アルスに名前を呼ばれ、イクシアは戸惑いながら頷いた。
 ファーストネームだけでアルスがイクシアのフルネームを悟ったのは、この世界にいる融機人がすべて『ライル』だからだ。しかしその名前を呼ぶものなどこの世界にはいない。融機人の名を呼ぶものなど、その家族くらいのものだ。だが融機人は自分の名を呼んでくれる家族さえも直ぐに離ればなれに引き離され、自分のしらないどこかで殺害されていることが多い。イクシアが戸惑うのも無理は無い、融機人にとって名前で呼ばれる事など、皆無に等しい出来事なのだ。しかも、人間がその名を呼ぶなど。
「……ねぇイクシア……」
 その名前を、アルスはもう一度呼んだ。
納得出来ない運命なら、自分の手でそれを覆せば良いんだ」
「………え…?」
 その言葉は、イクシアの心に深く響く。それは、自分の運命を仕方の無い事、どうしようもない事、として受け止めていた自分には浮かびもしなかった選択肢だったから。
「運命を……覆す……?」
「そうだよ」
 アルスはマントの上からイクシアを優しく抱きしめた。
そして…………俺を…助けて欲しい」
「な…!?」
 人間が融機人に助けを求めるなど、それこそ有り得ない。しかもこんな、クレスメントという身分の一族が。
「助けて欲しいんだ…イクシア」
「ク…クレスメント…様…?」
 もう一度そういって更に強くイクシアを抱きしめて来るアルスに、イクシアは困惑しながらもその背に恐る恐るしがみつくように腕をまわす。初めて助けてくれた人間、初めての優しい人間、初めて自分の名前を呼び、そして自分なんかに助けを求めて来た人間…すべてが過去の経験の記憶の範疇を超えたイレギュラーな現状。過去の記憶は今、完全に参考にならない無力なものだった。こんな問答に答える適切な解答を見い出す事が出来ない。
「君の力を、俺に貸してくれないか?
助けを待っていたって何も変わらない、自分だけが自分を助ける事ができる…だからそんな納得できない運命に立ち向かおう。俺と一緒に…」
「………!」
 薄気味悪がって化け物扱いしかされた事が無かったその力。それを、必要とする人がいる。定められた己の運命に必死に立ち向かっていこうとしている人が此所にいる。
 過去の経験から出した答えでも、相手の機嫌を取る為でも無い。イクシアは初めて己の意思で答えた。
「……………はい…」
 その問いに断る理由などない。そう感じたから。



長い長い悪夢からさめたようだった
僕は
ようやく自分の居場所を見つけた…

 

 

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思ったより長編小説になったので、区切ることにしました。ていうか第一部、これだけでも話としては完結してるっぽいんだけどね。
とりあえずは「出会い」です。

2005.03.21

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