失楽園
act:4 傀儡の響宴

 

「綺麗な肌だ…」
 衣を剥がれたセイロンをギアンは眺めまわした。傷を負っても自ら治せる為か、傷痕一つ無いきめ細かな美しい肌。白く華奢な身体に赤い瞳と髪が映える。
「…開かせろ」
「なっ…!?」
 両脇を押さえる亜人達がセイロンの背を床につけさせ、立たせた膝を掴むと左右に開かせようとする。
「くっ…ふざけるでないぞ、無礼者…!」
 抵抗しようと力をいれるが命樹の効力なのか、セイロンの脚には幾許かの力も入らない。逆らおうとする力は総べてこの枷に抑制されてしまうようなのだ。暴れるセイロンは、次第に脚を開かされていく。
「まだそのような偉そうな口をきくとはね。つくづく呆れるよ…本当に!」
「がッ…!」
 ギアンがセイロンの腹を思いきり踏み付けた。内臓に響くような蹴りにセイロンの身体から一瞬気が緩む。
 セイロンの脚を掴む手に力が込められた。
「く…ぅ!」
 抵抗の意思も虚しく、脚が大きく開かれる。セイロンはギアンと配下の者達と、そしてクラウレの前で股を大き開かされ、秘部のすべてを曝け出す。それはあまりにも屈辱的な体勢。噛み締めた唇が、震える。
「綺麗な色だ…」
 開かれたその中心を、ギアンは薄笑いで覗き込む。双丘に隠された蕾は白い肌に良く目立つ。
「まるで汚れた事などないようだよ」
 馬鹿にするように皮肉を言い、セイロンの耳元にギアンの顔が近付く。
「毎晩…守護竜の性欲を処理していたとは思えないな?」
「ーーッ!」
 今にも殴りかかりそうな勢いで力を込めたセイロンの身体を、枷と配下の者達が拘束する。
「守護竜は…それは立派なモノを持っていたんだろうね」
「!?」
 そうして動けないセイロンの耳元で、ギアンは淫猥な言葉を語り続ける。
「太くて硬くて熱くて…とても立派な肉根が君のこの小さな孔を目一杯に拡げて入って来たんだろう…」
「黙らぬか!貴様そのような愚弄…っ」
「ここを使って…締め付けて、絞って…守護竜を虜にして…どうだい、思いだしただけでも興奮してくるんじゃないのか?」
「黙れ!黙れーッ!貴様……ッ!」
 怒りか羞恥か、セイロンは赤く染まった顔でギアンを睨み付ける。握りしめた拳は時折断続的に力が込められているが、それを力として表に出す事は出来ない。言われるが侭の言葉による責苦は、堪え難い精神的拷問。奇しくもかつて守護竜に愛されしこの場所で。
「あぁ…守護竜だけでは無かったな。なぁ…クラウレ?」
「!」
 背中越しに突然声をかけられ、クラウレが一瞬瞳を見開いた。予想外だというように。
「私が、知らないとでも思ったか?」
 ゆっくりと振り返りクラウレに近付くと、クラウレの顎を猫でも撫でるように指を滑らせギアンは冷たい目線で笑う。
「………」
 何か言いたげに僅かに開いたクラウレの口は、何も言う事が出来ずにまた硬く結ばれた。言い訳など、しないという事なのだろう。先代とセイロンの事を知っていたギアンだ、クラウレの事も把握していて当然というもの。
「別に…構わないのだよクラウレ?なぁに昔の事だろう?」
「はい」
「……っ」
 言い切るクラウレに、セイロンの拳が震える。
「私への忠誠をここで証明してくれれば…それでいいんだ」
「…はい。お望みの侭に」
 ギアンの前に片膝をつき、差し出された右手にクラウレは恭しく口付けた。絶対服従の忠誠心を露に。
「ふ……まるで奴隷だな、クラウ…ッ!?」
 呆れたようにそう呟いたセイロンの頬をクラウレの槍が掠めた。つぅとセイロンの頬に赤い筋が浮き上がり、流れる。
「…黙れ」
「………」
 次は外さないとでも言うようなクラウレの目つきに、セイロンも言葉を止め二人は無言で睨みあう。先程の本気の殺しあいを、またすぐにでも始めてしまいそうな勢いを醸し出していた。尤も、今のセイロンにはそれは不可能な事なのだが。
 そんな二人の睨み合を止めたのは、ギアンの言葉だ。
「それではクラウレ、早速忠誠を見せてくれるね?」
「…はい…?」
 今一度同じ事を言われ、クラウレはセイロンから視線を外す。今し方ここで忠誠を見せたはずだった。それでは主人は不満だったと言うのか。
「…なんなりと」
 クラウレはもう一度ギアンの前に跪き頭を垂れる。主人の気の済むまで忠義を誓う意思の現れだった。殴られようが打たれようが、それで主人の気が済むのなら構わない、と。
 そんなクラウレを見下ろし、ギアンの口元が歪な笑みを浮かべ、命令を下す。
「犯せ」
「!」
  一瞬、耳を疑う。
「その男を犯せ」
 それは聞き間違いなどではなくて。
「抱くのではないぞ?…犯すんだ。そして、壊せ」
 かつて愛でた者と知って尚、与えられる罰。
「できるね、クラウレ…?」
「………」
 あえて自分の前で、過去を清算させる事を強要する。少なからず動揺しているクラウレを見て、ギアンの瞳が愉しそうに細められる。これもあらかじめ用意されていた宴の肴。響宴の演目なのだ。
 そして跪いたまま返事のないクラウレに、もう一度。
「できるね?」
 クラウレを虜にする赤い瞳が微笑む。妖しく、優しく、クラウレの思考を魅了する。
「…御心の……ままに」

 クラウレはゆらりと立ち上がると、再びセイロンを見た。見下した、冷たい瞳。まるで…ギアンのような。
「…クラウレ…ッ…!!」
 睨み付ける龍人がなんと自分を詰ったか、クラウレの思考は認識出来なかった。いや、認識する事を拒んだのかもしれない。
 
 もう、何も聞こえない。すべては御心の侭に…。




→act:5



2007.02.20

 

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