「手塚はさ、結局僕なんか見て無いんだよね…いっつも」
「…え?」
「…ううん、こっちの話。それよりさ、今日この後本屋付き合ってくれるんでしょ?」
「あ…あぁ、それはかまわんが…」
「じゃあ、早く片付けちゃおう?」
「……あぁそうだな」

 もしその時の何気ない会話で、不二がいつもと何か違う事に気付く事が出来ていたなら…。

 

『見つめて欲しい』

<1>

「…起きて、手塚」
「……?」
 目を覚ますと手塚は見た事も無い部屋に横になっていた。部屋には自分と不二の二人しかみあたらないが、ここは不二の家では無い。たしか、本屋に行こうと誘われて…たしか…その後が思い出せない。
「ここがどこでもいいじゃない?」
 そんな手塚に不二が笑いかけた。いや、笑いかけたというより、そんな手塚を笑った。
「不二……」
 体を起こそうとした手塚の耳に、チャリ…という金属音が聞こえる。そして明確になってくる手足に触れる冷たい感触。
「なっ…!?」
 手塚は自分の状態を見て愕然とした。床に転がされた自分の裸体と、その手足に光る金属の枷。大の字に寝かされた格好で、身体を動かせない様固定されていた。
「ふふっ…よく寝てたね?可愛かったよ手塚」
「不…二……?」
 不二はいつものような笑顔で手塚に歩み寄ってきた。部活でいつもみる、好青年不二の微笑み。それが妙にこの状況に不自然で、限り無く違和感を醸し出す。だが手塚はそんな事より、この状況をなんとか改善したいと思う気持ちの方が強かった。
「なんで俺は…こんなとこに…それより不二、これを外してくれないか?」
「イ、ヤ、だよっ♪」
「な…!?」
 相変わらずの微笑みのまま、不二は意地悪く答えた。
「…何を考えてるんだお前はッ!?」
「何って…」
 手塚は近付く不二から無意識に逃げようしたが、 ガチャ、と鎖が揺れ、身を起こす自由を制限された。
「僕だってね、本当はこんな事したくなかったんだよ…」
 ふわりと屈んで手塚の傍らに座った不二は、強張った顔の手塚からスッと眼鏡を外した。知的で大人びた手塚の人相が、少し子供らしく柔らかいものになる。
「眼鏡をかけていない君もいいよね…うん、どっちでもいいんだ。君の瞳が好きだからさ」
 不二はその眼鏡を自分の胸ポケットに入れると、手塚の両頬に手を添え自分の方を向かせた。
「でもね…」
 不二の目尻が少しづつ吊り上がり、手塚の頬を押さえる手に力がこもってくる。
「不、二…ッ!」
「僕を見ない君の瞳は…嫌いなんだよね」
 不二の右手が手塚の顔から離され、何かを後ろ手に探り取ると、それを手塚の上にふりかざした。不二の右手に何かが一瞬キラリと光る。
「!!!?」
 勢い良く振り下ろされた不二の右手は、手ごたえのないまま床に突き立てられた。
「…反射神経いいね、手塚」
「はぁッ…はぁっ…!」
 振り下ろされたアイスピックは、 手塚の右頬を僅かに掠め、床に突き刺さっていた。咄嗟に拘束の弛んだ左側に身を返した手塚は、その凶行を寸でのところでかわしたのだ。
「……ッ…、不二ッ!!何を考えているんだッ!?」
 恐怖と動揺で息のあがったまま、手塚は不二に怒鳴りつける。怒りと、憎しみさえこもった瞳で不二を睨み付けた。
 だが不二は誰もが威圧と恐怖すら感じるその強い眼光に怯むどころか、急に顔を緩ませ、嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、嬉しいな手塚…」
「不…二…?」
「今、僕を見たよね?特別な感情で僕を、僕だけにその瞳を向けたよね?」
 とても満足そうに、嬉しそうに不二はそういうと、手塚の唇に自分の唇を押しあてた。
「ーーーッ!?」
 キスなんて初めての経験にもがく手塚を 不二は愛しそうに何度も、ねっとりとした口付けをする。
「う…やッ…め…不二ッ!」
 紅く線の走った右頬に舌をなぞらせ、その痕を舌で往復させる。愛し気に旨そうに、その体液を舐めとっていく。
「こうすれば…よかったんだね、こうすれば…君は僕を見てくれるんだ」
 ようやく手塚を解放した不二は、横たわる手塚の上に跨がった。いつのまにか不二の表情には先程見せたような殺伐とした気配は感じられなくなっていた。だがその手には、光るそれがまだ握られたままだったのだ。表情からは消えたものの、不二からはいまだに狂気の気配が漂ってくる。
「僕を見てくれるなら…どんな瞳だって構わないんだよ…」
「不二…ひっ…!」
 不二は身体を起こそうとした手塚の首にその凶器を押しあてた。そして咄嗟に抵抗を止めた手塚の身体を、アイスピックでなぞりはじめる。 少しでも力をこめれば、その皮をぷつりと突き破ってしまうぐらいの絶妙な力加減で、首筋から鎖骨、そして心臓の真上当たりに来たそれは、くるくる円を描いて其処に停滞する。抵抗すれば、暴れれば、その手に力が込められるだろう。今手塚の目の前にいる、この『不二』なら。
「……!…不二ッ!」
「…僕が恐いの?震えてるよ手塚」
 穏やかな口調と微笑みは、その右手が別人のものではないかとも思わせる。
「ふふ…殺したりしないよ?」
 つぅっ、と胸をなぞりながら、尖った針先はようやく心臓を標的から外す。不二は自分の身体をずらしながら、手塚の身体をなめるように下へ下へと降りていく。胸からは離れたものの、已然その身から離されたわけではない凶器は、手塚になおも恐怖を持続させていた。
 そして、その切っ先は辿り着いた手塚の敏感な象徴を軽く突ついた。
「!!」
 ビクン、と手塚が身体を引き攣らせる。
「手塚って、身体の割に小振りだよね…」
「よせ…不二…」
 不二が、アイスピックの角度を僅かに立てた。そして、軽く力を込める。
「うああぁッ!」
 手塚の悲鳴があがる。
「…痛い?」
 鋭利な切っ先の離された痕から、ぷっくりと紅い液体の玉が現れ、徐々に大きくなり、流れた。
 不二は手塚を指で摘みあげると、今度はその裏側にもう一度。
「ああぁッ!」
 手塚の手足で金属が瞬間的に激しく騒音をかき立てた。
「 ねぇ手塚、痛い?」
「ふ…じ…っ…!」
 涙の滲んだ手塚の瞳が不二を睨み付ける。だが不二はその視線を、うっとりとした目で受け取るのだ。
「綺麗だね、手塚の瞳は」
 手塚に残された唯一の手段の睨む事すら、不二には何の効果も成さない。逆に彼は其れを喜んで、望んですらいるのだから。
「もっと…見て欲しいな」
 不二の右手の凶器が、左手に掴み上げたその先端をちくりと刺激した。
「やめ…」
「僕だけを見て、手塚」
「やめろ…やめてくれっ…不二ッ…ーーーーッ!!」
 手塚の絶叫が部屋に響いた。

 

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2002.11.04
 鬼畜不二塚ですvまだまだ序章ですので、これからもっと痛いコトさせちゃいますv(笑)

 

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