千と一夜の地下室
第八幕「玩具の性」
目が覚めると、そこは自分には不似合いな綺麗な部屋……ではなく、お似合いな薄汚れた地下室だった。
「………。」
今までのは…夢だったんだろうか?屋敷に連れてこられたのも、祥之と過ごした日々も。…いやここはいつもの店の地下室でもなく、ベッド一つすらない本当に只の無の空間、ここはどこかの地下牢だ。
「起きたな…。」
どこからか聞こえた声は、麗蒔の背後から姿を現した。振り返った麗蒔の前には、見覚えのないその男。男は麗蒔の前髪を掴み引っ張ると、自分の方に顔をあげさせた。
「なんでここにいるかわからないって顔だなあ、自分の犯した罪わかってるか?ん?言ってみな!」
麗蒔がその手を振り解こうと体を動かした瞬間、右足に激痛が走る。
「ッ…つぅ…!」
脚の痛みと共に、麗蒔に記憶が蘇ってくる。
…そうだ、自分は祥之を殺そうとしたのだ。全ての怒りと責任を彼にぶつけてしまったのだ。自分を大切にし、求めてくれた彼に。
麗蒔にいまさらながら深い後悔の念が湧いてくる。祥之が全ての根源、でも…それは彼、祥之自身にはどうにもできない事だったのに、それを理解してあげられる程の冷静さをあの時の自分は欠いていた。祥之のせいではない、憎しみの対象は祥之ではない、と思う自分の心は、衝動的に動く自分の体をとめられなかったのだ。
「そうか……俺は…祥之を…殺そうと……」
麗蒔が自責の念にかられながらそう口にすると、突然男は口元を歪め、堅い靴の踵で麗蒔の脚の包帯を踏み付けた。
「うあああああっ!」
凄まじい激痛が麗蒔を襲う。反射的に踏み付けるその脚にしがみつくと、男は縋ってくる麗蒔の上体を蹴り倒した。
「…祥之『様』だろうが。」
「ぐう…うううぅっ…!」
後ろに転がった麗蒔は、呻き声をあげながらうずくまった。真新しい真っ白な包帯に赤い染みが浮き上がる。
「そうそう、それから答えは半分しかあってないぜ?坊ちゃんを殺そうとしたからだけじゃない、あんたはこの世に生まれてきた事自体が大罪なのさ。…しっかしまさかあの時のガキが生きてるとはねぇ…しかも母親に似て結構な美人さんだぜ全く。」
男はうずくまる麗蒔の顔を掴み、無理矢理体を起こさせ、いやらしい笑いを浮かべて言った。男の手が麗蒔の胸元に忍び込み、麗蒔の敏感な突起を指で弄び始める。脚の痛みに呻く麗蒔にそんな事しても何も感じる筈が無い事を、男は百も承知の上だ。はなから感じさせようなんて思っていない、ただ触りたいのだ。
ふと麗蒔はその男の笑いをどこかで見た事があるような気がしてきた。そう、はるか昔にどこかで……。
「…あ…!」
嫌悪感がこみ上げてくるのと同時に、麗蒔はそれを思い出した。そのいやらしい笑みを、以前に一度見ているのだ。
「お前…あの時の…!」
麗蒔は男の手を振り解こうと暴れたが、すぐに掴まえられてしまった。
「何だ…思い出したか、俺の顔を。あの時はまだガキだったが、今なら何の問題もなさそうじゃねえか…。」
男のざらついた舌が麗蒔の首筋を嘗めあげた。
「ひ……っ…!」
気色の悪い感触はあの時と何も変わらなかった。散々男を教えこまれた今となっても、この男は麗蒔の嫌悪感を逆撫でする程不快な感触を始めてもたらした男。男の手が麗蒔の服を掴み、力任せに引き裂いた。絹の裂ける小気味の良い音が静かな地下に響き渡る。
「D・K仕込みのその体をたっぷり堪能させてもらうぜ。」
残された麗蒔の衣服をナイフで器用に剥ぎ取るとその腰を自分の膝の上に持ち上げ、渇いたままの麗蒔の其処に、少しも濡れていない男の其れが突き付けられた。腕に力を込め男の体を押しのけようとしても、麗蒔より数段体格の良い男の体はびくともしない。
「慣らす必要なんか無いよなぁ、淫売さん?」
男は薄ら笑いを浮かべると強引に麗蒔を押し広げ、無理矢理麗蒔の中に侵入してきた。
「う…あ、…あぁっ!」
「…流石だな、慣らさなくても入っちまうぜ。」
男は麗蒔の体が慣れる間など関係なく腰を打ち付け始めた。麗蒔はその行為に快感を感じている様子はなかったが、男はそんな事お構い無く行為に集中している。男にとって、己の欲を満たす事が行為の目的であり、麗蒔を感じさせる必要など全くなかったのだ。
「痛ッ…くうっ!」
滑りの悪い其処を無理矢理に擦りあげられ、打ち付けられる振動で、傷付いた脚にも痛みが走る。まだ慣れきらない其処を貫かれる痛みに脚の痛みが重なり、麗蒔は呻き声を漏らす。だが少しづつ脚の痛みに慣れてくるにつれ、長年慣され過ぎた忌わしい性は、痛みの中に違う感覚を拾ってしまう。
「あ…あくっ…ん、んぁっ…!」
祥之の側に付いてから久しく行為を絶っていた麗蒔は、久しぶりの感触に過剰なまでの反応を示していた。それが相手を喜ばせるだけだとわかっていても、麗蒔の体はそれを抑える事が出来ない。麗蒔は己の淫猥な身を呪った。どんなに心が拒んでも、この体は与えられる刺激を受け入れてしまうのだ。
「はは…強姦されて感じてるのか、所詮お前も母親と一緒だ。」
自分の目の前で母親を辱めたこの男…。罵る笑いが耳に聞こえ、悔しさに唇を噛み締める。自分を育てるために身を売っていたという母も、自分と同じように心は拒絶していたんだろうか?…そう願いたい。心までも売ってしまっていたとは思いたくない。麗蒔はいつも穿たれながら虚しさと嫌悪感を拭いきれずにいる。たとえ体は相手を求めても心ではいつも拒絶していた。肌をどんなに触れあっても、安らぎ、満たされる夜は何所にもなかった。
…いや、そういえば抱かれて満たされた夜があった。心から求めて、求められて、初めて心が感じた夜が、たった一度だけ…。
「あ……利…華っ…!」
激しく突き上げられながら、麗蒔は無意識にその名を呼んでいた。今、どこで何をしているかもわからないその人を。目の前のこの男を彼に置き換えて妄想することが出来たなら、少しは気が楽になるだろう。だが麗蒔には乱暴で下品に攻め立てるこの男を、妄想とはいえ愛しい人に代える事など出来なかった。
「はっ…あぁ…ッ!」
突然男の動きが早くなったかと思うと、麗蒔は腹の中に熱い物を吐き出されるのを感じた。体の奥に注がれた其れは、去っていこうとする男のモノを追い掛ける様に麗蒔の中を逆流した。男はおとなしくなった己をら引き抜くと、満足そうに含笑いした。
「思った通りこいつはたいしたイイ具合だ、こりゃあ皆にも振舞ってやんないと罰があたりそうだぜ、なぁ?」
男は暗闇に向かって声をかけた。その時になって、麗蒔は此所にいるのがこの男だけでは無い事に気づく。暗闇に慣れてきた目を懲らすと、自分の周りを取り囲んでいる人集りが見えた。
男達の沸いた声と共に、麗蒔を囲むその輪がジリジリと縮まってくる。後ろから両腕を掴まれ羽交い締めにされ、自分では殆ど動かせない脚を強引に開かされた。さっきまで麗蒔を犯していた男と入れ代わりに、別の男が麗蒔の前に回り込んで来る。
「次は俺だ…。」
「や…!」
抜かれたばかりの其処に、別の男が侵入を開始した。先ほどの行為で解れた麗蒔の其処は、いとも簡単に其れを根元まで飲み込んでしまう。体液で濡らされた道は男の動きを助け、より素早い運動を可能にしてしまっていた。
男の激しいピストン運動に、麗蒔の体がビクビクと反応する。こんな状況に置かれても、麗蒔は感じてしまっていた。きつく唇を噛み締めそれに耐える。気を抜くと、官能の甘い声をあげてしまいそうで、酷く悔しかった。こんな奴等でも、自分は感じてしまう淫乱なのかと。麗蒔はきつく閉じた瞼の隅に痛みからではない涙を浮かべた。
「くっ…スゲェ!こいつぁその辺の安女より断然イイぜ。」
慣れた麗蒔の其処はキツ過ぎる事無く、程よい締め付けで男の物を刺激していた。かといって安い金で一晩付き合わせた女共よりも数段締まりが良く、奥行きもずっと深かった。大抵の男を満足させるには充分過ぎる程上等なのである。男は小さく呻いて身震いしたかと思うと、麗蒔の中に熱い欲望の残骸を吐き出した。
「あっ…はぁッ!」
体の中を侵食していく見ず知らずの誰かの体液。でも麗蒔にとってこんな事は別に初めてじゃ無かった。少し我慢していれば直ぐに終わる、時間が解決してくれる。でも、今は堪えるしかない。麗蒔はひたすら時の経つのを待った。
「おい早くしろ!」
「俺にもやらせろよ!」
順番待ちの男達が焦れて急かし始め、ある者は待ちきれずに自らを扱き、その放出物を麗蒔の全身に浴びせかけた。ある者は、麗蒔の口をも使おうと、その顎を掴んで無理矢理こじ開けようとしてきた。
最初は拒んでいる様に見えた麗蒔も、いつのまにか甘い吐息を漏し、口を開けた。男がここぞとばかりに銜えさせようとしたが、別の男がそれを見て制止する。
「…おい、やめとけ。」
「何?」
「見ろよコイツの目。」
言われ、男は麗蒔の顔を覗き込む。麗蒔は誘うように甘い官能の吐息をあげ、舌をちらつかせながらも、今にも喰い千切ぎってやるといわんばかりの殺気走った目をしていた。まるで、罠にかかるのを待っているように。
「…ったく危険な野郎だぜ!」
「こっちだけにしとけ、こっちは歯がねぇんだからよ。」
そう言って男は麗蒔の下の口を突き上げた。麗蒔の体が大きく揺れ、今度は演技ではない嬌声があがる。
「後ろだけなら可愛いもんだぜ。」
男達は歯のない口のみを犯す事にし、交代で次々と肉棒を差し込んだ。抜き取られた男の体液の糸が退かないうちに、次の男が麗蒔に侵入してくる。溢れ出す液体に栓をするように、麗蒔の入口は常に塞がれていた。溜まった濁液を排出する事も許されない。
僅かばかりの抵抗をしようと麗蒔の入口が、ぎゅう、と男を締め付けるが、男達は喜んでそれを受け入れた。皮肉にも麗蒔の体は男達を喜ばせるのに充分な刺激を返してしまうだけなのだ。次第に感じていた痛みも嫌悪感も薄れ、慣れ親しんだ悦楽の渦が、より強く麗蒔を支配し始める。
「……あ…ふ、はッ…あぁん…はっ…はぁうっ…」
淫猥な湿り気を含んだ音が摩擦部からしきりに漏れ、麗蒔はその音に聴覚をも刺激され、感じてしまう快楽の感覚に逆らえ無くなってしまった。揺らぐ腰が男のモノをより深く喰わえ込もうと淫らに蠢き、荒い息使いと共に甘い吐息が吐き出される。
「あ…嫌…嫌っ…あ…ぁあん…」
抗議の声は甘く伸びて、色気を漂わせ相手を誘うだけだ。
「どこが嫌なんだ?感じまくってるじゃないか淫乱さん?」
嫌なのだ。嫌なのに、感じてしまうのが、嫌なのだ。 誰と寝たって構わなかった、同じだった、あの時までは。上手い奴なら気持ちよかったし、何も考える必要もなかった。これが自分にとって当たり前の事なのだと…少し前の麗蒔ならそう思い込めたはずなのに、今はもう、そう思えない。利華に初めて触れられたあの日から、利華以外から与えられる刺激に反射的に漏れる吐息が、憎らしく、罪悪感すら覚える。
(誰だっていいんじゃない、利華じゃなきゃ嫌だ…!)
そう気付いた瞬間から、他の男に対する嫌悪感は、より露な物になった。利華以外の男に抱かれている自分に疑問を感じ始めた。それでも、いくら嫌悪しても、所詮快楽を求める体が嫌だった…。
「すげぇな、これだけ相手してもまだ良く締まりやがるぜこの淫乱さんはよ。」
激しく麗蒔の内側を掻き回す肉棒の持ち主が麗蒔に下品な罵声を浴びせるが、麗蒔には抵抗する言葉が見つからなかった。 そんな麗蒔を男達は餓えた野獣のように次々と犯し続けた。しきりに使われ、擦れ過ぎ、腫れて狭まった入口を、男達は締まりが更に良くなったと言って喜ぶ。輪された経験が無い訳ではなかった麗蒔だが、この部屋にいる人数は短時間で相手をするには多過ぎる。流石の麗蒔とはいえ、こう立て続けでは体がもたない。
「…そろそろ押さえる必要も無いんじゃないか?」
あまり抵抗しなくなってきた麗蒔を見て、背後にいた男が言った。拘束されていた麗蒔の両腕は開放されたが、男の言う通り麗蒔には次々と降り掛かってくる男達を振払うだけの余力は無くなっていた。いや、所詮最初からそんな事は不可能だったのかもしれないが。
「俺はこっちからの体位が好きなんでな。」
麗蒔の腕を押さえていた男は、麗蒔を俯せにさせて獣のように四つん這いにさせた。
「い…痛っ!」
体制を変えられ右膝に体重がかかった瞬間、衝撃が脊髄を走り抜けた。忘れかけていた傷の激痛に、麗蒔の体が床に崩れ落ちる。
「ホラ、腰もっとあげろ!」
「いッ…ううっ…」
腰を持ち上げられて膝を立てる事を強要され、麗蒔は脚を庇うように上体を床に付け、重心を前へと懸命にずらす。それでも、受けてからさほど時間のたって無い、まだ出来たての傷の痛みがそう簡単に誤魔化せるものでは無かった。
脚の痛みに気を向けていた麗蒔の剥き出しになった秘処へ、突然男の猛ったものが勢い良く差し込まれる。
「はうっ…!!」
一気に根元まで押し込むと、男は麗蒔の腰に自分の体重の殆どを預けた。更に深部まで肉根がめり込むのと同時に、必死に体重をかけまいとする麗蒔の脚に、男の体重が容赦なくのしかかった。
「うあっ…うあああッ!」
暴れる麗蒔の上半身を数人の男が押さえつける。男は麗蒔の腰を押さえると、揺さぶりながら前後に動かした。
「ひアッ…痛ッ……うああぁっ…!」
「こっちの方が奥まで入ってイイだろ?」
皮膚を叩くような音と共に麗蒔の悲鳴があがる。今の麗蒔には後ろに受ける刺激よりも、傷の痛みの感覚の方が勝っていた。脚に巻かれた包帯の染みが、じわじわと拡大していく。暴れる麗蒔の体を押さえようとした一人の男が、包帯の上から無造作に麗蒔の脚を押さえ込むと、その拍子に男の太い親指が麗蒔の銃痕にズブリと喰い込んだ。
「ヒッ……ぎゃああああああぁッ!!」
麗蒔の体が狂ったように暴れ、瞬間的に凄い力で押さえ付けていた男達を瞬時に跳ね飛ばし蹲った。さすがにこれには男達も驚いたが、手に付いた染みにその行動を理解する。
「おっと、こいつは少し失礼したかな?」
「…うっ、ううっ…うぅーーっ…!!」
「どれどれ傷を見てやろうか。」
男はネコでも掴むように蹲る麗蒔の首元を掴み、無理矢理起こすと、鮮やかな赤い色を散らす箇所から麗蒔の手をどけさせ、赤く染まった布を乱暴に剥ぎ取った。綺麗に治療を施されていたはずの箇所からは、痛々しく紅い体液が沸き上がって来ている。
「こんなものは舐めておきゃ治るぜ。」
別の男がそう言って傷口に舌を当てると、旨そうに麗蒔の血を舐め始めた。
「ーーーッ!!」
男の舌が、まるで秘処を弄ぶかのように執拗に傷口を嘗め回す。舌先を尖らせて傷口に埋め込まれる度、麗蒔は喉が裂けんばかりの悲鳴をあげる。
「…どうだ、ここにも一本入れてみるか?」
さんざん麗蒔をいたぶった後、口の周りを血だらけにしながら、男はにやりと笑い、自らを麗蒔の傷口ににあてがった。
「……!!」
麗蒔の顔は恐怖に引き攣り、必死に抵抗をする。男はその麗蒔を見て声を立て笑って言った。
「冗談に決まってるだろ、入るか馬鹿。」
男にとって冗談だったとはいえ、こいつらなら本当にやり兼ねないと麗蒔は思った。笑う男達に殺意すら覚えながら、麗蒔は憎しみと痛みに歯を食いしばる。 麗蒔の怪我を労る事など勿論無く、行為は再開された。痛みに必死に堪える麗蒔の手が、コンクリートの床を何度となく掻きむしる。爪がはがれて血を流しても、それに勝る痛みの比ではなかった。薄れていく快楽の感覚は反比例して再び痛みに置き換えられ、これは性行為ではなく一方的な暴力である事を再認識するのだ。
それでも時間というのは経つもので、キリがないと思われた男達も次第に満足して部屋を出、その数に終わりが見えてきた。そして最後の男の廃物を体に受け留めた時、麗蒔は脱力感と共に惨めな安堵巻を覚え床に崩れ落ちる。
(ようやく…終わっ…た……。)
その時、部屋…いや牢の戸が開き更に数人の男達が入ってきた。その人数は、最初にいた人数とほぼ同数位に見受けられる。
「こいつか?」
「ああ、最高の抱き人形だぜ。」
「それじゃ遊ばせて貰うとするか。」
スーツ姿の男達が上着を脱ぎ捨て、麗蒔に近寄ってきた。既に事を終え満足した男が、他の男達を呼んできたのだ。これからくり返される行為に確信と絶望を持って麗蒔は恐怖した。
「う…嘘…」
「たっぷり楽しませろよ美人さん?」
脅える麗蒔の上に数人の男の影が重なっていく。
「いや…嫌だ…もう嫌ーーっ…!」
地下室に麗蒔の泣叫ぶ声がいつまでも響いていた。
「…ここか…。」
利華は、とある建物の前に脚をとどめていた。 奴に渡された資料によると麗蒔を連れ去ったのは、暗殺や代理犯罪を金で引き受けるという、この国でも有数の裏組織。表向きは建設会社やホテル、不動産等の経営という事で登録されているらしいが…まぁその辺の難しい事は良くわからないけど。
利華は生唾を飲み込むと深呼吸した。これから自分が相手にしようとしている所は半端な組織ではない。勿論、これはあいつの偽情報かもしれないという疑いをぬぐい去る事は出来ないが、手がかりは今はこれしかない。利華は呼吸を整え、正面玄関に足を進めた。
「当社にどんな御用件でしょうか?」
玄関の自動ドアをが開くと、受付の女性が利華に会釈してきた。資料によるとここはたしか不動産のエリア。不審に思われない様何か適当な事を言ってその場を凌がなくては。
「あ、えっと…部屋、そう!部屋借りたいんですけど…。」
「ではこちらにどうぞ。当社お勧めの物件がいくつかございまして、御契約はこちらで…」
咄嗟に言ったでまかせの内容が良く無かった。受付嬢は利華の隣に並んで歩き、いろいろと説明を始めた。偵察がてら館内に入った利華にとって、彼女に付きまとわれるのは都合が悪い。
「あー…いや、今日は見に来ただけ!…あ、その辺の壁に貼ってある物件広告見てまわってもいいかな?一人でいろいろ探してみたいんだけど。」
「ええ、結構ですよ。物件が決まりましたらあちらのフロアの者にお申し付け下さい。ではごゆっくり御覧になって下さい。」
受付嬢は人当たりの良さそうな営業スマイルでそういうと、この館内での自分の定位置に戻っていった。そして後から入ってきた客に同じ事を言っているのが見えた。
とにかく利華は、館内を自由に歩き回る時間を得たのだ。
「ここに間違い無く麗蒔がいる…見つけてやる、絶対に。」
そうは思ってみたものの、こうして見まわしてみてもなんら普通の企業と変わりはない。やっぱりここは麗蒔を連れ去った奴等とはなんの関係も無いのかもしれない、なんて事も考えてしまいたくもなる。それもその筈、実際正面から乗り込んで何か裏の事がわかるなんて事はあり得ないだろう、普通。それでも、そうした小さな可能性から攻める事しか手がかりを掴める見込みはない。
広い館内を埋め尽くす物件広告を見てまわるフリをしながら、利華はすこしづつ建物の奥へと足を進めた。ふと、目についた『関係者以外立ち入り禁止』のドア。利華は中から一人の従業員が出てきたそのドアに鍵がかかっていないのを確認すると、他の客の影に身を隠しながら人目を盗んでその戸に滑り込んだ。
(よし、成功…)
それは誰の目にも触れずに侵入成功、と思った瞬間だった。
「どうなさいましたお客様。」
「わっ!?」
開けた戸の向こうに、気配も無く男が一人立っていた。
誰もいないとちゃんと確認したと思ったのに!?
「こちらは関係者以外立ち入り禁止となっております。」
「あっ…とぉ、便所かと思ったんですけど……。」
自分でもものすごく見え透いた嘘を言ってしまったようで、ごまかすつもりが逆に墓穴を掘ったような気がしてならない。 男は暫し無言で利華を見ていた。
「お手洗いは受付の左手にございます…御案内しましょう。」
「あ、い…いや、結構!」
妙な沈黙の後、利華を誘導しようとした男に何か不自然なものを感じ、利華は体が緊張した。早くこの場から立ち去らなければという気になった。心臓の鼓動が急に速まり、汗が浮き出てくる。どこかで感じたような嫌な汗。
慌てて引き返そうとする利華の横に、男は音も無く回り込んで来た。そして利華の横で表情のない顔に口元だけ営業スマイルを浮かべて言った。
「お客様…こちらに何をお探しにいらっしゃったんですか?」
男の言葉は全てを見すかしたようで利華はゾクリと寒気がした。そうだこの感覚、この男『あいつ』と同じ空気を放っているのだ。まちがいない、ここは麗蒔を連れ去った組織。この屋敷、このドアから先は一瞬たりとも気を抜いてはいけない『裏世界』なのだ。あまりにも普通っぽい館内に少し油断し過ぎていた。利華の肩に、男の手がすぅっと延ばされる。
(ヤバイ…!)
本能的にそう感じ、後ろ手に取っ手を掴みその場から逃げようとした時、通路の奥から激しい怒鳴り声が聞こえた。
「待てッ!知ってるんだろッどこだっ、何所にやったッ!!」
「!?」
激しい剣幕で通路から男が飛び出してきた。怒鳴り声の持ち主はまだ少年っぽさを残す小柄な男だった。男はそう言うと利華の方に、いや正確には利華の隣に立つ男の方に近付いて来た。
「…これは坊ちゃん、いかがなされましたかな?」
いつのまにか利華に向かって延ばされていた手は消え、男はそれまで放出していた威圧的な空気を瞬時に取り払い、へりくだった物言いでその小柄な男に一礼した。どうやらこの小柄な男はこれでもこの隣の男よりはお偉いサンらしい。
「とぼけるなッ!!何所にやったんだッッ!!」
「私には何のことかさっぱり…それより坊ちゃん、お客様の前でそのような振る舞いは感心できませんな。」
「ごまかすんじゃねぇっ!」
坊ちゃんと呼ばれた男は、利華の横にいた男の胸ぐらを掴むと、凄い形相で男に組みかかっている。これはチャンス、逃げるなら今である。二人がもめてる隙に利華は、そぉっとドアから出ようとしていた。
「いいから言え!何所だ…麗蒔はどこなんだッ!?」
「麗蒔だって!?」
利華はその言葉に耳を疑う余裕も無く、思わず振り返り声をあげてしまっていた。こっそり逃げようとしていた男の行動としては、あまりにも稚拙な反応。利華自身も驚いたが、それを聞いて一番驚いたのは、坊ちゃんと呼ばれた男の方だった。びっくりした顔で利華に言った。
「……お前、麗蒔を知っているのか?」
利華は聞き間違いなどではなく確かにこの男が麗蒔と言っていることを再確認する。あいつの情報は嘘ではなかったのだ。意外と早くに辿り着いた突破口に、利華は興奮気味に言った。
「お前こそ麗蒔を知っているのか?知ってるんだな!?」
小柄の男は利華を暫くじろじろと見回し、そして納得したように頷いて言った。
「……そうか、お前が……『忘れ物』だな?」
「え?」
「俺は……」
小柄の男は何か言いかけたが、急にハッとして辺りを見回す。気付くとさっきまで其所にいたはずの男が忽然と姿を消していた。おそらく利華に注意がそれた隙に逃げたのだろう、さっき利華がそうしようとしたように。しかし人が立ち去る気配は全く感じなかったのだが。
「うああッ!!逃げやがったなあの野郎〜〜ッ!!」
悔しそうに壁を蹴っているこの男は、麗蒔を探す手がかりになるだろう事を利華は確信した。聞きたい事が山程有る、今は手の付けようもない程に気が立っているその男の気がおさまるのを利華は暫し待った。
暫くして漸く気がおさまったのか、小柄の男は少し落ち着いて利華の方に向き直った。利華を見つめ何か考えていたようだったが、利華が口を開くより先に、彼の方から口を開いてきた。
「お前…………俺と来い。」
「何?」
通路の奥から数人の足音がこちらに向かってくる気配がした。
「いいから来い…ここじゃマズイんだよ。」
小柄の男はまわりを見回すと小声で利華に耳打ちした。
「…………………………わかった。」
ここはいわば敵の本拠地。そしてその中にいながら、いわれるがまま見ず知らずの奴の後に付いていっている利華の姿があった。こいつは敵なんじゃないんだろうか?そうも思わないでも無いが、それでも何故かこの男を信用しようとしている自分がいた。
それは、こいつからはさっきの男のような嫌な気を感じない事と、そして何より、彼の目が自分と同じ物を探し求めている様にみえたからなんだろう。
「失神したのか?」
「いや、まだ意識はあるさ。」
麗蒔の腹は吐き出された男達の欲望で満たされ、目で見てわかる程に膨れ上がっていた。擦られ過ぎた其処は腫れて内側の粘膜が真っ赤に捲れあがり、擦り切れた柔肉から流れる体液は男達の廃物と混じり綺麗なピンク色の液体となり、ドロドロと麗蒔の内股を伝い流れていく。
「3ヵ月だなこりゃ。」
「…がはッ!」
仰向けに力無く横たわる麗蒔の腹を一人の男が踏み付けると、中に詰め込まれた液体が勢い良く溢れ出してきた。男は面白がってその腹を何度も踏んだ。次第に吹き出す液体の勢いは弱まり、麗蒔の腹は元の平らな状態に戻っていくが、そのかわりにその足下にはおびただしく大量の濁液の海が出来ていった。
「随分汚くなったな…少し洗ってやるか、これじゃヤる気も起きねぇや。」
男の一人がそういうと牢の外からホースを引っ張って来た。ホースの先を指で狭め麗蒔に向けると、流れてきた水が勢い良く飛び出してきて麗蒔を襲った。
「ひあッ!」
あまりの冷たさと痛いくらいの水勢に身をかわしたくても、思う様に動けない体はその攻撃をただ受け止める事しか出来ない。麗蒔の体にこびり付いた白い汚れを、水の勢いが強引に削ぎ落としていく。男は麗蒔のガバガバに乾きついた髪に乱暴に爪を立て、ぐしゃぐしゃに掻き回して洗った。
「痛ッ!痛い!」
麗蒔のサラサラの髪が、ブチブチ音を立てて何本も男の指に絡み付いて切れていく。
「…そうそう、此処も洗ってやらないとな。」
側にいた男に指図すると、その男は何かを取りに部屋を出た。そして戻ってきた男の手には、先端に丸く堅いタワシのような物のついた柄の長いブラシが握られていた。
麗蒔は両脇を抱えられ立ち上がらさせられた。既に麻痺して痛みの感覚も殆どない傷付いた右足と、ガクガク震えて立てたもんじゃない左足は、かろうじて床に付いているだけで体重を支える事なんて出来なかった。麗蒔の体を持ち上げている男達はその脚を左右に軽く開脚させる。
「な…にを…」
ブラシを受け取った男はその先端に洗剤をたっぷり付けると、麗蒔の脚の間に押し当てた。
「なぁに、綺麗にしてやろうってのさ。」
あまりに肌触りの不快な物体が麗蒔の内股に触れ、敏感な箇所に触れる。
「や…嫌ァーーッ!」
男が力を込めると其れはそのまま体内に強引に差し込まれた。先端の堅いブラシが麗蒔の傷を擦りあげながら前進してくる。
「い、痛っ…痛いぃっ…!」
「綺麗にしてやるっていってんだからこのぐらい我慢しな!」
そう言って男はブラシを更に奥に押し込んだ。
「ひッ!」
ビクンと麗蒔の体が仰け反った。崩れそうになる麗蒔の体を両脇の男がしっかり支えた。
「しっかり立ってろ!」
言うと、上下に激しくブラシを擦り麗蒔の内側を洗い始める。
「あ、うあッ…痛っ、あぁっ!や…いあぁっ!!」
其れは麗蒔の内側に細かい傷をたくさん付けながら無遠慮に出たり入ったりした。くちゅくちゅと洗剤が泡立つ音と共に、ピンク色の泡が麗蒔の足下にボタボタ墜ちていく。
「ひあっ!ひ…うっ、はァッ!!」
柄の長い掃除用具は、麗蒔を容赦なく突き上げる。奥まで突き上げては入口寸前まで引き抜き、また内部を擦りながら奥まで突き入れた。この行為に快感と呼べる感覚はどこにもない。
「次はこいつだ、ちゃんと濯いでやらないとな。」
漸く抜き取られたブラシのかわりに、今度は麗蒔の其処には先ほどのホースが押し当てられ、中に挿入された。
「ーーーーっ!?」
冷たい水が勢い良く体内に注ぎ込まれる。腹の中を一気に逆流してくる液体は、一度は平らになった麗蒔の腹を、再びみるみる内に膨らませていった。
「う、ああっ…苦…しッ…!」
麗蒔の腹が臨月に近くなった頃、男は口に笑みを浮かべ差し込んでいたホースを一気に抜き取った。
「…嫌ぁーーーーッ!」
途端に麗蒔から激しく水が噴き出した。内臓を洗浄した汚水がバシャバシャと滝のように足下に流れ落ちる。男はホースの水でその濁液を部屋の隅の排水溝に押しやりながら、なんとも愉快そうに笑い声をたてていた。かつてないほどの屈辱と…恥辱。
麗蒔はそのまま、現実から逃避するように意識を手放した。